月面探査車の長期活動を可能にする、高温・極寒熱制御技術の開発 名大らの研究
財経新聞 / 2024年6月15日 9時17分
アポロ計画で米国により月面探査が本格的に行われたのは、1960年代終わりから1970年代にかけてのことだったが、いずれのミッションも月面での滞在期間は2週間未満であった。その理由は、当時の技術レベルでは月面の高温あるいは極寒の環境に長期間ミッションが耐えられなかったことや、持ち込める食料や機材の量が限られていたためである。
だが最新のアルテミス計画では、近い将来火星を目指すために必要となる様々な試みを月面で実践するため、月面での長期滞在が必須となるだろう。
名古屋大学は11日、月面探査車の長期活動を可能にする、高温・極寒熱制御技術開発に関する情報を発表した。地球には大気があり、1日は24時間と短時間のため、昼間と夜の寒暖差はそれほど大きくない。だが月面ではおよそ2週間ごとに昼夜が入れ替わり、昼間の温度は最高で100度、夜は最低で‐190度まで低下するため、その寒暖差は実に300度近くにまで及ぶ。
名古屋大学、JAXA、豊橋技術科学大学の研究者らによる研究チームは、このような技術課題を克服するため、低消費電力で冷媒の流動を制御可能な電気流体力学ポンプを新たに開発。無電力で高効率な放熱ができるループヒートパイプとの組み合わせにより、昼は無電力で放熱し、夜は低消費電力で極寒環境との断熱ができる熱制御デバイスを開発した。
月面探査車においても、省エネは非常に重要だ。極寒の環境でできるだけ少ないエネルギーで月面探査車の電子回路を保温し、灼熱地獄で電子回路を効率よく冷却するための工夫として、研究チームでは、電気流体力学(EHD)ポンプとループヒートパイプ(LHP)の組み合わせを採用。
EHDでは、冷却のための熱効率の良い液体強制対流と、沸騰・凝縮の2つの熱機構を応用し、極めて少ないエネルギーでのデバイス冷却を実現。LHPでは、デバイスの発熱を蒸気でラジエターに運び、ラジエターから宇宙空間に輻射により熱放出を図る仕組みをとり入れ、無電力での冷却機能作動を実現させた。
この技術はまず無人探査で応用されるだろうが、人類が月面だけでなく、火星探査などを意識した宇宙での長期滞在の実現にも繋がってゆくため、今後の発展が大いに期待される。
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