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【日本M&Aセンター会長に聞く】3社に2社が後継者難、事業承継に向け、どう手立てを打っていくか?

財界オンライン / 2021年10月18日 11時30分

分林保弘・日本M&Aセンター会長

後継者がいないがために廃業している企業は、何と年間約5万社にも上る。政府もこの現状を重視し、後継難問題に補助金制度を打ち出す考え。長年事業承継を手掛けてきた分林氏は「廃業する企業を救うためにもM&Aが必要。そして我々自身も質の高い業界にしていく」と業界団体の設立に動き、日本M&Aセンターも今年10月、持ち株会社に移行。会長の分林保弘氏が目指す、今後の企業の姿とは──。

国とも一体となり中小企業向けM&Aを
 ── 日本M&Aセンターは今年、創業30周年を迎えましたね。10月には持ち株会社体制にしたわけですが、この狙いから聞かせて下さい。

 分林 今回、当社は10月1日からホールディングカンパニーに移行します。狙いはグループ経営の強化です。もちろん、事業会社としての日本M&Aセンターが中心にはなりますが、他にグループに8社があります。

 プライベート・エクイティ・ファンドを運営する「日本投資ファンド」や、PMI( PostMerger Integration =買収後の経営統合支援)のコンサルを行う「日本PMIコンサルティング」、中小企業M&Aにおける企業価値評価を行う「企業評価総合研究所」などがあります。

 その中で、上場を含めた次の展開を考えているのが、2018年に設立した「バトンズ」という会社です。年商1億円以下の企業を中心に、オンラインで事業承継マッチングのサービスを展開していますが、今年6月に成約が累計1000件を突破したんです。

 ── 事業承継がオンラインで決まる時代になっていると。

 分林 決まります。1店舗だけ運営しているような飲食店など、300万円、500万円という単位でM&Aが可能な個人商店に近い小規模の企業を、起業をしたい人達などが欲しているんです。

 ── 事業承継はもちろんのこと、結果として起業家を育てることにもつながりますね。

 分林 そうです。今、日本では3社に2社という割合で後継者がいません。私が起業した91年頃は、82.5%の企業で経営者のお子さん達が継いでいましたが、足元ではお子さんが継ぐケースは26%、親族を含めても35%しか継いでいません。

 そして年間約5万社が、後継者がいないがために廃業しているんです。ですから日本M&Aセンターが中心となり、他にM&Aキャピタルパートナーズ、ストライクという上場しているM&A仲介会社3社プラス2社の計5社が理事となり、10月にも中小企業M&Aを手掛ける企業による自主規制団体を設立する予定です(10月1日設立)。

 中小企業庁としても、こうした活動を支援したいという考えがありますから、業界の登録制度も開始します。登録企業が手掛ける案件では着手金や成約報酬の一部を、国として後継難問題を解決するための補助金制度を一定の枠内でつくろうという構想です。

 ── 国とも一体となって、中小企業向けM&Aを推進していくと。

 分林 ええ。中小企業庁も、廃業する企業を救うためにもM&Aが必要だと考えておられます。そして我々自身も、さらに質の高い業界にしていくために必要なことだと思っています。

 M&Aへの誤解を解いていくことも重要です。特に我々が手掛けている中小企業向けのM&Aではマッチングが重要です。どの企業同士が組めばシナジー効果が出て会社が成長できるか、社員を大事にしてくれるかという見極めが大事で、ここが合わない企業とは組めません。

 それを仲介してベストのマッチングをするのが我々の仕事です。あまり知られていませんが、実は米国でも中小企業のM&Aには仲介会社が入っています。こうしたことも、もっと知ってもらいたいと思います。

「プロ向け市場」を重視する理由
 ── 今年10月は持ち株会社化、自主規制団体の設立と、大きな転機になりますね。

 分林 そうですね。我々のグループ企業がさらに飛躍する機会になると思っています。

 先ほど申し上げたように、グループ会社のバトンズは、年商1億円以下の企業を対象にしたネットマッチングの会社で、5年間で累計成約数が1000件を突破しました。

 日本投資ファンドは日本政策投資銀行と50:50の合弁で設立した会社ですが、すでに中小企業4社ほどに投資しており、今後は上場などを目指して企業価値の向上を図っていきます。

 また、青山財産ネットワークスとの合弁で設立した「事業承継ナビゲーター」では、事業承継、財産活用に関する総合的コンサルティングを行っています。

 他にも、これは会社にはしていませんが、東京証券取引所のプロ投資家向け市場「TOKYO PRO Market」への上場のための支援(審査および上場後のモニタリングや助言・指導)を手掛けています。

 TOKYO PRO Marketは09年にできた市場で、1年半ほど前までは40社余りしか上場していませんでした。なぜなら、売り出しがないので大手証券会社が手を出していなかったからです。

 実は、その資格を持っている会社を1年ほど前に当社がM&Aをして事業を始め、すでに70社以上とアドバイザー契約をしており、今年度末には100社を超える見通しです。将来的には当社が契約している企業から300社は、このマーケットに上場させていきたいと思ってい
ます。

 ── プロ投資家向け市場は今後も有望だということですね。

 分林 ええ。このマーケットのモデルとなったのは、「世界で最も成功した新興市場」と言われるロンドン証券取引所のAIM(Alternative Investment Market)です。すでに800社以上が上場していて、さらに伸びています。東証さんは、この市場を参考にしているんです。

 当社では、ロンドン証券取引所出身で、TOKYO PRO Marketの前身となった「TOKYO AIM」の事業開発ディレクターを務めたアン
ナ・ディングリー氏が社外取締役に就任しています。

 我々が手掛けたTOKYO PRO Market上場企業の中に、次は東証マザーズへの上場を目指してM&Aを進めている保育園、介護を手掛ける企業がありますが、すでに事業モデルが出来上がっています。当初は年商15億円ほどでしたが、すでに80億円を超えています。

 ── プロ向け市場も含め、改めて上場することの意義をどう考えますか。

 分林 私は今年11月、当社主催の「M&Aカンファレンス」で「起業のススメ」というテーマで講演をするのですが、このカンファレンスにはニトリホールディングス会長の似鳥昭雄さんにもご講演いただきます。

 ニトリさんは上場して以降に業績を伸ばした会社です。上場を目的にしていたら、今の成長はなかっただろうと思うんです。

 当社も、上場前の経常利益が1億円ほどでしたが、「5年後に上場しよう」と決めて計画をつくりました。そうしたら、翌年には経常利益が2億円、次の年は4億円、さらにその次には7億円と伸びていきました。

 5年後に上場と考えていたものが3年で東証マザーズに上場ができ、その後、経常利益が10億円になりました。さらに上場後1年2カ月で東証1部に上場することができたのです。当時史上4番目の速さでした。

 私が申し上げたいのは、目標を持てば、絶対に前に進むことができるということです。お陰様で、創業30年が経ち、前期で経常利益が165億円、時価総額は1.2兆円を超えています(9月16日現在)。

 我々も成長したのは上場をしてからです。上場しようと決めてから倍々ゲームで利益が出て、上場後には良い人材が集まり、信用力が高まりました。人材と信用力は企業にとって最も大事です。我々は世の中に、そうした上場の重要性を、プロマーケット向けの活動も通じて伝えていきたいと思っています。

M&Aを有効活用し成長する企業
 ── 数々のM&Aを手掛けてきた分林さんから見て、M&Aを上手に活用している企業はどこになりますか。

 分林 成功事例として挙げるとすればオリックスさん、日本電産さん、富士フイルムホールディングスさんでしょうか。

 オリックスさんは、これまで50社以上のM&Aをされていると思いますが、対象としているのは金融を中心としたサービス業がメインです。

 また、日本電産会長の永守重信さんも優れたM&Aをしています。私は日本電産で講演をしたことがありますが、永守さんは講演中も「M&Aせなあかん」、「M&Aせなあかんで」とおっしゃっていました(笑)。

 日本電産は70社近くM&Aをしていると思いますが、赤字状態で買っている会社も多いと聞きます。しかしそれを2年以内にほぼ黒字にされています。

 ── いい経営者が経営をすれば会社は変わると。

 分林 そう思います。また、富士フイルムホールディングスさんは古森重隆さん(現・最高顧問)が2000年に社長に就任して以降、M&Aを活用してこられました。

 私は1965年(昭和40年)、東京五輪の翌年に貨物船で米国に行きました。その時に初めてカラーフィルムを持っていったのですが、当時のカラーフィルムはほとんどが米コダック製でした。それが今やコダックは事実上倒産し、富士フイルムは成長を続けている。

 これは20年間、40社近くのM&Aを手掛けてきたこと、加えてヘルスケア領域にこだわってきたからだと思います。フィルム事業自体のシェアは減っても、社名は「富士フイルム」としていることもすごいなと思いますね。

 ── 自社が身を置く業界を大きく外れたM&Aは成功の確率が下がると。

 分林 経営者も社員も、その会社がわかりませんから。自らの業界の隣の庭まではいいけれども、離れた庭までは手を出してはいけないということだと思います。

 そして、やはりグループとして事業を推進していくことが大事です。当社もM&Aの会社として複数のグループ会社を持っていますが「M&A」という軸を外してはいけないと。我々もM&Aはあくまでも経営戦略の範囲内で手掛けています。これが一番大きいことだと思います。

 もう一つ、我々が持ち株会社制にする狙いは、先ほどのグループ会社の上場もそうですし、そのことを通じて経営者、経営陣を育てていきたいということもあります。

 日本M&Aセンターの社内で育成しようとしても、どうしてもその看板を頼ってしまう傾向があります。まして、当社はこの3年間、年間100人以上が入社してきています。中途入社の人達は一流企業から来ていますが、みんな仕事を通じた社会貢献、一生涯を懸けた仕事したいという思いを持っています。

 その延長線上に、将来は経営者になりたいという人も多い。ですから彼らの意欲を満たすためにもグループ企業と、その成長が必要です。その社長、役員を務める時にも、ホールディングス制の方が早く育つのではないかと考えています。

 私や三宅(卓・日本M&Aセンター社長)の世代から、これからの5年間で次の世代を育てていくという狙いもあります。

 ── 海外事業はどう進めますか。

 分林 アジアでも、例えばシンガポール、マレーシア、ベトナムの企業にも後継者問題が浮上してきています。我々はシンガポール、マレーシアにオフィスを置き、インドネシア、ベトナムに別会社を設立、タイにも設立する予定です。

 コロナ禍以降、オンライン面談のみで成約する案件もあります。シンガポール企業には日本企業に買って欲しいというニーズがあったり、日本企業にはアジアに出たいというニーズがありますから、今後も有望です。

 今、我々はすでにM&Aの件数では世界最大となっていますが、最終的には日本、アジアを中心に世界最大のM&A会社になることが私の目標です。

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