【高齢者も使えるデジタル化】コロナ禍でのWeb問診を実用化した医療ベンチャーの知恵──
財界オンライン / 2021年9月10日 15時0分
「どうすれば、電話がパンクする可能性と事務業務量の増大という課題を解決できるか。インターネットで検索し、片っ端から電話をかけて、このサービスに辿りつきました」──。こう語るのは秋田県由利本荘市の『たにあい糖尿病・在宅クリニック』の谷合久憲院長。コロナ禍で高齢者も使えるデジタル化を進め、ワクチン接種、さらには新型コロナの患者にも対応。地域の医療を守るという医師の執念と医療ベンチャーのタッグによる医療のデジタル化とは──。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
地方の小さなクリニックが
スムーズにワクチン接種を完了
「当初、ワクチン接種は3時間半の予定で組んでいましたが、2時間かからずに終わりました」
こう語るのは秋田県由利本荘市『たにあい糖尿病・在宅クリニック』(以下、たにあいクリニック)院長の谷合久憲氏。
同クリニックは6月中旬からワクチン接種の予約を開始。通常の診療を維持しながら、どうすればワクチン接種ができるのかという模索から始まった。
「クリニックの患者は高齢者が多いのでWeb問診には否定的でした。ただ、ワクチン接種をするには電話がパンクする可能性があること、事務業務量が増大するという課題があり、それらを解決するにはWeb問診もありかなと思い、インターネットで調べ、片っ端から問い合わせをして、カスタマイズできるこのシステムに辿りつきました」
そのシステムとは、メディアコンテンツファクトリー(以下、MCF)のクラウド型Web問診システム『SymView(シムビュー)』と電話自動応答システム『iver(アイバー)』。
新型コロナウイルスのワクチン接種では患者の服薬状況や病歴、持病などで「15分待機」と「30分待機」に分かれるが、この振り分けが混乱し、重複接種してしまう事故も発生。
そこで、たにあいクリニックでは、こうした事態が起きないよう、振り分けを自動で判定できる仕組みを構築した。
まず、クリニックにかかってくる電話を自動応答システム『iver』で対応。用件によって電話を分け、ワクチン接種の問い合わせにはショートメッセージ(SMS)でURLを送り、Web問診の『SymView』に誘導。
接種希望日やアナフィラキシーショックの有無、定期薬を飲んでいる場合は「お薬手帳」を撮影してもらうなどして一定の条件に当てはまる「30分待機者」を自動で判定。事前に振り分けができたため「15分待機者」と「30分待機者」の接種日を別日に設定。煩雑な事務作業も、当日の混乱も避けることができた。
また、SMSを送れない固定電話などからの問い合わせには、FAXや折り返しの電話で対応。
さらに、ワクチン接種以外の”救急受診”や”在宅患者の死亡の知らせ”などの重要な電話は『iver』の管理画面で確認できるため、クリニックから折り返しの電話をして対応した。
「すべての電話に折り返しをするのは不可能なので、管理画面で層別化できたのは大きかった。自動応答でワクチン接種の予約を受けながら、新患の患者さんなど重要な電話にも対応することができた」と語る。
7月末には、コロナの疑いのある患者を診察。『SymView』の発熱外来問診をカスタマイズして活用し、後日、患者の陽性が判明。Web問診の結果を紙で保健所に提出すると、保健所が患者にヒアリングしなければいけない内容が既に記載されており、「迅速に対応できた」と保健所からも感謝されたという。
たにあいクリニックがワクチン接種やコロナ禍の診療をスムーズにできたのは、電話を窓口に、Web問診できる人はそちらへ、不慣れな人には別の方法で対応できるようにするなど、使い慣れた既存の道具を活用しながらITサービスを導入したからといえる。
「どうやったら患者さんに必要な医療を提供できるかを考えたら、既存の仕組みとITの組み合わせになった。担当者とZOOMの打ち合わせで、カスタマイズしながら仕組みを作っていったので、最後は人の力なのだと思います」と谷合氏は語る。
アフターフォローができる医療の仕組みを
「患者さんと医療機関のコミュニケーションをデジタルツール等を活用してスムーズにしていくことを事業領域にしています」
『SymView』『iver』を提供するメディアコンテンツファクトリー代表取締役社長の毛塚牧人氏は事業について、こう語る。
同社は1998年、医療機関向けのデジタルサイネージサーサービス『Medicaster』で創業。毛塚氏は、PwCコンサルティング(現IBM)、エムスリー子会社のアイチケットを経て2008年メディアコンテンツファクトリーに入社。代表取締役に就任。『SymView』や『iver』などクリニック向けのサービスを拡充。『SymView』は開始2年で約700の施設が利用している。
その他、患者と医療機関の接点を強化すべく、医療機関のHP制作やLINEの運用支援サービスも手掛けている。
「LINEや電話(iver)など、患者の初期の接点部分をアナログからデジタルに換えていくプロダクトが揃ってきた」が、毛塚氏が目指すのは、その先のかかりつけ医と患者との”カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)”の構築。
今は「外来で来たタイミングでしか患者とコミュニケーションが取れておらず、アフターフォローができていない。そこをテクノロジーで解決していきたい」と構想を語る。
例えば、風邪で来院した患者に数日後「薬がなくなり、熱が収まっている頃合いですが、どうですか? 」というメッセージを送り、イエス/ノーのボタンを押して、現在の症状を伝えられるようにするといった形だ。
かかりつけ医が機能していない日本だが、「テキストコミュニケーションが普及すれば、1人の医者が多くの患者を診ることも可能になると思います」とかかりつけ医の活躍に期待する。
医療は身近な存在であり、死生観にも関わること。だからこそ「自分が納得できるサービスを受けられることが重要」だと毛塚氏は考える。言い換えれば、信頼できるかかりつけ医との関係構築が、納得ゆく医療につながるということだ。
医療費の増大、少子高齢化など医療のあり方が問われる中、医療機関と患者の関係を密接にすることで、あるべき医療のカタチを追求している。
AIで女性医療を変える!ソニー出身女性起業家
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