危機への備え──「天災はいつでもやってくる」【私の雑記帳】
財界オンライン / 2021年10月30日 11時30分
首都圏の大地震で…
危機管理の要諦は、常に「最悪の事態を想定して備えること」といわれる。
10月7日(木)、午後10時41分頃、千葉県北西部を震源とする”真夜中の地震”にはびっくりさせられた。
筆者も、ひと仕事が終わり、東京・文京区の自宅マンションでテレビのニュース番組を見ている最中、グラっと来て、大きな横揺れが激しく続いた。同時に、スマホから大地震を知らせる警報がけたたましく鳴り始めた。
これは震源は近いなと直感したが、ニュース番組も急きょ、地震情報に切り換えて、同日夜の首都圏は緊張感に包まれた。
東日本大震災(2011)から10年、コロナ危機が収束する兆しを見せているときの大地震の襲来。
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関東大震災(1923)から98年が経ち、同じ震度7クラスの大地震がそろそろ発生してもおかしくないといわれる今、改めて危機への備えをしておかないといけないと感じる。
かつて、物理学者で作家の寺田寅彦(1878―1935)は「天災は忘れた頃にやってくる」と言ったが、今は「天災はいつでもやって来る」という環境。大事なのは、危機への備えである。
天然ガスの高騰に…
資源・エネルギーや農産物の価格上昇が続く。石油、天然ガス価格の大幅上昇は、産業はもちろん、一般消費者生活にまで多大な影響を与える。
食料品の値上げ、それに天候異変で野菜類の価格上昇が家計を圧迫する要因にもなっている。
世界中がインフレ基調になり、2022年の世界経済の成長を下押しする構図。コロナ危機に加え、このインフレ基調も波瀾の要因になりつつある。
今、欧州をはじめ世界全体がエネルギー不足に直面している。
エネルギー領域の某首脳は、天然ガス価格が昨年末と比べ、25倍の高騰になっていることに関連し、「石油と違って、天然ガスは在庫ができない」として、「世界中で天然ガスの獲得競争になっている。厳しい状況です」と語る。
食料にしろ、日本の自給率は38%(カロリーベース)。同じ島国である英国の63%と比べても低い。英国と同じ欧州各国も日本より食料自給率は高い。歴史的に戦禍に見舞われる頻度が高かったせいか、自立心が強いというか、欧州には危機への備えがある。
フランスの食料自給率は127%で、ここは農業輸出国でもあり、危機に強い構造だ。日本はいったん火急の事態が起きた時に、先進国の中でも脆い構造になっている。
目標達成までの橋渡し
2050年、地球温暖化の”元凶”となる二酸化炭素(CO₂)の排出を実質ゼロにする──と昨年、菅義偉内閣は宣言。
今、官民あげて、そのカーボンニュートラルを実現すべく、カジを切り替えようとしているが、粗鋼生産にコークスを大量に使う製鉄業あたりからは「高いハードルだ」と悲鳴が上がる。
製鉄各社は水素還元製鉄など新しい製法を開発中だが、その完全移行までにはまだ時間がかかる。
要は、新しいステージへ移行するまでの”橋渡し”(トランジション)をどう構築するかという命題である。
ENEOSが再生可能エネルギー会社買収を決めるなど、自然との共生へ向かって、再生可能エネルギーへこぞってナダレを打つ現象が出ているが、「最終目標へ向かうまでの手立てをどう図るか。これは、原子力発電を含めて、政府と民間でよく話し合いながら、決めていきたい」と某首脳は語る。
理想へ向かって邁進しつつも、エネルギー不足という現実を踏まえての前進ということを考えた場合、この”橋渡し”という考えも大事だと思う。
新政権の『成長と分配』策
岸田文雄・新政権もそうした危機管理体制づくりへ、真価が問われる時である。
21世紀入りして20年という節目での新政権発足。岸田首相は、”新しい資本主義”を標榜して、「成長と分配の好循環」を実現する政策を訴える。
安倍晋三政権時代のアベノミクスを批判する立場からは、「アベノミクスの継続だ」という声も出るが、そうしたレッテル貼りではなく、日本経済再生のための本質的手立ては何か──という視点こそが大事であろう。
1990年代初めにバブル経済が崩壊し、日本は”失われた10年”の時代に入る。
それがいつしか”失われた20年”になり、さらに2000年代に入ってからもデフレ基調が続いた。結果的に”失われた30年”となった。
GDP(国内総生産)も500兆円台で停まったまま。1人あたりのGDPも世界23位まで落ち、香港よりも下位だ。
アベノミクスで株価は上昇し、企業業績も向上。しかし、従業員の所得は思ったように上昇していないという現実を踏まえて、岸田首相は、「分配」政策を打ち出そうとしている。その実行を注意深く見守りたい。
『成長』に必要な存在
「成長がなければ分配もない」と岸田首相は言う。岸田内閣が今後、どんな成長政策をつくり出すか注目していきたい。
富を生み出すのは民間企業。その企業数は約360万。うち99%は中小企業である。その中小企業は全雇用の70%を占め、雇用面では重要な役割を果たす。
その中小企業の存在意義をどう捉えるか?
「これまで中小企業に対して、生産性の悪い所はつぶせとばかりに言う向きもありましたが、中小企業は、日本の成長のエンジンと捉えるべきです」と話すのは、東京中小企業投資育成社長の望月晴文さん(元経済産業事務次官)。
中小企業は大企業のいわゆる下請として、部品や部材の生産を担ってきたが、自分たちの技術を磨き、「チャレンジングな企業家精神を持ったところは多い」と望月さん。
むしろ、大企業のトップは、〝失われた20年〟〝 失われた30年〟の間にリストラに迫られ、〝守り〟に追われてきたという指摘もある。
明暗を分けるもの
かつて、電機業界と括くくられてきた業界で、ソニーグループは純利益で1兆円を稼ぐ企業に成長。片や東芝は不正会計問題などもあっ
て〝失速〟、今はガバナンス問題などでも迷路に入っている。この差はどこから生まれるのか?
「成長へ向けてのきちんとしたシナリオが描けているかどうかがカギです」と望月さん。成長シナリオづくりの必要性は大企業であろうと、中小企業であろうと同じ。
『ソサエティ5・0』の時代がいわれ、通信業界では5G(第5世代)の時代、さらには6Gもささやかれる。イノベーションによる成長はいつの時代も必要。そして、成長あっての分配である。
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