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【問われる日本の科学技術戦略】日本の量子コンピューターに勝算はあるか?

財界オンライン / 2021年10月8日 18時0分

NECが開発中の量子アニーリングマシン

スパコンで1万年かかる問題を3分で解いた!

「まだできていないことに対して、こんなに盛り上がっているのは珍しい。この10年でひょっとしたらできるんじゃないの? という機運が一気に高まってきた」と語るのは、日立製作所基礎研究センタ主管研究長兼日立京大ラボ長の水野弘之氏。

 新素材・新薬の開発や環境・食糧問題の解決など、複雑化する社会課題に対し、これまで解けなかった問題を高速で解くことができると期待される次世代計算機・量子コンピューター。

 今でもAI(人工知能)やスーパーコンピューターなどの開発は進められているのだが、世界が抱える課題は年々増加し、複雑化。最近ではパンデミック(大流行)などの問題に世界中の関心が集まっており、新しいテクノロジーへの期待が高まっているのだ。

 初めて量子コンピューターの概念が提案されたのが1980年代。1999年に超電導量子ビットを世界で初めて実証したのは日本のNECだった。

 その後10年くらいは”冬の時代”と呼ばれ、あまり開発競争の進展はなかったが、2011年にカナダのDウェーブというベンチャー企業がアニーリング方式で世界初の商用化に成功。2016年には米IBMが量子コンピューターをクラウドで提供を開始すると、2019年にはグーグルが量子超越を実証するなど、この数年で一気に開発が盛り上がってきている。

 特に、グーグルの発表は多くの研究者に衝撃を与えた。最先端のスパコンで1万年かかる問題を3分で解いたからである。

 ただ、実用化にはまだ10年以上かかると言われ、技術の成熟度という意味ではまだ不十分。開発競争はむしろこれから本格化していく段階だ。

 日本でも今年7月27日、神奈川県川崎市で初めてゲート方式の商用量子コンピューターが稼働。東京大学と日本IBMが国内初の量子コンピューターの稼働を始めた。東大が使用権を持ち、企業や研究機関の活用を促していく考え。

 お披露目式典に参加した東大総長の藤井輝夫氏は「既知の問題を高速に解くだけではなく、これまで手掛けることが難しかった未踏の問題を解決できる可能性を秘めている」と語り、その成果が期待されるところだ。

【量子コンピューター】関連産業の創出へ 東芝やトヨタが協議会設立



海外とは相当差が開いているという現実の中で…

 ただ、日立の水野氏は「海外はすごく投資が盛んで、日本は理化学研究所が一番開発を進めているが、企業はほとんど参入していない。海外とは相当差が開いている」と指摘する。

 現在はスパコン同様、量子コンピューターの開発も米中2国が先行。米国ではIBMやグーグルなどのIT企業が開発にしのぎを削る。中国では中国科学技術大学が米国並みの成果を発表しており、ここ数年で相当、開発を強化しているという。日本はまだまだ米中に比べれば後れを取っているのが現状だ。

 そこで9月1日には産業界が一体となって、量子技術を社会実装させるための「量子技術による新産業創出協議会」を設立。トヨタ自動車、東芝、NEC、NTT、日立、富士通、三菱ケミカルなど、24社が参画。通信技術やコンピューター開発に携わる企業だけでなく、材料やデバイス、計測技術など幅広い技術を持った企業が加わり、新たな量子関連産業やビジネスの創出を目指している。

 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科准教授の田中宗氏は「日本でも重点領域としてAI、バイオ、マテリアルといった分野に加え、量子も国家戦略に位置づけられている。ただ、量子に関連する人材は数も厚みもまだまだ増やしていく必要がある。慶應などの大学では研究拠点を設けているところもあるし、産学共同研究を含めて、大学の様々なリソースを活用いただきながら、一緒に前に向かっていくことが大事」と指摘する。

 近年、日本では「科学技術立国」という言葉があまり聞かれなくなった。日本の産業振興や国際競争力の強化を図る量子コンピューター開発の行方は、日本の戦略そのものが問われていると言えそうだ。

”東京大学工学部長” 染谷隆夫が語る今後の『産学連携』

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