ホンダは大丈夫か?
財経新聞 / 2024年6月27日 17時47分
昨今のホンダを見ていると、どんな未来予想図を描いて世界戦略を展開しようとしているのか、部外者の筆者レベルでは想像がつかない。
2040年にEV車と燃料電池車(FCV)に全面的に転換すると言うが、どれ程の成算があって方針決定をされたのだろうか?
優秀な経営陣が、入念な分析に基づき、高度な経営判断を下したのだから、勿論確たる根拠がある筈だが、拙い経験から同社の過去を色々な場面で考察して見たい。
●本田宗一郎氏の存在
創業者の本田宗一郎氏の存在無くして同社を語れないが、最大の同社の強みは「内燃機関の卓越した技術力」だ。F-1レースでは、『ホンダは、エンジンサプライヤーとしてコンストラクタータイトル6回、ドライバーズタイトル6回の獲得を記録。また、フルワークス体制で3勝を挙げており、F1に参戦した日本のメーカーの中で最も成功したメーカーである(Wikipediaより)』との実績を誇っている。
『日本刀と青龍刀 日本と中国の自動車技術』(2021年8月7日付)でも述べたが、名刀を鍛える最高峰の技術を持ちながら、日本刀を捨てて青龍刀に軸足を移す意図が全く理解できない。
本田宗一郎氏が存命なら、果たしてこの様な方針が採用されたかは、はなはだ疑問である。
●CIVICヒットの頃
1972(昭和47)年に登場したシビックに対する筆者の印象は、従来の「車格」を打ち破った商品展開が素晴らしいと思ったことだ。それまでの「自家用車」は、最下層に軽自動車があり、大衆車、小型車、中型車と次第に大きな「高級車」に昇りつめて行く。
マツダはこれを「ピラミッドビジョン」と表現し、トヨタも「いつかはクラウン」という名コピーで表現した。しかしシビックは、こんな階級を打破したと考える。
紳士服には、「仮縫い付オーダーメイド」、「イージーオーダー」、「既成服」という階級が存在した。
英国製有名生地を使って、テーラーが入念に仕立てたスーツを着る人から見れば、「吊るし」と蔑称で呼ばれた「既成服」を着る人とでは格の違いが鮮明だった。
そこへ、そんな階級には無関係な、ジーンズを着こなす人物が現れた。シビックは、車格ヒエラルキーを超越する、そんな商品展開であったと考える。
ホンダは、そんな発想の豊かな会社だった。
また車格打破だけでなく、CIVICに搭載したCVCC技術で、当時世界一厳しい排ガス規制「マスキー法」を、このホンダ「CVCC」とマツダ「REAPS」だけが達成したことも忘れてはならない。
●軽自動車への取り組み
一時は一世風靡した「N360」以降、ホンダは次第に軽自動車のシェアを落として行った。傘下の販売店にとっては、不本意な事態で、メーカーにも不満の声が届いていたであろうことは容易に想像できる。
スズキ、ダイハツが大きくシェアを獲得し、マツダはスズキのOEMとなり、スバルもダイハツから供給され、三菱は日産と一緒にやっている。
ホンダも割り切れば良かったと思うのだが、「軽市場のシェア」獲得に注力した。その結果、軽自動車のトップ銘柄に躍り出たが、相対的にフィット等の、軽以上の車種の販売台数が減少した。
参考までに2023年のランキングを示して置く。
1位 ホンダ「N BOX」 2位 ダイハツ「タント」 3位 ダイハツ「ムーヴ」 4位 スズキ「スペーシア」 5位 日産「ルークス」 6位 スズキ「ハスラー」 7位 スズキ「ワゴンR」 8位 スズキ「アルト」
●車を売る手間は高級車も軽自動車も大差ない
営業マンの立場からは、ファミリーカーを売るよりも、上級機種を売る方が却って面倒は少ない。アパートの近くの月極の車庫を探すより、戸建ての自宅の庭で車庫証明が取れる方が簡単だ。ローンの手続きをするより、一括で支払って貰う方が、手間は要らない。
一家で1台だけ購入するから、色々な要求を取りまとめるのに家族のコンセンサスが必要な家庭より、複数台数を保有する家庭の方が、決断も早い。
●原価がタダでも~
150万円の車と400万円の車を比較すれば、150万円の車は「原価がタダでも」150万円しか儲からない。400万円と言わず600万円とか、高額な車の方が、利益も大きいのは明白だ。おまけに、上述の様に売る手間も高額車の方が楽であったりする。
●高額車の生産能力
NSXに代表される高性能車は、必然的に高額となる。NSXで台数を稼ぐのは難しいが、この車種をメーカーの製品群の頂点として扱い、高性能を売り物にしたシリーズである程度の台数を稼げば良い。軽自動車でシェア獲得を狙う為に、車種ミクスの構成を崩してまで、本来しっかり基礎固めすべきジャンルの台数を落とすのは愚策だと思われる。
ホンダジェット顧客層のニーズに適合する様な高級車を投入するといった戦略の方が、効果的だと勝手に考えている。
ロータリーエンジンの灯を途絶えさせること無く、地道に研究を続けて来たマツダの様に、過度なEVシフトが間違いだったと判断された場面で、過去蓄積して来た「内燃機関技術」を大いに発揮して貰いたいと切望する。
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