外国語学習が脳の構造と機能を変える! 外国語学習の過程から生まれる3つの利点
財経新聞 / 2024年6月5日 10時4分
ChatGPTやGoogle 翻訳など機械翻訳のレベルが上がっている。将来的には翻訳や外国語学習という行為そのものがなくなるかもしれない。
こうした中、アメリカの心理言語学者が多くの実験やデータをもとに、多言語の習得と使用が人間の創造力や集中力を高めることを究明した。今回はアメリカの心理言語学者ビオリカ・マリアンの著書『言語の力』をもとに、多言語の習得と使用の過程から得られる3つの利点について紹介したい。
■利点1「創造力の向上」
ビオリカ・マリアンは同著で、「マルチリンガルと創造的思考の間に強いつながりがある」ことを説明している。それは多言語を習得すると、認知の構造が変化し、脳内で複数言語の同時活性化が起こるからだ。私たちが考えたり話したりする時、脳内では知っている全ての言語の中で、発音、スペル、声調などの特徴がかぶる単語が並行して活性化されるという。活性化はニューロンの発火につながり、同時に発火するニューロンはお互いにつながるという性質がある。
これにより、複数の言語を話す人は、2つのものの間に、1つの言語しか話さない人には分からないつながりを見出す。その結果、モノリンガルの脳内では起こらないような新しい発想を生み出すことができる。これが創造性の基盤になるというのだ。
■利点2「集中力が高まる」
集中力とは、目の前のタスクに関係のある情報に集中し、その他の関係ない情報を無視する能力だ。いらない情報の遮断が集中を可能にするには不可欠ということだ。ビオリカ・マリアンや関連分野の研究者たちがこれまで行ってきた実験によって、2つ以上の言語を話す人は、強度な集中力を保持することが分かってきた。
多言語話者は日常的に言語を切り替え、その時に使っていない言語からの干渉を無視するという訓練を行っている。このため、脳が鍛えられ、注意の抑制やタスクの切り替えといった能力に優れる。こうして、より効率的なコントロールシステムを発達させ、強度な集中力を保持し得るようなのだ。
■利点3「認知症リスクが軽減」
複数の言語を話すことは、アルツハイマー病やその他の認知症の発症を平均して4年から6年遅らせる。著者は、マルチリンガルを対象にした最近の神経科学の研究成果として述べている。2つ以上の言語を常に使い分けていると、脳内ではより多くの神経の通り道が形成されるという。そして、たくさんある神経の通り道が脳の衰えを補う役割を果たしてくれるというのだ。多言語話者は脳につながりが多くあるおかげで、一部が衰えても残りの機能を有効に使うことが可能になり、モノリンガルに比べて記憶力と認知機能の低下を抑えられる。このことが認知症リスクの軽減につながるようなのだ。
著者は「外国語を学習する真の利点はその過程から生まれる」という。そして、過程から生まれる利点として、上記の3つの効果以外に、「合理的思考を鍛える」、「多様性へのより適切な対応が可能になる」などを挙げている。
また、新しい言語を学ぶ最適なタイミングについて「生まれた時」としている。その次に最適なタイミングは「今だ」と述べる。かつては、思春期を限界とする外国語習得の「臨界期仮設」が唱えられていた。しかし大量のデータを再分析した結果、臨界期は無いという結果が得られたようなのだ。
同著は主にマルチリンガルやバイリンガルなど多言語話者と、1つの言語しか話さないモノリンガルとの比較による研究結果を紹介している。
現時点で日本は日常生活で数カ国語を使用するマルチリンガル社会と言える状況にはない。しかし、同著で紹介された外国語学習の過程から得られる多くの利点をモチベーションにすれば、日々の外国語学習をより効果的に進められるのではないだろうか。モチベーションは外国語学習を継続させる最大のポイントで、継続だけが成功に至る唯一の道だ。
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