上昇機運にある「金利」、預ける人や借りる人よりも、戸惑っているのは銀行?
財経新聞 / 2024年6月26日 16時37分
植田日銀総裁は発言の重みを十分理解しているので、今後上昇すると見られている金利に対する発言は、慎重そのものだ。巷では「上がるのは間違いないが、上がる時期が読めない」というストレスが膨らんでいる。
お金を借りる時には、使用料のように金利を払うことが経済の鉄則だ。景気が悪くなれば金利を下げ、景気が過熱した時には金利を上げることで、景気を調整する機能が金利にはある。米FRB(連邦準備制度理事会)が金利を上下する判断基準は、まさにここにある。
ところが、日本では現在までの概ね20年間ほど、長期金利が1%を下回り、ほとんどゼロかマイナスという時代がついこの間まで続いた。景気が悪いのに金利を引き下げる余地がないという土壇場の状態から、脱却できないでいた。
高度成長期には「金融は経済の血液」と言われた。お金が社会のすみずみまで隈なく回ることで経済が円滑に回ることを意味するが、マイナス金利の最盛期には、大口の預金を忌避する銀行が話題になった。
資金の貸出先がなければ、日銀の当座預金に預けるのが鉄則だが、マイナス金利なので銀行は日銀に0.1%の金利を支払うハメになるからだ。
マイナス金利が、日銀と日銀に口座を持つ銀行との間だけに適用されていたルールだったことは、幸いだった。一般の預金者にこのルールが適用されていたら、日本社会にパニックが発生して大混乱になっていたことは想像に難くない。
銀行は多くの人から預金を集めて預金利息を払い、大きな資金を必要とする企業などから多少の利鞘を上乗せした貸出金利を徴収する。例えば、ある銀行全体の預金金利が5%で、貸出金利が5.5%だったとしたら、その銀行は預金総額に対して0.5%の粗利を稼ぐことが出来る(実際には預貸率の制限があるので、預金総額を貸し出すことは出来ない)。
この例では、1兆円の預金総額(資金量)を有する銀行は、年間50億円の粗利(営業利益)を上げることが出来た。日本の銀行は戦後の大半の時期をこんな金利水準の中で過ごしていたが、ゼロ金利政策やマイナス金利政策は銀行の経営を大きく揺さぶった。
預金を集めても貸出先が見つからない、資金を必要とする企業から金利の引き下げを迫られ、金利を入札で決めるという屈辱的な状況も珍しくなくなっていた。
今後は徐々に金利が上昇すると見込まれるから、銀行は顧客企業と金利の交渉をする機会が増加するが、今までおよそ20年間に渡って採用されてきた全体の半数程度の銀行員の中には、金利の感覚が身に付いていないものも多いはずだ。
現に千葉銀行、きらぼし銀行などは職員や営業店トップに対する金利教育を始めたことが報じられているし、その他にも不安を抱いて計画を進めている銀行も多いことだろう。
何しろ今までは、手数料を稼げる投資信託や保険を推進する一方だったから、指導的な立場にいても金利交渉を経験したことがない銀行員が少なくない。
預金を預ける側は多少の期待を持って待ち受ける金利の上昇だが、借入で資金を賄うしかない企業にとっては頭の痛い問題だ。そして誰よりも戸惑っているのが、銀行だというところにこの話題の特異さがある。
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