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不動産仲介がDXでこれだけ変わる! 住友不動産販売が進める新・仲介戦略

財界オンライン / 2021年9月23日 7時0分

住友不動産販売の本社が入る新宿NSビル

電話、FAXが主流の業界にあって…
「不動産の売り主様は早く、高く売りたい。それをより確実に実現するために、これまでも必死に取り組んできたが、ものすごい労力がかかっていた」と話すのは、住友不動産販売代表取締役兼副社長執行役員流通営業本部長の青木斗益(ますみ)氏。

 2021年9月2日、住友不動産販売は取引先である6000社の宅建業者に対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して、本社が物件情報を一括で発信。業者による入札を経て、顧客に業者買い取り価格の最高値を提示、購入申し込みを一元的に受け取る仕組み「ステップオークション」を本格導入した。

 従来は個別の営業店ごとに、地元の宅建業者数十社に対して、電話やFAX、メールを使って物件を紹介していた。これは他の不動産大手、中小の不動産会社でも同様の状況。

 だが、「人力」による対応には限界があった。「宅建業者さんの物件の内見、電話による問い合わせが営業店に個別に、頻繁に入るため、対応にかなり時間を割いていた。これを本社一元管理にすることで、スピーディーで、合理的な仕組みにすることができた」と青木氏。

 この仕組みによって生まれた時間を、今後は不動産の個人の売り主、買い主へのサービス向上に当てる狙いがある。現在、ビジネスモデル特許を出願中。

 この仕組みの検討が始まったのは、青木氏が住友不動産から住友不動産販売に移った18年頃のこと。「売り主様の利益を損ねない仕組みを実現する」がコンセプトになった。本格導入を決めたのは今年の春から夏にかけてのことだった。

 21年7月から、空地・空き家、居住用の土地・戸建てと徐々に取り扱いの幅を広げ、9月からマンションを取り扱うなど本格導入を開始。10月からは収益物件、事業用物件を含め、全物件にこの仕組みを導入する。

 ある意味で、住友不動産販売が培ってきた不動産仲介の仕組みを変える取り組みでもある。これまで個々の営業店は、地元の物件情報に精通し、宅建業者とのつながりを深めてきた。ただ、前述のように紹介できる物件数に限りがあったことも事実で、見逃してきた物件もあった可能性がある。

「各支店は確かに地元に根付いた情報を持っているが、それとは全く違う観点で、例えば別のエリアの宅建業者さんが開発に興味を持っているかもしれない。物件に対する門戸を広げていこうということ」(青木氏)

 これまで埋もれていた物件に光が当たる可能性が出てきたということだ。不動産経済研究所企画調査部主任研究員の松田忠司氏は「今回の住友不動産の取り組みは、取引を活発化させる狙いがあるのだろう。質の高い物件の動きがさらに早まるのはもちろん、より広域に情報を出すことで、これまで埋もれていた物件が動き出すことも期待できる。売り主にとってメリットは大きい」と指摘する。

 実際にシステム導入以降、従来よりも高い価格、速いスピードで成約したり、長期間売れなかった売り主の物件が、あっという間に売れたりといった事例が出てきている。「情報を出して数時間で決まることもあるなど、我々の想像以上に動きが速い」

 例えば、「市街化調整区域」は人が住むための住宅や商業施設の開発が原則認められていないエリアだが、それを見越して土地を安く売り出しているのに、なかなか決まらないというケースがあった。だが、このシステムに載せたところ、「資材置場として使いたい」という、これまで想定していなかったニーズを持った業者が現れて成約に至ったという。

 住友不動産販売と取引のある宅建業者にとっては、これまでの支店から来ていたものとは違う、大量の情報と接することになる。「基本的には、新しい仕組みに対する反応はいい。我々の情報量は全国的にも最大級。その情報が一気に送られるため、宅建業者さんの中には、当社向けの専用窓口をつくりたいという声もある」と青木氏。

 現在も、宅建業者が求めるスペックの物件情報を送る仕様になっているが、今後さらにニーズを絞り込み、細分化した情報提供も必要になる可能性がある。

 支店の営業担当者の働き方も当然変わっていくだろう。前述のように、今までの支店の営業担当は、宅建業者とのやり取りの時間が長かったが「営業担当者も、それが当たり前だと思っていた」(青木氏)。その時間を今後は個人の売り主、買い主に振り向け、満足度を向上させることを目指す。

 青木氏は「個人営業がしっかりできなければ、我々に未来はない」という危機感を持つ。「個人のお客様同士を結びつけるのが我々の本来の仕事。原点回帰が必要」と社内に訴えてきた。

 また、不動産業界はDXが遅れている業界だと言われている。前述の通り、特に中小不動産会社では今も電話、FAXが主流。さらに不動産の性質上、1つとして同じ物件はないため、個別対応が必要なことも要因。「『昭和』が続いているというか、旧態依然な面がある。我々もこれまでは年間4万件近くの取引を、全て人力でこなしてきた」と青木氏も言う。

 ベンチャーでDXに取り組むところもあるが、途中で頓挫したり、業界全体の動きになっていない現状の中で、住友不動産、住友不動産販売という大手が、業界に一石を投じた意味は大きい。業界の他社も今回の取り組みを注視しており、成果が出るとなれば追随する可能性もある。「人」が長年培ったノウハウとテクノロジーを融合させられるかが問われる。

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