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【政界】11月中の総選挙で問われる新政権が掲げる新しい「国のカタチ」

財界オンライン / 2021年10月11日 18時0分

イラスト・山田紳

※2021年10月6日時点

自民党は土壇場でしたたかさを見せつけた。首相・菅義偉の退陣表明を受けて本命不在で始まった総裁選は混戦ゆえに注目を集め、同党の支持率は伸びた。新総裁に選出された岸田文雄のもと、新政権は11月が有力の衆院選で国の基本政策を巡ってさっそく国民の審判を受けなければならない。日本の新しい「国のカタチ」をどう形成していくかが問われる。

話題性は十分

「四者四様で、なかなか自民党は人材豊富だ」。総裁選が告示された9月17日、4人の候補による所見発表演説会後に党税制調査会長の甘利明が発した一言に、今回の総裁選の狙いが端的に表れていた。

 もともとは、菅の再選を目指した幹事長の二階俊博らの計らいで予定調和の選挙戦になるはずだった。8月26日、前政調会長の岸田文雄が迷った末に立候補に踏み切った時点では、波乱要素はほとんどなかったと言っていい。ところが間もなく、菅がほぼ自滅する形で解散権と人事権を手放し、退陣に追い込まれたのは周知の通りだ。

 重しが取れたように前総務相の高市早苗、行政改革担当相の河野太郎、幹事長代行の野田聖子が相次いで名乗りを上げた。昨年の総裁選で菅支持へと雪崩を打った主要派閥は今回、世論の批判を気にして所属議員を縛らず、4人の候補による「ガチンコ対決」に突入した。

 話題には事欠かなかった。岸田が提起した党役員任期の制限案は菅政権の崩壊を誘引。人気の高い元幹事長の石破茂と環境相の小泉進次郎が河野陣営につくと、マスコミは「小石河連合」と飛びついた。

 前首相の安倍晋三から全面支援を受けた高市は、菅政権であまり顧みられなかったコアな保守層をターゲットにした主張を展開。女性が2人同時に総裁選に出たのは党史上初めてで、「女性の政治参画の観点から望ましい」(五輪担当相の丸川珠代)と格好のアピール材料にもなった。

 中堅・若手議員や地方組織から噴出していた衆院選を危惧する声はぴたりとやんだ。総裁選の告示翌日に毎日新聞が実施した世論調査によると、自民党の支持率は8月の26%から37%に急上昇し、10%で横ばいだった立憲民主党との差を広げた。

 衆院選比例代表の投票先でも自民党は35%で、立憲の14%の倍以上。産経新聞とFNNの合同世論調査(9月18、19両日)ではこうした傾向がより顕著に表れた。新総裁が決まる前の段階でこれだから、自民党は笑いが止まらないだろう。

【主張】岸田文雄・新政権は企業の潜在力を掘り起こせ!



バラマキ合戦の様相

 今回の総裁選で、8年9カ月にわたる安倍・菅政権からの路線転換を正面から訴えた候補はいなかった。4人ともこの間に政府や党の要職を担っており、とがった主張をしにくいという事情もあった。

 経済政策「アベノミクス」「スガノミクス」の基本線は新政権でも維持される見通しだ。ただ、アベノミクスの課題として残っ
た成長戦略を巡っては、各候補のスタンスの違いが表れた。

 河野は労働分配率を一定水準以上にした企業に法人税の特例措置を設け、賃金を引き上げる「個人を重視する経済」を主張。閣僚として担当する規制改革をさらに進める考えも示した。

 高市は「大胆な危機管理投資・成長投資」を提唱し、ワクチンや医療品、量子コンピューターなどの国産化支援や、大規模災害に備えた公共事業の強化を具体策として挙げた。

 これに対し、岸田は「小泉改革以降の新自由主義的政策を転換する」と規制改革、構造改革路線からの脱却を訴えた。河野との違いを明確にしつつ、衆院選や来年夏の参院選に向けて自民党の支持団体・業界に配慮したとみられる。ただ、格差是正のために「成長と分配の好循環」を生み出す道筋は必ずしも明確ではない。

 一方で財政健全化の議論は深まらなかった。最も急進的だったのが高市。物価上昇目標2%の達成までは基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化を凍結し、積極的な財政政策を講じるべきだと主張した。これには、副総理兼財務相の麻生太郎が「モダン・マネタリー・セオリー(現代貨幣理論)がよく言われるが、放漫財政をやっても大丈夫だという実験場に日本のマーケットをするつもりはない」といち早く反論している。

 ほかの3候補も財政再建を後回しにする姿勢が目立った。河野は「新型コロナの影響が続く間、PBを先送りせざるを得ない」と認め、岸田も2025年度にPBを黒字化させる政府目標について「目標ありきではなく、やるべきことの順番を間違えてはならない」と先送りに含みを持たせた。

 衆院選で有権者の歓心を買おうと、与野党はすでに巨額の経済対策を競い合っている。岸田は「数十兆円規模の経済対策を早急に取りまとめる」と強調し、高市も、水害や土砂災害の防止対策、耐震化対策、通信網の強じん化などに10年間で100兆円規模を投じるとぶち上げた。

 野党も負けていない。立憲民主党は、政権獲得後すぐに実行する事項として「少なくとも30兆円規模の補正予算の編成」を掲げた。

 政府は20年度に新型コロナ対策などで3回にわたって補正予算を編成したが、30兆円超を年度内に使い切ることができず、21
年度に繰り越した。にもかかわらず、選挙向けのバラマキ圧力は強まるばかりだ。

【財務省】中国が反発する中、TPPに台湾が加盟申請

旧民主の年金制度?

 菅は昨年10月、首相就任後の所信表明演説で、50年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」(CN)を打ち出した。さらに今年4月の米国主催気候サミットでは、CNの長期目標に向け30年度までに温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減することを国際的に公約した。安倍政権の「13年度比で26%削減」を大きく上回る野心的な目標で、「グリーン社会」は菅政権のレガシーの一つと言える。

 日本経済団体連合会は政府方針への支持を表明し、6月の緊急提言に「原子力の最大限の活用等による電源の脱炭素化の推進が必要であることは論をまたない」と盛り込んだ。経済界や自民党には原発の新増設を求める声が根強い。

 それだけに、脱原発が持論の河野がエネルギー政策をどう訴えるかは、総裁選の情勢を左右する重要なポイントになった。自民党には河野の主張に拒絶反応を示す議員が少なくないからだ。

 そこは河野も計算したのだろう。「まずきちんと省エネをやり、再生可能エネルギーを最大限導入する。それでも足りないところは、安全が確認された原発を再稼働していくのが現実的だろう」とあっさり軌道修正した。総裁選前には、安倍ら党内の実力者にも「ご懸念には及びません」と理解を求めている。

 ただ、河野も、河野とタッグを組んだ小泉も原発の新増設には否定的で、将来の脱原発をあきらめたわけではない。一方、岸田は「新増設の前にやることがある。既存の原発の再稼働をしっかり進めていくことが大事だ」と述べ、新増設への態度をあいまいにしている。

 総裁選では、事前にあまり予想されていなかった年金制度改革が争点としてにわかに浮上した。河野が基礎年金部分への「最低保障年金」導入を提唱したからだ。

 基礎年金は保険料と税金で半分ずつまかなわれている。河野は「所得がなく保険料を払えない人は、その分、将来の年金が減ってしまう」として、保険料に代えて税金で最低保障するプランを披露した。

 かつて旧民主党は消費税を財源とする月額7万円の最低保障年金をマニフェストに掲げたが、政権につくと頓挫した。河野の考えは旧民主党案に近いため、岸田は「7万円の最低保障年金では民主党をずいぶん攻撃した。確か消費税を8%上げなきゃいけない、不可能だと言ってきた」と疑問を呈し、高市も全額を税にすると「12・3兆円になる」と反論した。

 安倍政権は現行制度を「百年安心」と自賛してきただけに、自民党としては制度を簡単には変更できない。旧大蔵省出身の中堅議員は「筋が悪い。最低保障年金はどうしても増税の話になるから、衆院選にも影響する」と顔をしかめる。

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立憲「報道は不公正」

 首相指名選挙を行う臨時国会は10月4日に召集され、新首相が決まる。総裁選の4候補は、所信表明とそれに対する各党代表質問を終えた後に衆院選に臨むべきだという見解で一致しており、投開票日は衆院議員の任期(10月21日)を超えた11月7日か
14日が有力だ。

 それに先立つ10月30、31両日には主要20カ国首脳会議(G20サミット)がイタリアで開催され、新首相が外交デビューする。国内では新型コロナの新規感染者数が9月に入って目に見えて減り始めた。自民党にとっては願ってもない展開で、同党幹部
は「菅さんの最後の功績だ」と喜ぶ。

「菅首相のままで衆院選になって欲しい」と敵失に期待していた野党は、がらりと局面が変わったことに慌てている。当初、コップよりも小さいおちょこの中の争いでしかない」(共産党書記局長の小池晃)と酷評していた総裁選は、自民党の「派閥隠し」で勝敗が見えにくくなったせいで、皮肉にも9月29日の投開票日まで世間の関心を引いた。

 立憲民主党国対委員長の安住淳は総裁選中、「テレビ報道や情報ワイド番組が自民党一色になっている。場合によってはBPO(放送倫理・番組向上機構)への対応を考えなければならない。総選挙を控えているという状況をまったく理解していない」といらだちを隠さなかった。

 同党は9月21日、アベノミクスについて「強い者をさらに強くしただけに終わり、格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった」との検証結果を発表した。衆院選では時限的な消費税減税などを訴える方針だが、巻き返しの時間はそう多くない。共産党など野党間の選挙協力態勢の構築も急務だ。

 先に紹介した毎日新聞の世論調査では、無党派層の7割が衆院選比例代表の投票先をまだ決めていないと答えた。無党派層が与野党のどちらに傾くかで、選挙結果は大きく変わる。

 総裁交代で自民党の狙いは的中し、「これで衆院選は安泰」(幹部)という声すら聞こえてくるが、ここで慢心すれば「ご祝儀相場」の効果は意外に早くはげ落ちるかもしれない。(敬称略)

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