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社会課題解決を資金面で支える【READY FOR・米良はるか】の コロナ危機の今こそ、「人と人のつながりを」

財界オンライン / 2021年10月5日 7時0分

READYFOR社長 米良はるか

「インターネットで新しいお金の流れをつくりたい」と日本で初めて”クラウドファンディング”を始めたのが2011年。世の中は人のつながりで成り立っており、「一部の人が富を握るだけではなく、社会全体にお金が回らなければ、自分たちの生活も成り立たない」という考えで事業を開始。コロナ危機の真っ只中にあって、昨年は医療従事者やNPO(非営利活動法人)をサポートするための基金を設立し、約9億円を調達、関係者に届けた。今年も新しい行動計画を次々と実践。クラウドファンディングはクラウド(群衆、人々)とファンディング(資金調達)を合わせた言葉。1人ひとりの力は小さくても、困難に直面している人、あるいは新しい仕事に挑戦する人たちのために資金を出し合おうという趣旨。政府や自治体からの財政補助はこういう危機時には不可欠だが、決まり事や諸ルールもあり、その配分が遅れるなど時間がかかりがち。外出自粛の影響で困窮する飲食・観光業やその日の動物の飼料代にもコト欠く動物園の支援と幅広く支援の輪も広がる。キーワードは『共感』。1987年生まれの米良はるか氏が掘り起こす『共感』の世界とは─。

本誌主幹
文=村田 博文

【画像】達成率・支援額第1位のクラウドファンディングに育てたREADY FOR社長・米良はるか氏

社会課題の解決へ自分たちでできることを

「人と人のつながりこそが大事」──。コロナ危機が始まって2年近くが経つ。日本全体でも、また東京都内でも感染者数は9月上旬から減少し始めたが、医療のひっ迫は依然深刻。自宅療養者も都内で1万人弱(9月中旬)を抱える。入院が必要な人が、入院を断られる状況が続く。

 こういう深刻な状況下でこそ、「人と人のつながりでみんなが支え合っていくときだと思います」

 READYFORの創業者で代表取締役社長の米良はるか氏は感染力の強いデルタ株が広がり、「基礎疾患がない普通の人たちが命の危機を迎える場面もある」として、厳しい状況認識を示し、次のように続ける。

「誰かが誰かを支えていく気持ちということで言うと、正直、1年で済むのだったら、順調に乗り切れたものが、今は、ある種先行きが見えない状況です。そういう中で誰かが誰かを思いやる想像力がすごく下がっている、欠けてきてしまっているのではないかなというふうにも思っています」

 しかし、ここで諦めないのが、この人の真骨頂。自宅療養者の診療に赴く医療従事者支援に早速動き始めた。

「このコロナ禍で、自由にわれわれは当然動けないですし、どうしても限られた人たちとのコミュニケーションになってしまったりするし、やはりそれが分断につながっていくと思います。弱い立場の人たちのことを想像する力自体がすごく失われていってしまうのではないかなという危惧はあります。1人ひとりが今こそ、状況が悪くなっているときだからこそ、自分よりも非常に大変な立場の人たちの気持ちに立ってできることをやっていく。それが、今こそすごく必要ではないかなというのが、わたしが思っていることです」

 米良氏がREADYFORを立ち上げ、クラウドファンディングを開始したのは、23歳のとき。それから10年が経つ。
 クラウドファンディングはクラウド(群衆、人々)とファンディング(資金調達)を掛け合わせた言葉。
 そのクラウドファンディングは1人ひとりがお金を出し合って、困難に直面している人、あるいは社会にとって必要な仕事に挑戦したいものの、なかなか資金調達がしにくい事業者を支援していこうという趣旨のもの。

 1人ひとりが提供するのは少額だが、文字どおり、多くの人が共感をもって集まり、1つのまとまった額にして、必要な人に資金を提供しようという事業だ。

「新しいお金の流れをつくりたい」──。
既存の資金提供の仕組みには、銀行(間接金融)や証券(直接金融)、それに政府や自治
体など財政資金を配分するといったものがあるが、米良氏はクラウドファンディングを通じて、「新しいお金の流れをつくる」と2011年、READYFORを立ち上げたという経緯。多くの人々から、お金を集めるには、人々が納得し、共感してもらえる事業やプロジェクトでなければならない。

「社会課題を解決していきたい」という米良氏の思い。米良氏が資金提供を呼びかけるとき、資金提供者との間を介在するのは『共感』。それは、そのプロジェクトが社会課題の解決につながる──という思いが双方に共有されるからこそ、クラウドファンディングが成り立つのである。

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コロナ危機で基金を設立2万人から9億円集める

 コロナ危機1年目の昨年、米良氏は『新型コロナウイルス感染症拡大防止活動基金』を設立した。コロナ対応の病床数が足りない、医師や看護師が足りないといったことで医療界に危機感が高まった時期。

 また初期には、コロナ患者に対応する医師や看護師の子供たちが学校でいじめや中傷にあうなど、社会問題になった。
 そうした事態に、米良氏は「日夜、医療に従事している人たちやNPO(非営利活動法人)の関係者をサポートしよう」と同基金設立に動いた。

 クラウドファンディングはプロジェクトを立ち上げる企業(人)がお金を募るというのが通常のやり方だが、より社会的な広がりを持たせようと、基金方式にしたのである。
 これで、8億7000万円を短期間に集めることができた。2万人以上の個人が応募。これは2020年の国内クラウドファンディングでは最多の金額となった。

『共感』する人がこれだけいて、危機に対応しようとする動きが民間に出てきているという事実。
 医療従事者への支援だけに留まらない。コロナ禍で集客が厳しいスポーツチーム、飲食業関係者へのサポートも実行した。

 ただ、2年近くに及ぶこのコロナ禍について、「今年(2021)になって、どちらかというと状況はすごく悪くなってきた」という米良氏の認識。

「昨年の段階では、ワクチンが出て来て集団免疫なんかも獲得して2021年はいい状況になるのではないかなと多くの人たちは思ったと思います。わたしも正直、素人なのでそういう気持ちも持っていました」

 ある種、コロナ慣れしてきていたところに、感染力の強いデルタ株が登場。若い世代の感染も増え、基礎疾患がないような人でも感染、重症化、時に死亡者が出る状況になった。
 病院に収容できず、自宅療養を続ける人が全国で約10万人にのぼり、都内では9月中旬で9千数百人前後はいる。自宅療養の途中で死亡に追い込まれる人もいる。

 また、入院先が見つかるまで酸素ステーションで一時収容する手立てもあるが、この酸素ステーションの確保がままならない。米良氏はどう動いたのか?

READYFOR社長 米良はるか
   READYFOR社長 米良はるか


自宅療養の患者治療に赴く医師・看護師を支援

 今夏、コロナ禍第5波が襲来。8月中旬は都内で1日の感染者が5000人を上回る日が続き、医療体制もひっ迫。自宅療養を余儀なくされる人が増加、家庭内での感染が広がった。
 ここへきて、ワクチンの1回目の接種を受けた人が6割以上、2回目の接種を受けた人が5割近くなってきており、感染者数自体は低下傾向にある(9月上旬は東京で1日1000人台)。

 しかし、接種率の低い若い世代や学童に感染が広がっているのが気懸りで、自宅療養がまだ解消できていないということでは、危機的状況は変わらない。
 本当は、病院で手当てしなければならない人が受け入れられず、タライ回しになる状態。

「もちろん、病院の皆さんも本当に現場で奮闘されていますし、1人でも命を守ることをずっとされているんですけれども、病床数以上に患者さんが今、増えている状況だと思うんです」

 米良氏は危機的状況にある中で、自宅療養を続けざるを得ない人のことを思いやりながら、次のように話す。

「本当に、ご自宅ですごく心配しながら、どうにか自分の命をしっかり守ろうと頑張っている方、療養されている方がいらっしゃって、そこに対して万全の状態でしっかりと患者さんを支えていくような体制づくりが何としても必要です」

 こうした考えの下、米良氏は具体的に行動に移していく。

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医師側が直接、医療現場の危機的情報を発信して

9月3日(金)、READYFORは医療法人社団悠翔会(東
京都港区、佐々木淳理事長・診療部長)と提携、在宅医療に医師、看護師を派遣する悠翔会をサポートするクラウドファンディングを実行すると記者会見(WEB方式)で発表した。

 悠翔会は、「新型コロナが〝災害医療〟となった今、第5波を乗り切るご支援を」と緊急に呼びかけた。

「このままでは、医療を必要としている人の中から、誰を救うか、誰を諦めるかの判断さえ、わたしたちはしなければならなくなります」

 悠翔会の佐々木理事長らはこう訴え、「そんなこと、誰もしたくない。だから今、総力戦でやれるところまでやります。この大災害を乗り切るための、お力添えを必要としています」と訴えたのである。

 悠翔会は、北千住、葛飾、墨田、新橋、新宿・渋谷、練馬、品川の7拠点にクリニックを持ち、千葉県では柏・流山、船橋、稲毛の3拠点、神奈川県では川崎、藤沢に2拠点を構える。
 在宅医療に強みを持つ悠翔会は、通常の訪問診療に加えて、新型コロナ自宅療養者の最後のセーフティネットとして、日夜、往診を行っている医療機関。
『コロナ専門往診チーム』を組成し、医師、看護師、スタッフなど延べ1116人の人員手当て、そして医薬品、医療設備購入費用を募るため、クラウドファンディングサービスのREADYFORと提携したといういきさつ。

 支援金の目標金額は10月末までを期限に1200万円。筆者は、9月3日午前に記者会見があった同日の午後1時半から、単独で米良氏にインタビュー(WEB)したが、すでに午前中で100万円以上の支援金があり、9月13日現在ですでに3100万円が集まったという。

 これだけ一般の人たちからの反応が早いことに改めて驚かされたが、これは何と言っても、悠翔会とREADYFOR両社が、自分たちはコロナ危機対応、特に在宅医療で「こういうことをやります」という情報発信を正確、かつスピーディに行っていることが大きいと思う。

『中等症Ⅱ以上の方は在宅酸素やステロイド投与が必要になりますが、糖尿病や血栓症の既往症のある方は急激な高血糖や血栓症の再発にも注意が必要です』
 こういった啓蒙啓発や、『コロナ専門往診チーム』について、組織図も提示。コロナ専門往診チームは医師、看護師、診療アシスタント計357人、在宅コロナ患者フォローアップチームは看護師172人、そして酸素濃縮器回収チームは診療アシスタント276人──といったように説明も具体的だ。

 悠翔会・READYFORと資金提供者の間に、在宅医療実行に向けての意識の共有、つまり『共感』が得られたということである。

『人と人のつながり』を大事にする資金提供を!

 クラウドファンディングには、『寄付型』、『購入型』、そして『貸付型』といろいろなタイプがある。全体の約9割は資産運用を主な目的にした『貸付型』(ソーシャルレンディング)だといわれる。

 READYFORの場合は、創業者・米良氏の「人と人のつながりを大切にしていく」とする経営理念の下、人々の共感やつながりを媒介に「お金の流れを変えたい」ということで出発。そこで、金銭的リターンではなく、寄付金控除が認められる『寄付型』が多く、それに近い『購入型』も取り扱う。

 先述のコロナ禍に立ち向かう医師、看護師やスタッフなどへのサポートから、苦境にある飲食・宿泊業への支援、今年8月の豪雨災害に際しては緊急災害支援基金を立ち上げるなど、社会課題解決につながる案件が多い。

 中には、動物愛護のための資金提供もある。例えば、宇都宮動物園のメスの象、『宮子』のための支援。48歳とかなり年老いた象で、市民の人気者だが、段差のないプール建設資金がコロナ禍の経営難でままならない状態。そこへクラウドファンディングで寄付金を募ったところ、短期間で集まり、建設のメドが立ったという。

 取り扱うのは実に多種多様。ふるさと納税に関するものから、〝遺贈寄付〟といったものまで、いろいろな領域、分野にわたる。
 人生の終活としての、この遺贈寄付は注目され始めている。遺贈寄付といえば、富裕層の話かと思われがちだが、金額の制限はなく、「自分の持っている金が社会のどこかでお役に立てば」という人が相談しやすい場として、クラウドファンディングを設定している。

 クラウドファンディングは、インターネットの扱いに慣れた若い世代、特に30代から40代の年齢層が多く参加しているが、この遺贈寄付のように、高齢者熟年世代の参加も登場し始めている点も注目される。

 いわば全世代が参加しはじめたということ。READYFORがこの10年間で手がけたプロジェクト数は累計で1万5000件以上、支援金額も累計で180億円以上にのぼる。

 資金提供のリスポンスとしては、例えば飲食・宿泊業への支援に参加した場合に、優待券やクーポンがもらえるということである。

「人と人のつながりを大切に」──。米良氏のクラウドファンディングが注目されるのは、内外で分断・分裂が起こる中で、『共感』の輪を広げていくこと、それも、自分たちのできる範囲で広げていこうという積み重ねにある。

 女性経営者の先達で、ディー・エヌ・エー(DeNA)の創業者会長の南場智子氏(1962年生まれ、経団連副会長)はクラウドファンディングの社会的使命について、

「思いを共有するということ。そして1人ひとりが大きな負担をせずに、みんなを支えていける素晴らしい仕組み」と評価、米良氏らの活動を激励する。そして、「何より、民間の力を引き出すときです」

と企業経営者の使命を南場氏は強調する。

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機敏・迅速な実行で既存の制度を補完

 米良氏は1987年(昭和62年)10月生まれ。2010年慶應義塾大学経済学部卒。在学中に『あの人検索スパイシー(SPYSEE)』の立ち上げに参加。ここでAI(人工知能)に出会うと共に、インターネットは人と人のつながりを深めるということに気付く。

 英ロンドンスクール・オブ・エコノミクスにも留学、経済の見聞を深め、慶大大学院に進学し、大学院在学中に米スタンフォード大に留学。米国でのインターネットにも触れてきた。
「わたしたちができることを」諦めずにやる。1人ひとりの力は小さくても、インターネットを通じて、力を合わせれば1つのまとまった力になるという思いを米良氏は事業化。

 事業の立ち上げは2011年。2014年に株式会社化と基盤を固め、起業から10年後の今、コロナ危機の真っ只中で、READYFORはいろいろな気付きを与えてくれる。
 社名のREADYFORも、Are you ready?(用意はできているかい? )と、一緒に行動しようという呼びかけが含まれている。

 誰もが挑戦でき、また、挑戦を諦めないですむように、「お金の流れを是正したい」と米良氏は話す。
 コロナ禍での医療支援も政府や東京都などの自治体による資金の支援や配分はある。しかし、こうした財政資金の配分は大体にして大づかみで、かつ審査に時間がかかり、時に執行が遅れがちになる。

 国民や都民が負担する税金が使われるのだから、一定程度の時間がかかるのも分かるが、それだけでは当該現場の切迫した状況を支援するのに間に合わないとか、細かなニーズを拾えないといったことも生ずる。

 そうした財政資金の配分という既存の制度との関係をどう考えるのか?

「ええ、そういうところを補うことができれば、現場では柔軟に資金を使って、本当に必要な人たちを支えられるということにつながると思っています。例えば、国からの補助金や助成金というところを当てにすると、どうしても助成金や補助金のルールというのがありますので、半年とか1年とか資金を手に入れるために時間がかかってしまう。その間にキャッシュフローは途絶えてしまうよねとか、やならければならない事に手を付けられないよねということがあると思うんですが、クラウドファンディングの場合は、それがすぐ実行できます」

 米良氏は、非常事態のときなどには、「1つの資金調達の手段として非常に有効です」と強調する。

「新しい金融の仕組みをつくる」という活動に、既存の金融大手も関心を示す。

 飲食店支援の関連ではアメリカン・エキスプレスと提携、あるいは中小企業支援関連では西武信用金庫や京都中央信用金庫などと提携。さらに東京医科歯科大学や日本医科大学、琉球大学など教育・研究機関との提携も相次ぐ。『共感』は各領域に広がりつつある。

大病を患い、そして出産未来に思いを馳せて

 米良氏は今年10月、34歳を迎える。社会課題の解決へ向け、1人ひとりが共感し、つながり合い、資金を出し合って、一歩一歩、解決へ近づいていこうという10年の歩み。この10年間には、個人的にも大きな試練に立たされた。
 
29歳のとき、悪性リンパ腫が見つかり、抗がん剤治療を余儀なくされた。経営が軌道に乗りかけたときのことでショックを受けたのは事実。


(オンラインでインタビューに答えるREADY FOR社長・米良はるか)

「病気になって、半年間お休みをさせていただくということになり、そこでもちろん治療は大変だったんですけれども、仕事から離れて改めて、生死観が生まれるというか、大きな病気だったので死も意識しました。でも、誰しもいつかは亡くなるわけなんですけれども、そこに向かって自分の時間をどう有効に使っていくべきなのか。本当に自分の人生、生きてよかったと思えるようにするには、どういうことをやっていけばいいのだろうということに、すごく向き合う時間を持つことができたと思っています」

 そして、がんが寛解し、医師にも認められて出産を決意。今年出産した。母は、赤ちゃんの顔を見て考えることは何か?

「そうですね、未来のことですね。子どもを見ると、勝手にこの子が30年後になったら2050年だな、みたいなことを思います。自分は結構未来を考えて、今の時代をつくることを大事にしていきたいという価値観なので、そういうことを思えて幸せです」

 悔いのない人生を生き抜く──。常に未来に思いを馳せ、前向きに生き、今、自分たちにできることは何かを追い求める米良氏。
 人と人のつながりを大事に、『共感』の輪を広げるという米良氏の営みがこれからも続く。

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