特集2018年3月5日更新

2018年(第90回)アカデミー賞の受賞作は?

「アメリカ映画の祭典」と呼ばれ絶大な知名度を誇る「アカデミー賞」の授賞式が、日本時間の3月5日に行われました。最も注目を集めた作品賞の受賞作や日本人の受賞者を紹介するとともに、作品賞にノミネートされていた9作品、そして他部門にノミネートされていた日本人を紹介していきます。

目次

作品賞は『シェイプ・オブ・ウォーター』

デル・トロ監督は監督賞も受賞

『第90回アカデミー賞』授賞式が現地時間4日、米ロサンゼルスで開催され、作品賞をギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が受賞した。
同作は、米ソ冷戦下のアメリカを舞台に、声を出せない女性が不思議な生き物の“彼”と心を通わせるさまを描く。『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』などを手がけ、“怪獣オタク”としても親しまれているデル・トロ監督がメガホンをとり、アカデミー賞監督賞も受賞した。

辻一弘氏がメイクアップ賞 日本人初受賞

日本人個人は25年ぶり快挙

第90回アカデミー賞の授賞式が3月4日(現地時間)、米ハリウッドのドルビー・シアターで行われ、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」で特殊メイクを担当した日本人アーティスト・辻一弘氏が、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を初受賞した。日本人がオスカーを獲得したのは、2009年・第81回の滝田洋二郎監督作「おくりびと」と、加藤久仁生監督作「つみきのいえ」以来、約9年ぶり。個人としては1993年・第65回の「ドラキュラ」の故石岡瑛子さん以来、約25年ぶりの快挙となった(科学技術賞、名誉賞、特別賞を除く)。

2018年 第90回アカデミー賞

2018年アカデミー賞授賞式の概要

日時2018年3月5日 10:00~(日本時間)
会場ドルビー・シアター(アメリカ・カリフォルニア州)

今回のアカデミー賞の見どころ

女性候補者数が史上最多タイ

1月23日(現地時間)にノミネーションが発表された第90回アカデミー賞で、女性候補者の数が2016年と並ぶオスカー史上最多を記録したことが、米Deadlineによってわかった。撮影賞や監督賞、編集賞といった伝統的に男性優位の傾向が強い主要カテゴリーを含め、俳優部門以外でノミネートを獲得した女性の数は40人にのぼる。

レッドカーペットの女優たちが黒一色に?

例年であれば、女優たちが最新トレンドのドレスに身を包み“美の競演”を繰り広げるレッドカーペットだが、今年は黒一色になる可能性が高い。その理由はもちろん、長年映画業界に横行したセクハラを含めた、女性への性暴力撲滅を訴える「#Me Too」及び「Time's Up」キャンペーンへの賛同だ。すでに第75回ゴールデングローブ賞、第71回英アカデミー賞で同様の現象が起こっており、この流れはアカデミー賞にも引き継がれるはず。

司会は昨年に引き続きジミー・キンメル

今年は昨年に続き、ジミー・キンメルが司会を務めることが発表されており、ハリウッドを取り巻くセクハラ問題をどのように扱うのかも注目されている。

昨年の授賞式で起きたハプニングをパロディー化したネタ動画を投稿していて、こちらも注目を集めています。

昨年の第89回アカデミー賞で、作品賞のプレゼンターに間違った封筒が渡り、受賞作品ではない作品が読み上げられるという事件から約1年。昨年に続き、米人気コメディアンのジミー・キンメルが第90回アカデミー賞授賞式の司会をするということで、昨年の悪夢をパロディー化したユーモア溢れる動画で司会を務めることをアピールした。

メリル・ストリープが前人未到21度目のノミネート

本作でなんと21度目のオスカー候補となったメリル。12度候補になったキャサリン・ヘップバーンとジャック・ニコルソンを大きく引き離す前人未到の記録だ。

アメリカのトーク番組「Jimmy Kimmel Live!」にストリープが出演した際、アカデミー賞で自身がノミネートされた作品を60秒以内にいくつ答えられるかというクイズに挑戦しています。

“無冠の帝王” 撮影賞14度目の挑戦 ロジャー・ディーキンス撮影監督

SFドラマ「ブレードランナー 2049」の撮影監督ロジャー・ディーキンスが、第90回アカデミー賞で撮影賞に14度目のノミネートを果たした。ハリウッドきっての名匠でありながら、アカデミー賞ではいつも受賞を逃してきた“無冠の帝王”のディーキンス。初ノミネートから23年、今回こそ栄光に輝けるのだろうか。

アカデミー賞「作品賞」ノミネート作

今回の見どころをひと通り紹介したところで、ここからは最も注目を集める作品賞のノミネート作品を見ていきましょう。

君の名前で僕を呼んで

原題Call Me By Your Name
邦題君の名前で僕を呼んで
監督ルカ・グァダニーノ
キャストティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー ほか
日本公開日2018年4月27日
公式サイト 映画『君の名前で僕を呼んで』

作品ストーリー

1983年夏、北イタリアの避暑地で家族と夏を過ごす17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と出会う。一緒に自転車で街を散策したり、泳いだり、午後を読書や音楽を聴いたりして過ごすうちに、エリオのオリヴァーへの気持ちは、やがて初めて知る恋へと変わっていく。

アカデミー賞4部門にノミネート

昨年11月24日に全米公開され、男女・世代を問わずに支持を集めた本作。オスカー前哨戦の賞レースに彗星のごとく現れると、多数の賞をさらって話題を集め、先日発表されたアカデミー賞ノミネーションでは、作品賞、主演男優賞、脚色賞、歌曲賞の4部門にノミネートされている。

公式サイトによると、2月27日時点で映画賞などを64受賞、217部門ノミネートしており、作品賞の有力候補として世界中から注目を集めています。

2018年話題の若手俳優 ティモシー・シャラメ

彼は本作でアカデミー賞主演男優賞に22歳という若さでノミネートしている。彼の魅力はとにかくその美しすぎる容姿。若々しい短髪の少年ではなく、髪は長く、落ち着いた雰囲気と独特の色気がビートルズなどの80年代のミュージシャンを思わせる。いまどきの男子からかけ離れた繊細でどこか大人な雰囲気が若い女性だけでなく、多くの人々を魅了している。アカデミー賞の最年少受賞は当時29歳で『戦場のピアニスト』(02)に出演したエイドリアン・ブロディ。今回シャラメが受賞すると、主演男優賞の最年少記録の更新となる。

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

原題Darkest Hour
邦題ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
監督ジョー・ライト
キャストゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、ベン・メンデルソーン、ロナルド・ピッカップ、スティーヴン・ディレイン ほか
日本公開日2018年3月30日
公式サイト 映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』オフィシャルサイト

作品ストーリー

舞台は1940年、第2次世界大戦初期。ナチス・ドイツの勢力が拡大し、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた。連合軍がフランス・ダンケルクの海岸で窮地に追い込まれるなか、英国首相に就任したばかりのウィンストン・チャーチル(オールドマン)は、ヒトラーに屈するのか、戦うのか、究極の選択を迫られる。

主演男優賞の本命 ゲイリー・オールドマン

ゲイリーのこだわりは見た目だけにとどまらず、不機嫌でブツブツ呟くような口調、前屈みの歩き方など、首相の所作を細部まで徹底的に研究し具現化。本編では、ナチスが勢力を拡大する切迫した状況下で、国民を鼓舞するために声高らかにスピーチしたり、政界で孤立し妻になぐさめてもらったりと、複雑で人間味あふれるチャーチルの姿が確認できる。その彼の入魂の演技には、思わず引き込まれてしまうはず。

ダンケルク

原題Dunkirk
邦題ダンケルク
監督クリストファー・ノーラン
キャストフィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード ほか
日本公開日2017年9月9日
公式サイト 映画『ダンケルク』

作品ストーリー

第二次世界大戦中の1940年、海の町ダンケルクを舞台にしており、陸海空から迫りくるドイツ敵軍80万人に惨敗した、英仏軍40万人の撤退作戦が展開される物語。トム・ハーディ、マーク・ライランス、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、ハリー・スタイルズらが演じる兵士たちを主人公に据え、絶体絶命の窮地から必死に生き抜く彼らの姿を描く。

アカデミー賞8部門にノミネート

このほか、複数の映画賞なども受賞し、ノミネートも多数。

ノーラン監督「黒沢明監督の『羅生門』にインスピレーションを受けている」

『ダンケルク』について、「黒澤明監督の『羅生門』にインスピレーションを受けている」と告白する一幕も。「物事を色々な視点から見て、話が散在しているように見せて、ひとつの大きな物語を語っていく。私はこの映画を何度も見返している」と数々の名作たちが監督のアイディアの源となっている様子。

また、ノーラン監督は映像にこだわりのある監督で、フィルムの重要性を訴えています。

極力CGを使わず、リアルな映像にこだわることでも有名なノーラン監督。本作では壮大な物語と臨場感を伝えるため、全編にわたり精度の高いIMAXフィルムカメラと65ミリフィルムを組み合わせて撮影を行った。
フィルムでの撮影についてノーラン監督は「観客はきっと大画面で堪能するだろう。その色彩と画質のクオリティをね。ゴーグル要らずのVR映像、まさに究極の映像体験だ」と、自信をのぞかせている。

ゲット・アウト

原題Get Out
邦題ゲット・アウト
監督ジョーダン・ピール
キャストダニエル・カルーヤ、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、キャサリン・キーナー ほか
日本公開日2017年10月27日
公式サイト 映画『ゲット・アウト』公式サイト

作品ストーリー

ニューヨークに暮らすアフリカ系アメリカ人の写真家クリスは、週末に白人の彼女ローズの実家へ招待された。ローズの両親や兄弟に手厚い出迎えをうけたクリスだが、家にいる黒人の使用人は異様な雰囲気……。実家では亡くなったローズの祖父を偲ぶパーティーが開催されるも、居心地が悪い。「何かがおかしい」と感じたクリスは、ローズとともに実家を去ろうとするが……。

人気コメディアンとホラーの名手が異色のタッグ

今作の監督と脚本を務めたのは、アメリカのお笑いコンビ“キー&ピール”のジョーダン・ピール。そして、00年代ホラーの立役者ジェイソン・ブラムが製作を務めた。笑いと恐怖は紙一重というが、人気コメディアンとホラーの名手が異色のタッグを組み、ゾッとする作品を作り上げたようだ。

ピール監督はアフリカ系アメリカ人として史上初3部門ノミネート

ジョーダン・ピール監督がアフリカ系アメリカ人として、史上初めて、作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞の3部門に同時ノミネートされたことは、かつて「白すぎる」と批判されたアカデミー賞の歴史をふり返ると、非常に意味深い。

レディ・バード

原題Lady Bird
邦題レディ・バード
監督グレタ・ガーウィグ
キャストシアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ、ビーニー・フェルドスタイン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ロイス・スミス ほか
日本公開日2018年6月予定
公式サイト 映画『レディ・バード』公式サイト

作品ストーリー

舞台は、米カリフォルニア州サクラメント。閉塞感あふれる片田舎に暮らすカトリック系女子高生のクリスティン(シアーシャ・ローナン)は、自分のことを“レディ・バード”と呼んでいる17歳。映画は、高校生活最後の年を迎えたクリスティンが、自分の将来について悩む姿をユーモアたっぷりに描く。

アカデミー賞5部門にノミネート

ファントム・スレッド

原題Phantom Thread
邦題ファントム・スレッド
監督ポール・トーマス・アンダーソン
キャストダニエル・デイ=ルイス、レスリー・マンヴィル、ヴィッキー・クリープス ほか
日本公開日2018年5月26日
公式サイト 映画『ファントム・スレッド』オフィシャルサイト

作品ストーリー

物語の舞台は1950 年代のロンドン。英国ファッションの中心的存在として社交界から脚光を浴びるオートクチュールの仕立屋レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)。ある日、レイノルズは若きウェイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会う。互いに惹かれ合い、レイノルズは魅惑的な美の世界に誘い込む。しかしアルマの出現により、完璧で規律的だったレイノルズの日常に変化が訪れる。2人がたどり着く、究極の愛のかたちとは…。

アカデミー賞6部門にノミネート

第90回アカデミー賞(R)の、作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞・衣装デザイン賞・作曲賞の6部門にノミネートされ注目を集めている。

主演男優賞3度受賞のダニエル・デイ=ルイス引退作

「マイ・レフトフット」(89)、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07)、「リンカーン」(12)でアカデミー賞主演男優賞を3度受賞という快挙を成し遂げたデイ=ルイス。本作をもって俳優引退を宣言していることでも知られており、4度目のオスカー受賞に期待が高まっている。キャラクターと完璧なまでに同化する究極のメソッド俳優としても有名なデイ=ルイスは、本作の撮影前に約1年間ニューヨークの裁縫師のもとで衣装づくりを学んで芝居を構築。その果敢なチャレンジを経た演技が絶賛され、トロント映画批評家協会賞、シアトル映画批評家協会賞などで主演男優賞に輝いている。

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書

原題The Post
邦題ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
監督スティーヴン・スピルバーグ
キャストメリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィット・フォード、ブルース・グリーンウッド、マシュー・リス、アリソン・ブリー ほか
日本公開日2018年3月30日
公式サイト 映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』公式サイト

作品ストーリー

1971年のアメリカ。国防総省がベトナム戦争に関する分析を記録し、トップシークレットとしてきた文書、通称「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をニューヨーク・タイムズ紙がスクープするが、政府からの圧力で差し止められてしまう。アメリカ初の女性新聞発行人であるワシントン・ポスト紙のキャサリン・グラハム(ストリープ)は、同紙の編集主幹ベン・ブラッドリー(ハンクス)らとともに、ライバルのニューヨーク・ポスト紙と連携し、政府の圧力に屈することなく真実を世に発表しようと奮闘する。

アカデミー賞2部門にノミネート

シェイプ・オブ・ウォーター

原題The Shape of Water
邦題シェイプ・オブ・ウォーター
監督ギレルモ・デル・トロ
キャストサリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー ほか
日本公開日2018年3月1日
公式サイト 映画『シェイプ・オブ・ウォーター』

作品ストーリー

舞台は1962年、東西冷戦下のアメリカ・ボルチモア。政府の研究施設で清掃員として働いているイライザは、アマゾンの奥地で神として崇められていた不思議な生物が極秘で運び込まれているのを目撃する。周囲の目を盗み、その生物とコミュニケーションを取り、いつしか“彼”と呼ぶようになる彼女。そんな中、国家機密である“彼”が解剖されることを知り、イライザは思いもよらぬ決断に踏み切るのである。

最多13部門ノミネート

ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、撮影賞、衣装デザイン賞などを含む最多13ノミネートを獲得した。

デル・トロ監督「乱世に語りたいおとぎ話」

「“美女と野獣”を描くならこだわりがあった。野獣は変身させない」と語るのは、自ら脚本も手がけたデル・トロ監督。また、「水と愛は似ている。愛と水は宇宙で最も柔軟で力強いんだ」と本作のタイトル“水の形”に掛けた意味を説明する。
現在のような「乱世に語りたいおとぎ話だ」とデル・トロ監督が言葉を強める本作。

スリー・ビルボード

原題Three Billboards outside Ebbing, Missouri
邦題スリー・ビルボード
監督マーティン・マクドナー
キャストフランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ ほか
日本公開日2018年2月1日
公式サイト 映画『スリー・ビルボード』

作品ストーリー

舞台は、米ミズーリ州の田舎町。何者かに娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、犯人を逮捕できない地元の警察署に抗議するため、町はずれの道路沿いの空き地にある朽ちた三つの広告看板(=スリー・ビルボード)にメッセージを書き込んで、新たに提示する。
警察や町民はこれを快く思わず、撤去を促すが、ミルドレッドは決して引き下がらない。やがて両者の対立は激化し、ミルドレッドの行動も常軌を逸していく。

各賞を数多く受賞 アカデミー賞は7部門にノミネート

インディーズ映画ながら、賞レースで話題をさらい、ゴールデン・グローブ賞では最多4冠に輝いた『スリー・ビルボード』は、作品賞や主演女優賞、助演男優賞(2名)を含む7ノミネートとなった。

日本人のアカデミー賞受賞なるか?

日本人・日本作品の初受賞は黒澤明監督作『羅生門』

日本作品で初めてオスカーを受賞したのは、黒澤明監督作「羅生門」(50)。第24回のことで、当時は外国語映画賞がなく、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーの理事会の投票で名誉外国語映画賞に選出された。

これまでの日本人・日本作品の受賞歴

1952年 第24回 名誉外国語映画賞 『羅生門』
1955年 第27回 名誉外国語映画賞 『地獄門』
1955年 第27回 衣装デザイン(カラー)賞 『地獄門』 和田三造
1956年 第28回 名誉外国語映画賞 『宮本武蔵』
1958年 第30回 助演女優賞 『サヨナラ』 ミヨシ梅木
1976年 第48回 外国語映画賞 『デルス・ウザーラ』(黒澤明監督 / ソ連映画)
1986年 第58回 衣装デザイン賞 『乱』 ワダエミ
1988年 第60回 作曲賞 『ラストエンペラー』 坂本龍一(デビッド・バーン、スー・ソンとともに)
1990年 第62回 名誉賞 黒澤明
1993年 第65回 衣装デザイン賞 『ドラキュラ』 石岡瑛子
1999年 第71回 短編ドキュメンタリー賞 『パーソナルズ 黄昏のロマンス』
2003年 第75回 長編アニメーション賞 『千と千尋の神隠し』
2009年 第81回 外国語映画賞 『おくりびと』
2009年 第81回 短編アニメーション賞 『つみきのいえ』
2015年 第87回 名誉賞 宮崎駿(ガバナーズ賞は14年に実施)

そして今年のアカデミー賞には、特殊メイクアップアーティストの辻一弘氏がメイクアップ&ヘアスタイリング部門に、桑畑かほる監督の共同製作作品が短編アニメーション賞にノミネートされています。

辻一弘

10年ぶり3度目の「メイク・ヘアスタイリング賞部門」ノミネート

映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で主演ゲイリー・オールドマンの特殊メイクを担当した日本人アーティストの辻一弘が、メイク・ヘアスタイリング賞部門でノミネートされた。
京都出身の辻は特殊メイクを独学し、渡米。『PLANET OF THE APES 猿の惑星』『グリンチ』『メン・イン・ブラック2』など数多くのハリウッド作品を手掛ける。アカデミー賞では2007年の第79回アカデミー賞にて『もしも昨日が選べたら』でビル・コルソとともに、翌年第80回アカデミー賞にて『マッド・ファット・ワイフ』でリック・ベイカーとともに、2年連続でノミネートされた。同部門で“アカデミー賞に最も近い日本人”とまでささやかれたものの、2012年頃に映画界を去り、現代美術の分野へと転向していた。

ゲイリー・オールドマンから直々のオファーを受けて現場復帰

チャーチルを演じるにあたりゲイリーは、ハリウッドで活躍した凄腕の日本人特殊メイクアップアーティスト・辻一弘へ自ら連絡。すでに引退していた辻を「あなたが引き受けてくれたら、私はこの映画に出る」と口説き落としたという。
ゲイリーは、「理解するだけでなく、肉体的にも彼(チャーチル)を感じることができなければいけない。空間を彼のように動き、自分が鏡を覗いた時にそこに彼を見つける、少なくとも彼の精神が自分を見つめ返してこないことには、この役をできない」と感じ、「辻一弘が、私をその境地へと連れていってくれる唯一の人物だと思いました。彼はピカソのような人物です」と直々にオファーしたという。

Ru Kuwahata(桑畑かほる)

アメリカ出身の夫とともにノミネート

初ノミネートの桑畑監督は、アメリカ出身の夫マックス・ポーター監督とともに米ボルティモアを拠点に活動。これまで、テレビコマーシャルやミュージックビデオ、インディペンデント映画などを制作してきた。「Negative Space(原題)」は、5分半のストップモーションアニメ。ロン・コーティの同名の詩をもとに、父親が息子にスーツケースの荷造りの方法を教える様子から親子の絆を描き出した。
およそ9か月にわたった製作期間で、2人はフランスの4つの地域を転々としながら創作を行なったため、2人自身が荷造りのプロになったというほほえましいエピソードも。そんなめぐりあいによって実現した本作は、ストップモーションアニメならではの温かみが感じられる画に、荷造りがテーマとあって、衣服にハブラシやカミソリといった日用品の数々がリアルに再現されているのも魅力だ。

「ストップモーション・アニメ」とは

静止している物体を1コマ毎に少しずつ動かして撮影し、連続で投影することによってその物体がまるで動いているかのように見せる映画の撮影技法
昨年度の米アカデミー賞長編アニメ賞&視覚効果賞ノミネート作『KUBO/クボ 二本弦の秘密』が日本でも話題を呼んだばかりだが、今年はアカデミー賞短編アニメ賞に日本人の桑畑かほるが夫マックス・ポーターと共同監督を務めた『Negative Space』(原題)がノミネートされたことで、さらに注目を集めている。

2008年からアメリカ・メリーランド州ボルチモアを拠点に活動

2008年から“小さな発明”を意味する「Tiny Inventions」として、米メリーランド州バルチモアを拠点に活動してきた桑畑とマックス。2人は、テレビコマーシャルやミュージックビデオの監督やプロデュースを行うかたわら、自主映画を製作してきた。

数々の映画祭で賞を受賞している期待作

本作は世界最大のアニメーション映画祭・仏アヌシー国際アニメーション映画祭でプレミア上映されてから、様々な映画祭で賞を受賞。アカデミー賞のみならず、“アニメ界のアカデミー賞”ともされるアニー賞でも短編作品賞にノミネートされている。アカデミー賞短編アニメ部門に日本人監督作がノミネートされるのは、第87回にてピクサーの元スタッフで日本人クリエイターの堤大介が初監督を務めた『ダム・キーパー』以来、3年ぶり。受賞となれば、第81回での加藤久仁生監督作『つみきのいえ』以来、9年ぶりとなる。