【私の雑記帳】日本が迎えた「第2の改革期」
財界オンライン / 2021年10月2日 11時30分
坂本龍馬の思いに
『日本を今一度、せんたく致し申し候』──。
維新の志士、坂本龍馬が姉への手紙に書いた言葉。西郷隆盛や木戸孝允など薩摩、長州の志士たちと明日の日本を語り合い、時代の回天に大きく動いた坂本龍馬。
所属する土佐藩を脱藩し、個人の立場で各藩の有力者を説きふせた龍馬がいてこそ、薩長連合も生まれたし、幕府側の要人・勝海舟をも自らの人的ネットワークに組み込んでいけた。
幕末、龍馬は京の宿で刺客に襲われ、非業の死を遂げる。1867年(慶応3年)のことで、30歳の若さであった。
目を世界に向け、長崎では今日の商社のような組織、海援隊をつくり、万国公法(今の国際法)にも触れ、世界の中での日本の立ち位置を推しはかっていた。
一度会えば相手もすっかり魅了されるほどの雅量で、西郷隆盛も「度量の大きい人物」とその力量を賞賛。敵方の幕府の要人、勝海舟を殺めようと面会に行くが、初対面で勝の力量を感じ取った龍馬は、勝を見直した。勝に弟子入りし、その後、勝からも多くを学んだ。
どの組織に属するかということより、閉塞感の漂う幕末、「日本を今一度せんたく致したく」という志ひとつで、改革志向の人物を次々と味方にしていった。
大きな志を抱き、その目標に向かって動く。既存の秩序維持者からは当然、危険視される。龍馬自身、常に倒されるという『覚悟』を持って、動いた。
失われた30年を……
近代日本150年の歴史の中で、明治維新から77年後に日本は敗戦国となり、第2の改革期を迎えた。
高度成長を経て、1968年(昭和43年)には当時の西ドイツを抜いて、自由世界第2位の経済大国になった。
国民の多くが明日の日本を夢見て踏ん張り、経済大国となった。しかし1990年代初め、バブル経済が崩壊し、それから日本は”失われた30年”という状況が続く。
終戦から76年が経ち、年号も『昭和』から『平成』を経て、いま『令和』の時代になって3年目。
コロナ危機も加わって、日本をどう立て直していくかという時の政府与党・自由民主党の新総裁選びである。
国のビジョンが見えない
「日本をこんな国にしたいという話が聞こえてこない今回の自民党総裁選びだね。どの派閥とどの派閥がくっ付くとか、この領袖とこの候補者は仲がいいとか悪いとか、こんな話ばかりが出てくる。こんな状況では、誰が新総裁、ひいては新首相になっても、当面、日本の政治は混乱が続くね」
ある識者はこう語り、「もっと日本の生き方、あり方について、その考えを示すべき」と訴える。
菅義偉首相が、今回の総裁選には「出馬しない」と退陣を表明したのは9月3日(金)。この稿を書いているのは8日(水)だが、出馬を表明したのは岸田文雄・元外相(元政務調査会長)と、同日に出馬を明らかにした高市早苗・元総務相。
岸田氏は、危機管理庁みたいな危機管理の司令塔をつくるといった政策を表明。高市氏もロックダウン(都市封鎖)のような措置が取れる危機管理が執行できるよう法整備を進めるといった政策を表明、それなりの新味を打ち出している。
しかし、世論調査で一番人気のある河野太郎氏、そして党員・党友に人気の高い石破茂氏などはまだ出馬宣言をこの段階でしていない。河野氏は10日(金)に表明するという情報が飛び込んできたが、この段階で、有力候補の政策の情報発信がされていない状況だ。
時代が激しく動いている時に、”国のカタチ”を示し得ない自民党総裁選に苛立ちを覚える国民は多い。
苛酷な運命の中で…
リーダーの使命とは何か──。
特に首相という国の命運を左右する職責を担うポストは、時に苛酷な運命を突きつけられる。
今から50年前、1972年(昭和47年)、庶民宰相、今太閤とメディアに称賛されて登場した田中角栄元首相。『日本列島改造論』を引っ下げて繁栄から取り残されがちな地方の振興を図った。
その後、石油ショック(73年)などに見舞われ、狂乱物価といわれるインフレにもなり、退陣を余儀なくされる。そこへロッキード疑惑も取り沙汰されて有罪判決も受ける。
しかし、政策立案能力に優れた田中氏は道路財源の揮発油税などを創出。通産相時代には日米繊維交渉をまとめ、首相就任時には日中国交回復をやってのけた。
田中氏の議員立法33本の記録は今も破られていない。氏の時代を読む先見性と行動力の成果は今も残っている。このことは、本人が逝去し、時が経って評価される。
棺を蓋おおいて事定まる──。没後、その人の評価は定まるということ。社会の新しい仕組みを創り出すリーダーはその存命中、時には厳しい反発や仕打ちを受けることもあるが、没後、時が経って正当な評価を受ける。ある意味、苛酷な運命である。
その田中角栄氏は首相就任時に秘書官たちにこう告げたという。
「首相になれば、官邸に悪い情報は上がってこないものだ。君たちにお願いするのは、わたしにとって悪い情報をできるだけ集めて欲しいということです。どんな事でもいいから、悪い情報を優先して、どんどん入れてくれるようにお願いしたい」
通産省(現・経産省)勤務時代に、首相秘書官を務めた小長啓一さん(のちの通産事務次官)は、この時に田中首相から言われた言葉が強く心に焼き付いているという。
政治家と官僚との関係がギクシャクとする今、リーダーのあるべき姿を感じさせる一コマである。
米良はるかさんの志
コロナ禍で、人々も自由に動けず、分断状況も見られる。しかし、こんな時でも、人と人のつながりを求めて活動し、助け合う動きが見られる。
クラウドファンディングのREADYFOR(レディフォー)の代表取締役CEO、米良はるかさん(1987年生まれ)の活動もそうだ。
資金調達などで困っている企業や人たちに、サイトを通じて、一般からお金を集める仕組みを米良さんは開発。「誰もが挑戦を諦めなくて済む社会を」という考えで2011年に起業。
コロナ禍の今、「誰かが誰かのことを思いやったり、誰かの立場に立って考えてみることの想像力が失われがちです」と言う。
米良さんはこういう認識を示しながら、「1人ひとりの状況が悪くなっている今こそ、自分よりも大変な立場の人たちの気持ちに立って、できることをやっていくというのがものすごく必要ではないかなというのが、わたしが思っていることです」と語る(トップレポート参照)。
人と人のつながりを考え直す今のコロナ危機だと思う。
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