特集2017年6月16日更新

山登りシーズン到来…でもクマに気をつけよう!

気温もグイグイ上昇してきて、山菜採りなども含めた山登りにちょうどいいシーズンとなってきました。一方で、この時期はクマの活動シーズンでもあり、クマ被害の報道も相次いでいます。被害を防ぐにはどうすればいいのでしょうか?

クマによる事故相次ぐ

昨年に続き秋田県で被害が連続

5月27日、秋田県仙北市でタケノコ狩りに出かけた60代の女性がクマに襲われて死亡する事故が起きました。
秋田県では昨年、鹿角市で4人が死亡した事故が発生しているほか、今年に入っても多数のクマ目撃情報が寄せられていて、5月9日には大仙市で70代男性がクマと遭遇して重傷を負い、31日には羽後町で60代男性が軽いけがをする事故が発生するなど、同県ではクマによる被害が連続しています。

「ツキノワグマ出没警報」発令中

5月27日に発生した死亡事故を受け、秋田県では同日より「ツキノワグマ出没警報」を発令。県のホームページなどで注意を呼びかけています。

県内全域にツキノワグマ出没警報を発令しました!
クマの被害に遭わないようご注意ください!!

1 発令期間 平成29年5月27日から平成29年7月15日まで
2 発令区域 県内全域

青森県でも注意呼びかけ

青森県でも4月30日に弘前市で70代女性がクマにかまれて負傷したのをはじめ、5月に入ってからもクマに人が襲われる被害が相次いでいます。これを受け、県では5月末よりホームページで「クマ出没状況マップ」の掲載を開始するなどして注意を呼びかけています。

クマと警察で“ハサミ撃ち”の逮捕劇も

犯人の前にクマ、後ろに警官の“連携プレー”

「襲われた」という人的被害があったわけではありませんが、強盗容疑で追跡されていた男3人が逃走中にクマに遭遇し、警察の捜査員とクマに“ハサミ撃ち”されて身柄を確保されるという間抜けな(?)事件も報じられました。

県警は車両に加え、ヘリも投入して約2時間追跡。犯人は日光地区の山中へ逃げ込んだ。
(中略)
崖の中腹に差し掛かった時だった。崖下からは、すでに約20人の捜査員が迫っていた。そのうちの1人が「熊がいるぞ」と叫んだのだ。
「崖は急峻で、犯人たちは、崖の山側から現れ、自分たちの頭上にいる熊の存在に気づいていなかった可能性がある。捜査員たちは3人を熊から守ろうと必死で叫びました。大人数の人間に驚いたのか、熊はその場からいなくなりましたが、3人は崖の中腹で固まっていたそうです」

激増する被害者数

昨年、今年だけに限らず、近年クマによる被害は急増しています。

1980年代に12.6人だった日本全国の熊による年間被害者数は1990年代に23.4人と倍近くになり、さらに2000年代に68.3人、2010年代には97.4人まで激増した。

なぜクマ被害が増えているのか

人里に下りてくるクマたち

背景に「過疎化」「高齢化」

秋田県自然保護課の資料によると、被害発生の背景を次のようにまとめています。

・里山の高林齢化や耕作放棄地の増加で生息適地が増加
・クマの危険性が高い地域であっても山菜採り等の入山者が絶えない状況
・中山間地域の過疎化、高齢化でクマに対する防除力が低下
・クマ出没に対処できる狩猟者の減少

この上の2つは多くのメディアや専門家が指摘していることで、クマの生息地に人間が入り込むようになり、加えて高齢化や過疎化で人が減った集落にクマが出没するようになったことで、人間と遭遇することが増えたというわけです。

登山愛好家の増加

上に挙げた原因とは別に、高齢化社会が間接的にクマを森から追い出す要因になっているようです。栃木県日光市でクマの生態を観察し続けて28年という「熊仙人」こと横田博さんは次のように語っています。

「どこの山でも登山者が増えたね。定年退職して時間ができた高齢者が山の奥までハイキングをするようになったんだね。山の奥深いところは若いクマでさえ入らない。そこはエサが豊富で、一番強い巨大なクマの縄張りだから。
そこに登山者たちが入り込むと、人間を恐れるクマが追い出されるように山奥から出てきたんだと思う。以前は、人間社会とクマ社会がお互いを警戒して、住み分けていた。ともに学習するから、互いの領域には入ろうとしなかった。そこが崩れたんだと思うよ」

6月頃から急増するクマ

「繁殖期」で活発に動く時期

環境省が公表している「クマの出没情報」の2013年度から昨年度まで4年間の数値を月別に合計すると上図のようになります。
これを見れば一目瞭然。クマの出没件数はちょうど今くらいの時期、6月から急増することがわかります。これは、冬眠から目覚めたクマが繁殖期に入って活発に動くためです。

「木の実の豊作が原因」は本当?

「クマの好物である木の実の豊作・凶作と、クマの出没に因果関係がある」という説もあります。

増加の理由には、ドングリなどの餌が豊作だったことが考えられるという。
「県発表の過去データを見ても、豊作時はクマの目撃数が多い。数が増えると縄張争いも増えるので、山から出てくるクマが多くなったのだと思います。今年は子グマの目撃例が多かったので、去年から今年にかけてクマの出産ブームがあったのでは」(前出・鹿角市役所農林課担当者)

ただ、前出の熊仙人は次のようにクマの何でも食べる雑食性を指摘し、この説に首をかしげているようです。

「骨を食べに来ることもある。クマだけでなく、リスが鹿の背骨を食べに来たりね。自然の食物連鎖で、鹿が死ぬとカラスや鳥に始まり、微生物からクマまで、いろんな生物が食べに来て、死体をきれいに掃除してくれるんだよ」

日本クマネットワーク代表の大井徹さんは「“自然破壊で山に餌が少なくなったから”とよくいわれますが、むしろ逆です」としつつ、次のように語っています。

戦後しばらくまで人は里山で薪や炭を取ったり、畑を作ったりして、“ハゲ山”に近い状態のところも多く、動物にとってはすみ心地が悪かった。ところが近年は地方の過疎化などで里山は利用されなくなり、森林が回復、熊にとってもすみやすい環境になっています。そのため都市部の近郊まで活動範囲が拡大し、被害数や目撃数が増えていると考えられます。

なぜ人を襲うのか?

縄張りを守るために攻撃か

死者7人、重傷者3人を出し「獣害史上最大の惨劇」と言われる「三毛別羆事件」を引き起こし、その獰猛さで知られるヒグマの生息地は北海道に限られます。それに対し、秋田県などに出没しているのは一般的にヒグマより「おとなしい」とされるツキノワグマです。ツキノワグマは臆病で、捕食のために人を襲うことはないとされています。
しかし、相次ぐ人への襲撃。この点について、昨年の秋田県におけるクマ襲撃で4人目の犠牲者が出た際の取材に対し、前出の大井さんは次のように解説しています。

最初はタケノコ狩りをしている人間と偶然に遭遇した熊が縄張りを守るために攻撃したのでしょう。しかし、その時に熊が“人間の味”を覚えてしまい、以降は人を食べる目的で襲撃を繰り返すようになった可能性があります。

“人間の味”を覚えてしまったクマが存在

大井さんが指摘する「人間の味を覚えてしまったクマ」は東武動物公園のクマ担当の飼育員も言及しています。

実はニュースになっていないものの、クマに襲われて食べられてしまった登山客は存在しているようでして、人間は他の獲物よりも簡単に獲れます。
なので、人間を好んで襲うクマが増えつつあるようです。絶対数は少ないのですが。

「アグレッシブなやつがたまにいる」

昨年の事故について、ツキノワグマの生態に詳しい岩手大学名誉教授の青井俊樹さんは次のように指摘しています。

「実は一般的により凶暴なイメージのヒグマのほうが、人間を避ける傾向が強い。全てがそうだとは言いませんが、ツキノワグマの中には人間に対してアグレッシブなやつがたまにいるんです。今回の場合は、最初に出会い頭でクマがパニックを起こし犠牲者を殺した結果、『人間は恐るるに足りない』と学習し、どんどんエスカレートしていった可能性があると思います」

この傾向はヒグマにもあるようです。前出のクマ担当飼育員は次のように話します。

近年のヒグマは2種類に分けることができるのではないか? との説を研究者から聞いています。人に近づこうとしない従来のクマと、人を見つければ積極的に近づいてくるクマです。
後者のタイプのクマが数を増やしているそうです。なぜ近づいてくるのでしょうか。もともとクマは好奇心が強い動物です。特別好奇心が強ければ人を見つければ寄ってくることもあります。

雑食であるがゆえに…

熊仙人が語るように、クマの高い雑食性が人を襲う要因のひとつとも言えそうです。

熊は基本的に植物を食べますが、簡単に得られる栄養価の高いものがあればそれを食べるようにスイッチできる、順応能力の高い動物です。それが人間だったら、人間を食べるようになる。

人の歩き方にも原因が…?

人を襲う理由について、熊仙人は「人の歩き方」にも言及しています。

「人間が現れると、クマは人を恐れて林の中に潜む。人間が歩いて立ち去るのを待つんだけど、山菜取りに来る人間は一定方向にまっすぐ歩かない。山菜を探しているから、行ったかと思ったら、また戻ってきたり、右に左に歩き、それを見たクマは自分に向かってきたと驚くんだよ」

クマから身を守るためには

3%の人が「実際に襲われた」

「しらべぇ」が行った調査によると、「あなたは熊に襲われたことがあるか?」の問いに対し、「ある」と答えた人は3.1%。これを少ないととるか、多いととるかは微妙なところですが、「クマの襲撃」は場所によっては普通に起こる話とも言えそうです。
そこで、「実際にクマに遭遇したらどうするか?」について見ていきましょう。

まずはクマに遭遇しないように準備

「実際にクマに遭遇したらどうするか?」とは言いましたが…当然ながら、まずは「遭遇しないようにする」のが大事です。
その方法をまとめると次のようになります。

クマに遭遇しないための心得

・鈴などをリュックサックにつける
・森の中では周囲に最大限の注意を払う
・クマのふんや足跡を見つけたら引き返す
・単独で森を歩かない
・悪天候、夕暮れどきに森を歩かない
・森の中では走らない
・倒木など物陰に近づくときは一時停止する

クマ出没情報を事前に把握

クマ出没の情報を公開している自治体が多いので、出かける前に確認しておきたいところです。冒頭で紹介したような県単位だけでなく市町村単位で公開しているところも多いので、細かくチェックしてみてください。

ヒグマ飼育担当者:クマが出没する時期は、近隣の村が把握していることが多いです。登山をするのであれば、村に確認をしておくとよいでしょう。時期さえ外せば、遭遇率はグッと下がります。

「クマよけの鈴」は通用しない?

今年の事故でも身につけていて被害

クマは非常に臆病な動物で、鈴やラジオなど人工的な音が鳴るものを持っていけば“クマよけ”になると言われていて、上で紹介した「心得」にもあるように環境省や各自治体なども鈴やラジオの持参を推奨しています。
しかし、今年4月に北海道標茶町でクマに襲われた男性、5月に秋田県仙北市でクマに襲われて死亡した女性、どちらも複数のクマよけの鈴を身につけていて被害に遭っているといいます。

国道から30メートルほど入った山林で見つかった秋田県の女性(61)の遺体には頭部や腕、肩など上半身を中心に引っかかれたような傷が複数残されていた。女性はクマよけ用の鈴を2個付けており、鳴らしながら山に入っていたという。

では、クマよけの鈴に効果はないのでしょうか?

クマが慣れてしまった?

NHKの取材に対し秋田県自然保護課は、「クマが人里に近づくようになり、徐々に人に慣れた結果、鈴などの従来の対策は効果が薄くなっているのかもしれない」としています。

また、人間を食べ物だと認識し始めたクマにとっては逆効果と指摘する声もあり、前出の大井さんは「熊除けの鈴の音が逆に“獲物”の居場所を教えたのかも」としています。

6~7割のクマに対しては有効

結論として、どうやらクマよけの鈴は「効果はあるけど、すべてのクマに有効ではない」というところのようです。

ヒグマ飼育担当者:熊よけの鈴は6割から7割のクマに対しては有効です。しかし、人に近づくタイプのクマは、鈴の音を聞けば寄ってくる危険性があります。

最善策は「静かにその場を離れる」

遭遇しない準備をしていてもクマに出会ってしまうことはあるでしょう。そうなってしまった場合でも、クマがこちらに気づいていなかったり、気づいていても無視していたら、静かにその場を離れるのが最善といいます。その際は、「背中を見せない」ことが大事。背を向けると、動物の習性で追いかけてくるとか。

農林水産省が発表したリーフレットによると、熊と遭遇した場合は視線をそらさずそっと立ち去ることが一番の対処法とされている。
ヒグマに背中を見せてはいけない。熊が逃げ去るまでじっと睨む。大きな声を出して興奮させてはいけないらしいが、私は「コラ!」と怒鳴りつけて追い払っている。

こちらに気づいて近づいてきたら…

クマがこちらに気づいてのしのしと近づいてくる場合もあるでしょう。その場合はこちらが「人間」であることを知らせることがいいようです。

「相手が人間とわからず、熊が近づいてくるケースがあります。その場合、両手を挙げてできるだけ体を大きく見せながら、人間がいることを熊に知らせましょう。気づけばほとんどの熊は離れていくはずです。熊が困惑している様子ならば、穏やかにやさしく語りかけることも効果的です。そこで熊が動くことをやめたら、背中を見せずにゆっくりと後ずさりし、静かにその場を離れましょう」

逃げ込める場所があれば避難

自動車や山小屋など逃げ込める場所があれば避難したいですが、何もない場合は木の棒を振り上げたり、大声を上げたりするべきなのですね。同時にクマとの間で、壁になってくれるような立木などを身の回りに探しておきたいです。

「走って逃げる」は絶対ダメ

「熊には逃げるものを追いかける習性があります。しかも熊は最高時速50kmで走るので、人間の足で一目散に逃げてもあっという間に追いつかれて、鋭い爪で背中を一撃されておしまいです。絶対に背中を見せて走って逃げてはいけません」

「死んだふり」は厳禁

これまでの方策も虚しく、ついに襲われそうになった場合を見ていきましょう。
「クマに遭ったらどうするか?」の答えとして古くから語られている「死んだふり」。近年、これは「逆効果」だと指摘されています。

熊対策としてよく指摘される「死んだふり」はまったくの逆効果だ。無抵抗で地面に横たわったら、熊に急所を襲われて致命傷になる。熊は死肉も食べるので、本当に“死体”と勘違いされて、補食される恐れもある。
例えば人間に寄っていくタイプのクマでなかったとしても、死んだふりをしている人間を見つけたら、「なんだろう?」とひっくり返してしまいます。そこで驚いて動いたら、すぐ襲われてしまうでしょう。

「大声で叫ぶ」「悲鳴上げる」もNG

パニックになって思わず悲鳴を上げる人も多そうですが、これもやってはいけない行動だといいます。

「突然の出会いにびっくりするのは熊も同じで、人間が熊を恐れるように、熊も人間が怖いんです。それなのに大声でわめくと熊もパニックに陥り、自分の身を守るため本能的に人間に襲いかかってくる。慌てる気持ちはわかりますが、熊の出方をよく観察することが重要です」

襲われてしまっても諦めずに頭と首をガード

そして、とうとう襲われてしまったら…

反撃は諦めて両腕で頭を守るべき。クマの攻撃パターンは主に、前脚で人の顔面を横殴りにしてくるといいます。一撃加えて逃げる場合も多いそうですので、とにかく両腕で頭を守り、致命傷を避けてください。
「後頭部から頸部、腹部を攻撃されると致命傷になるので、地面にうつぶせになって顔と腹部を守り、両手を頭の後ろで組んだり、リュックサックなどで頭と首をガードします。熊は人間が自分を攻撃する意図がないとわかればその場を立ち去ることが多く、一時の攻撃さえやり過ごせば生き延びられる可能性があります」

反撃は最後の手段か?

「反撃」に関しては、「最後まで諦めずに抵抗すべき」という意見と「反撃は裏目に出る」という意見、両方があります。

「周りに木材や石など武器になるようなものがあれば、すぐに手に取る。武器がなくても全力で抵抗することです。こちらが反撃の意志を見せ、少しでも相手にダメージを与えられたら熊があきらめて退散するケースもあります」
まれに反撃をして、クマの撃退に成功したというニュースがありますが、環境省によれば反撃は裏目に出る場合が多いそうです。ひたすら致命傷を避けて、相手がその場からいなくなるまで伏せるべきなのですね。クマに転がされても、その勢いで再び伏せてください。

このほか、襲われるそうになる前に「熊撃退スプレー」を一気に噴射することを勧める記事もありました。万が一に備えて撃退スプレーを携帯しておくのも手だと思います。

最後に、秋田県が公開している動画とさまざまな公的機関が公開しているパンフレットなどでクマ被害対策のおさらいしておきましょう。


クマによる被害は、人里で起きるパターンよりも人が自ら立ち入っていった山林で起こるケースが多いといい、本来であれば、クマに襲われないためには「クマが出没するような山に入らない」のがベストとなります。ただ、どうしても山に入らなければいけない場合は、今回紹介したような方法で自分の身を守るしかありません。
これからの季節、山登りにはもってこいのシーズンとなりますが、上にグラフで紹介したようにクマの動きも活発になります。山間部に出かける際は事前に現地のクマ出没情報を確認し、同時にクマ対策も怠らず、事故なく登山や山菜採りを楽しんでください。