【株価はどう動く?菅下清廣氏に聞く】今後はデジタル関連、バイオメディカル関連の企業を注目すべき局面に
財界オンライン / 2021年9月19日 11時30分
「コンドラチェフの波」の「特異点」とは?
─ コロナ禍によって、世界経済の動きも混沌としています。米国経済は比較的堅調ですが、中国は民間企業を規制する動きに出るなど先行き不透明です。世界情勢の先行きをどう見ていますか。
菅下 私は世界情勢もマーケットも「波動」、サイクルを基本に考えています。「万物は流転する」と言いますが、あらゆるものにサイクルがあります。
日本の宇宙開発の父とも呼ばれる糸川英夫氏が『復活の超発想』(徳間書店)という著書の中で「コンドラチェフの波」を研究、分析した結果を紹介しています。
このコンドラチェフの波は基本的にはインフラ投資、技術革新の波と言われ、50~60年に1回やってくるとされています。そして上昇の30年、下降の30年で一つのサイクルを形成していると糸川氏は指摘しています。
そして糸川氏は、1990年がコンドラチェフの波の下降期の最終年だったと言っています。株で言えば「底」ですが、これを「特異点」と呼んでいます。
─ この特異点では何が起きていると?
菅下 パラダイムシフト、今までの世の中を変えるような出来事が起こるとしており、1990年には実際に起きています。それが東西冷戦の終結、日本で言えばバブル経済崩壊です。
糸川説によると、そこからの30年はコンドラチェフの波の上昇期になりますが、この特異点がいつかというと2020年でした。私は20年に世の中を変える出来事が起きるかもしれないと警戒していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大が起きたわけです。そしてコロナによって今、パラダイムシフトが起きています。
─ そうすると、2021年からは下降期の30年に入っているということですね。
菅下 ええ。ですが、コンドラチェフの波は上昇期がよくて下降期が悪いというわけでもないんです。ただし、それぞれに特徴があります。
下降期には技術革新が起きたり、世界を震撼せしめるような疫病の流行、さらに大きな戦争や紛争が起きるとされています。
実際には、1970年代から始まった情報通信革命、デジタル産業革命の最終局面でもあり、あらゆるものがデジタル化される30年になる可能性があります。
そしてコロナ禍が終わったとしても、次の新たな疫病が起こる可能性がありますから、それに備えて世界はバイオメディカルに英知と資本を結集させるでしょうから、この分野でも技術革新が起きるでしょう。
その意味で、投資家としてはこの後花開くであろうデジタル産業革命の波に乗る企業、バイオメディカル、ライフサイエンスの最先端企業に投資していくことが大局観になります。
─ 前回の特異点には東西冷戦の終結がありましたが、足元の国際情勢も不透明感がありますね。
菅下 ええ。1989年まで続いてきた東西冷戦が終結し、90年からの30年、世界はデタント(緊張緩和)の時代でした。次の30年は米中対立もあり、再び世界は緊張の時代に入っています。この対立が最終的に軍事紛争に向かうかはわかりませんが、テクノロジーの覇権をどちらが握るかということで、経済闘争は激化します。
米ソの冷戦下では、両国が正面衝突するような戦争は起きませんでしたが、「キューバ危機」のような一触即発の事態はありました。今回の米中対立では台湾、朝鮮半島に有事の火種がありますが、危機は起こり得るというのが大きな流れです。
再び「日本の時代」がやってくる?
─ 大きな時代の流れの中で、日本の今後をどう見ますか。
菅下 私は日本には大いにチャンスがあると見ています。80年代まで日本経済は好調で、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われましたが、これには米ソ冷戦の中で「漁夫の利」を得たという背景もあります。それがなくなったデタントの時代、新しい時代に日本は対応できず、バブル崩壊につながった。
一方、米中対立の中で日本は日米同盟に基づいてアメリカとの関係はいいですし、中国とも歴史的に様々な背景はあるものの、多くの期間で良好な関係を築いてきました。先進国の中で唯一、両国と対話ができ、ビジネスができる国が日本です。再び日本の時代がやってきてもおかしくありません。
─ その理由は?
菅下 前回のジャパン・アズ・ナンバーワンの時代は、ハードウェア、モノづくりの時代でしたから、日本は自動車、テレビなどの大量生産、技術革新で成功しました。
今はハードウェアの時代が終わり、ソフトウェアの時代になっていますから、人間の精神や心情に訴えかける分野で日本が活躍する可能性があります。
日本でも9月にデジタル庁が発足します。この後、菅政権が続投してもしなくても(9月3日に退陣表明)、政権を担った人達は日本が生き残るためにもデジタル革命を起こさざるを得ません。
少子高齢化を乗り越えるためにも、これまで1000人でやっていたことを100人、10人でできるようにする必要がありますし、効率化だけでなくイノベーションを起こすことが日本の命題です。それができなければ、日本は先進国に残ることができません。
─ 中国経済の今後をどう見ていますか。
菅下 中国は18年の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で国家主席の年限を廃止しましたが、ここが習近平氏のピークではないかと見ています。
今年、中国はアリババグループなどのIT企業を規制していますが、「中国という株」は今年を持って天井を付けたと言っていいと思います。
─ 日本、アメリカにとって中国は最大の貿易相手国ですが、そこが沈むと陰に陽に影響が出てきますね。
菅下 ただ、中国はゆっくり沈んでいくと見ています。時間をかけて、世界は中国相手のビジネスを見直していくことになるでしょう。その代わりに日本などアジアの先進国に世界のマネーが向かうことになります。
日本の株価の行方をどう見るか
─ その中で、日本の株価の行方をどう見ますか。
菅下 今申し上げた流れに乗って、日本の株価はいずれ上がり出します。日経平均は1989年12月末に付けた最高値・3万8195円を突破する、あるいはそれを目指す動きになると見通しています。
今後、米中対立が激化すると、先進国のマネーはアメリカに集中しますし、現に今、そうなっています。アメリカはインフレになりつつあり、GDP(国内総生産)の成長率も6%を超え、金利も上がり始めています。
しかし、アメリカの30年もの、10年ものの国債の金利は下がっています。なぜか。それは世界のマネーがアメリカに殺到して、米国債を購入しているからです。
債券は価格が上がると利回りが低下しますから、今は債券高の株高となっています。これは今まで中国など新興国に向かっていたマネーがアメリカを目指していることを示しています。
いずれ、アメリカに向かっているマネーの一部は日本に還流してきます。なぜなら、アメリカの次に安全で、株価が割安な国が日本だからです。
─ 世界の投資家が改めて日本を評価するようになる?
菅下 ええ。安全に加えて、日本には技術があります。第2次世界大戦で焦土となった日本が、わずか半世紀で経済大国にまで上り詰めた理由は様々な分野における技術力です。
もう一つ、日本には世界に冠たる良質な国民がいます。世界から比べて、その水準は信じられないくらいに高い。これは11年の東日本大震災でも証明されました。
多くの人が帰宅困難になり、駅で寝泊まりしましたが、誰1人強奪する人はいませんでしたし、アメリカの空軍が三陸にヘリで物資を運んできた際にも、物資に殺到することなく、きちんと整列して待っていた。しかも、物資を全ては受け取らず「他に困っている人に配って下さい」と言ったそうです。
これらは一つの例ですが、こうした日本が持つ徳、潜在力は、リーダーが適切な政策を取れば、全て顕在化してきます。
─ その意味で、政治家のリーダーシップが問われますね。
菅下 そう思います。近年では安倍晋三首相は経済政策「アベノミクス」で日本経済を蘇らせ、デフレ状況から一歩脱出させました。
日本の株価はアベノミクスが始まった時には8000円、18年には2万4000円と3倍になりました。それを継承した菅政権にもアベノミクスのような経済政策が求められましたが、残念ながら出ませんでした。
─ 日本の株価は8月末現在、足踏みが続いています。
菅下 今、日本の株価がなぜ上がらないかというと、やはりコロナ感染拡大があるからです。誰もが実体経済がどんどん悪化していると感じています。今の相場は「コロナ本位制」です。ワクチン接種が進むアメリカの株価は上がっています。
菅政権は遅くとも11月くらいまでにはワクチンが行き渡ると言っていますから、それが本当ならば株価は秋口から上がります。
もう一つは日本の政治が、この後どう変わるか。秋口には選挙が行われる見通しですが、この選挙で誰が首相になり、どういう内閣が構成されるか。新内閣がデジタル産業革命を目指す政策や、米中対立の中で漁夫の利を得るような外交政策を打つことができるかどうかです。
─ 今後のデジタル産業革命の中で注目している企業は?
菅下 やはり今までなかったようなサービス・商品を提供している新興成長企業です。例えば、ベネフィット・ワン(2412)、SHIFT(3697)、GMOペイメントゲートウェイ(3769)、ベクトル(6058)、ピアラ(7044)、Ubicomホールディングス(3937)などです。
彼らが新たな技術革新の波に乗ることができるビジネスを生めるかです。デジタル、グリーン、バイオなどの分野から有望ベンチャー企業が日本にどれだけ出てくるか?特にIPO(新規株式公開)銘柄に期待しています。
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