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【コロナ禍での病院連携】全日本病院会会長が語る「機能分化について病院も加わった身近な地域単位での議論を」

財界オンライン / 2021年9月27日 18時0分

猪口雄二:全日本病院協会会長(医療法人財団寿康会理事長)

いのくち・ゆうじ
1955年東京都生まれ。79年獨協医科大学卒業後、同大学病院リハビリテーション科臨床研修医、81年臨床助手、84年助手。86年医療法人財団寿康会寿康会病院副院長、87年院長、同年より理事長。98年より10年間、江東区医理事。全日本病院協会常任理事・副会長を経て、2017年から現職。日本医師会副会長も務める。

「コロナを契機に病院ごとの機能分化が進んでいる」と語るのは全国約2500の中小病院を束ねる全日本病院協会会長の猪口雄二氏。コロナの感染拡大がおさまらず、第5波の到来が指摘される中、医療現場の逼迫は続く。地域の医療はどうあるべきなのか。猪口氏は「病院単位で機能分化し、医療体制を再構築する必要がある」と訴える。ポスト・コロナを見据えた日本の医療の姿を探る。

中小病院もコロナ禍で奮闘

 ─ コロナ第5波が叫ばれ、医療体制も逼迫しています。全国約2500の民間病院が加盟する全日本病院会(全日病)として、コロナ禍での医療体制の構築をどう考えていますか。

 猪口 今回のコロナ禍を受けて、民間病院はコロナ患者を入院させていないといった声が聞かれます。しかし、全日病に加盟している民間病院の病床数は200床を下回る中小病院が中心です。コロナ患者を主に受け入れるのは急性期の大型病院が多く、そういった病院に限って言えば、9割もしくは100%近く、コロナ患者を受け入れています。

 大型病院の病床数は400床以上になるのですが、中小病院になると、その大半が100床ほどですし、急性期医療を終えて病状は安定しているものの、継続的な入院加療を必要とする急性後の患者さんが入院する回復期に対応する病院も数多くあります。そこで急性発症のコロナ患者を受け入れること自体のハードルはかなり高くなります。

 仮に病院というハードの面と医療従事者というソフトの面の両方で感染症対策を講じていない病院が無理をすれば、逆に危くなってしまいます。むしろ、そういった病院は後方支援に徹し、急性期を脱した患者さんを受け入れると。そういう機能分担が必要だということです。

 中小病院の中では急性期の病院もありますが、それはすべてではありません。そもそも病院にも様々な種類があります。例えばリハビリの病院です。今は「地域包括ケア病棟」や「回復期リハ病院」がこれにあたりますが、こういった病院では急性期を脱した患者さんを診る後方支援という形で対応していますし、ワクチン接種は全ての病院で対応していると思います。病院にも役割分担があるのです。

 ─ 医療資源も限られていますから、ここを見定めていかなければなりませんね。

 猪口 はい。国は都道府県に「地域医療構想」を査定させ、2025年に向けて病院の再編・統合や病床の転換を促しています。ここで課題になるのは人口が減る地域です。人口が減るということはベッドが余剰になるということです。その中で、その地域の最適化を狙って、急性期の病床をどれぐらい持つか、回復期の病床をどれぐらい持つか。この目標を定めて地域ごとに進めているのです。

 ─ ただ、コロナ禍でその議論もストップしています。

 猪口 ええ。ただコロナがなくても人口は減っていきますし、急性期の需要も減っていきます。そういった地域に最適な医療態勢をどう構築していくかという議論は続けていかなければなりません。病院の機能分担はだいぶ進んできましたが、病院単位で機能分化して再構築を進める必要があると思います。

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地域医療の整備が不可欠

 ─ あるべき姿をどう見つけていくかですね。

 猪口 そうですね。よく日本は病床数が多いと言われています。米国や欧州で病院と言えば急性期を指すのですが、日本では全国の病院の病床数約130万床全てを指してしまう。しかし実態は精神科の病院も三十数万床あり、療養もある。それらを差し引いていくと、おそらく急性期だけで成り立ってる病院の病床数は50万床くらいだと。

 一般病床も約90万床あると言われていますが、ここで複雑なのは一般病床が法的に「一般」「療養」「精神」「結核」「感染」と分かれていることです。そのため、一般病床がまるで急性期のように扱われてしまう。しかし実際は、一般病床の中にも急性期の病床や回復リハビリテーション病床、地域包括ケア病床などが含まれているわけです。

 全日病に加盟する中小病院は地域の中でも古くからその地に根付いています。例えば開業医から病院になったというケースもあるわけです。そうすると、一部は急性期をやっているけれども、地域の医療体制を考えると、回復期病床や療養病床も持たなければならないということで、病床ごとに細かく機能を分けて成り立たせているところが多いのです。

 ─ こういった実情を踏まえながら再び起こるかもしれない感染症にも対応できる医療体制の構築が必要になります。

 猪口 その通りです。ですから、今後は地域の実情に応じて医療提供体制の確保を図るための「医療計画」では感染症も踏まえたベッドの割り振りなどを考え、「地域医療構想」では人口減少や高齢者対策といった複合的な視点に立って病床を整備していくことになるでしょう。

 そのときに地域医療の整備が必要になってくるのですが、これがなかなか難しい。そもそも、どこまでを地域医療と指すのかという課題があります。例えば病院で言えば、救急医療を含む一般的な入院治療が完結する「二次医療圏」が1つの単位になるのですが、東京では1つの二次医療圏に複数の区が含まれ、人口が150万人、200万人という規模になります。

 この規模は地方にある1つの県と同じくらいの規模です。そういった中での話し合いになれば本当に難しい。むしろ地域医療を指すときの単位としては、市区町村単位が適しているのではないかと言われています。

 ─ そうすると、人口30万~40万人という単位が1つの目安ということでしょうか。

 猪口 10万人で中小病院が1つといった具合でしょうか。その上の単位で急性期の病院があり、さらに大きい都道府県単位で重篤疾患や多発外傷に対する三次救急や救命救急センターがあると。そういった区分けになるのではないでしょうか。

 地域医療構想でも「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」と病床を分類しています。これは病院単位ではなく病棟単位です。ですから、今後は病院単位でどういう機能を持たせていくかという議論に変わっていくと思います。この方向性を示す期限が2025年になります。ただ、これまではベッド数を減らす方向で動いてきましたので、ポスト・コロナを見据えると、再度議論する必要があるでしょうね。

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逼迫する医療現場の現実

 ─ 国にとっても医療分野にとっても初めての経験です。

 猪口 ええ。昨年の最初の緊急事態宣言が出たときは街から人がいなくなりました。患者さんも怖くて病院に行きませんでしたら、私の寿康会病院でも患者さんの数は半分ぐらいになりました。そして足元の第5波でオーバーシュート(感染症の爆発的患者急増)という状況です。

 特に家庭内感染が非常に多い。そうすると、自宅療養でも部屋を分けて欲しいとなるわけです。一方で、独身世帯はどうするか。外出できないならその人の食事をどうするのか。行動を制限するにも限界があります。

 ─ マスクをしてれば大丈夫と言えるのですか。

 猪口 ええ。相当な防備にはなります。陽性者がマスクをすることによって、人にうつす確率が減ることは間違いない。しかし、ゼロではありません。それから他の陽性者の唾が飛んできて、それを予防できるかというと、100%とは到底言えません。ですから、医師も看護師も感染者と接するときは厳重な防備をしています。

 ─ 医療現場の逼迫は続いていますからね。

 猪口 みんな疲れ切っています。それでも自分のできることを精一杯やっているのです。今は20代や30代の若者の陽性者が増えていますが、ワクチンの接種もしっかりやって欲しいですね。デルタ株などの変異種も広がっています。ワクチン接種は全国民の6割くらいに広がれば社会的に免疫がつくとも言われています。人類始まって以来の経験ですから、国民全員で対応していかなければなりません。

 ─ まさに危機管理ですね。

 猪口 はい。危機管理の時は、国民もどこかで目をつぶらなければならないと思います。日本ではこんなにベッドも一杯あるのに医療崩壊が起こっているのはおかしいと言われたりもしますが、そもそも日本のように軽症者や中等度の患者さんにも入院させて、手厚く医療を提供している国は他にありません。

 ─ 国の在り方ですか。

 猪口 医療の在り方です。日本の医療は国民皆保険で全ての人が医療を受ける権利を持っています。国民皆保険制度は1961年に構築され、これまで延々と組み立てられ続けてきました。海外とは異なる独自の仕組みを構築してきたのです。

 それを今回のコロナを機に変えようと思っても、そう簡単にできるものではありません。しかし、この国民皆保険制度は世界に冠たる素晴らしい制度だと思います。誰でも病気になったら医療を受けることができるわけですからね。そこは壊してはならないところだと思います。

 ─ そうすると、壊さずに対応できる危機管理の仕組みをどうつくるかになりますね。

 猪口 そうです。病院もコロナを機会に、自分の病院が持っている機能を見つめ直しています。大病院は大病院の役割と使命を果たし、民間病院もコロナ患者の受け入れ対応ができなくても、その地域に住む人々の健康を預かったり、軽症な患者さんの入院にも対応していかなければなりません。ですから、今後は、そういった機能分化や連携がよりはっきりしてくるでしょうね。

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東京・江東区での病院連携

 ─ その場合、全日病はコーディネーター役を果たすと。

 猪口 もちろん、つなぎ役を務めます。当会が主催する学会でもそういったテーマをメインテーマとして取り上げたりもしています。日本は地域によって特性が大きく変わります。東京は人口や病院数など規模が大きすぎるので、他の地域では通用しません。東京独自のやり方を考えていく必要があるでしょう。

 しかし、地方都市は別です。例えば、東京よりも少しサイズは小さいけれども、人がたくさん住んでいて、大学もいくつかある札幌市などで適用したモデルを他の同じくらいの規模感がある地方都市でも展開するといった考え方はできると思います。

 ─ 皆で限りある医療資源を分け合い、機能分化していく。これが骨子になりますね。

 猪口 自分がやりたいというだけではなくて、周りを見て、この地域はこの病院に任せるといった考え方ですね。例えば、当病院がある江東区の地域では東京都立墨東病院(墨田区)といった基幹病院ともお付き合いがありますし、昭和大学江東豊洲病院とも、どの地域の患者さんを受け持つかといった協議を行っています。

 こういった連携について協議する場は地域医療構想調整会議という形でもありますし、日本医師会が旗を振るものもあります。調整会議は江東区だけではなく、江戸川、墨田両区とも一緒です。これまで年に1~2回の開催でしたが、コロナ禍になってからは毎週のように病院部会が開かれています。

 新たな医療の形を再構築するためには、身近な地域単位で病院自身が加わって議論することが何よりも必要だと思います。

河北医療財団・河北博文理事長「『その人らしくいかに生きるか』という時代に『スマートホスピタル』を創りたい」

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