ビッグバン以前の原始ブラックホール誕生の謎、シミュレーションで解明 東大
財経新聞 / 2024年6月4日 9時33分
インフレーションを引き起こす位置エネルギーの模式図。右側から坂を下りはじめ途中の平らなところでゆらぎが増幅されて原始ブラックホールができ、最後に原点付近を振動すると位置エネルギーが摩擦熱に変わり、熱いビッグバン宇宙になる。(c) ESA/Planck Collaboration, modified by Jason Kristiano
宇宙はビッグバンで始まったとされるが、ビッグバン発生メカニズムの研究により、ビッグバン以前にインフレーションと呼ばれる爆発的膨張が起こっていたことがわかってきた。インフレーションが起こったころの宇宙は水素原子よりも小さく、量子論的考察が必要だ。
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構は5月30日、ビッグバン以前の宇宙の量子論的シミュレーションによる、原始ブラックホール誕生に関する考察結果を公表した。
ビッグバン直後の宇宙には、ゆらぎ(エネルギー密度の濃淡)があったことが判明している。このゆらぎをもたらした原因は、ビッグバン以前のインフレーションを起こした宇宙の量子ゆらぎが最有力と考えられ、初期の宇宙のゆらぎの度合いはCMBの観測結果から、10万分の1程度しかないとされる。
この観測事実は、スローロールインフレーションと呼ばれる、インフレーションを起こす素粒子の場が、ポテンシャルの坂道をゆっくりと転がりながらインフレーションを起こすモデルによって説明されるという。
従来考えられてきたスローロールモデルでは、短波長のゆらぎが小さく、原始ブラックホールは誕生しえない。そこで、今回の研究では、ポテンシャルの坂道の途中に踊り場を設けたウルトラスローロールモデルを考案した。これにより、様々なスケールの原始ブラックホールが誕生しうる大きさのゆらぎを生成させることが可能になる。
ウルトラスローロールモデルで原始ブラックホールをもたらす大振幅を持つ小スケールのゆらぎ同士が、量子論的にぶつかり合う効果を詳細に計算。その結果、このような小スケールに生成された大きなゆらぎが、CMBで観測される大スケールのゆらぎに影響を及ぼすことを明らかにした。だが太陽の数十倍程度の大きさの原始ブラックホールが誕生するような条件では、CMB観測結果と矛盾することも判明した。
ダークマターの本質が何なのか、なぜそれが存在するのかは不明だ。原始ブラックホールはその謎を解く重要なカギ絵を握るが、その生成機構の解明には、より複雑な理論を考え出す必要がありそうだ。
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