ロシアW杯で新たに採用された「3つの新ルール」

2018年6月13日更新

6月14日、いよいよ開幕となるロシア・ワールドカップ。この大会で、いくつかのルールの追加(あるいは改正)がありました。どこが変わったのか?新ルールの注目ポイントは?を解説します。また、将来的に追加されるかもしれない、現在検討・試験中のルールについても紹介します。

その1:ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)

ビデオによる「判定アシスタント」システム

別室のモニターでプレーを監視

サッカーの試合において切り離せないもの、それはレフェリーのジャッジ、もっとはっきり言うと誤審です。サッカーの試合で、試合内容や結果よりも、ジャッジの是非について論議が起こることは珍しいことではありません。そんな誤審を少しでも減らすために導入されたのが「ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)」です。
VARは前大会のブラジル大会から採用された「ゴールラインテクノロジー(ボールがゴールラインを割ったかどうかを判定するシステム)」に続く「テクノロジーによる審判補助システム」です。VARが活用されるのは、試合を左右する4つの場面--つまり「ゴールが決まったか決まってないか」「PKかそうでないか」「レッドカードによる一発退場に相当するファウルかどうか」「警告や退場を受けた選手が間違っていないか」--において、「はっきりとした、明白な間違い」または「見逃された重大な事象」の状況になった場合、別室でモニター監視を行うVARが判定のアシストする制度です。VARによって判定が決定づけられるわけではなく、あくまで最終的な決定権を持つのは主審。VARは主審がより正確な判断をするための補助という立場になります。

VARはピッチ上でプレーを裁く主審、副審、第4審らに加え、別室でモニター監視を行うVARが判定に介入する制度。主審の「確実かつ明白な誤審」に対し、あらかじめ身につけた装置を通じて助言を行い、あらためて主審の判定を仰ぐといった形で活用されている。
主審が「人差し指で四角」を描いたらVARの合図
ピッチ上の主審はVARの介入が行われると、「片手でマイクに手を当てるジェスチャー」を行い、プレー開始を止めることができる。また、介入が必要な際は「両手の人差し指で四角を描く」サインで試合をストップ。ビデオ確認が必要であれば、ピッチ脇に設置されたモニターで通信センターから送られてくる映像を確認し、最終的な決定を下す形となる。
VARによって24%の「判定ミス改善」

サッカーのルールを制定する国際サッカー評議会(IFAB)が今年1月に出した資料によると、16年3月の実験開始以降に実施された804試合のVARを導入した試合の検証結果を発表しました。これによると、VARによって24%のミス改善があり、VARを活用した判定は98.9%が正しいものになったということです。

IFABは22日、10枚のメディア向け資料を公開。16年3月の実験開始以降、804試合で同制度の活用を進めてきたことを発表した。また、リアルタイムで使われた試合のみを対象とし、分析データを公開。24%の判定ミスが改善され、8%の試合結果を動かしたと総括した。
ロシア大会では問題プレーの映像を観客にも「共有」

VARにはいまだ反対意見も根強くあり、その中でも多いのが「プレーが止まる」ことでした。主審がリプレイ映像を確認して判定を下している間、観客はもとより監督や選手なども「まちぼうけ」を食わされ、また何度もプレーが止まることでサッカー本来の魅力であるスピーディさも失われることが危惧されてきました。また、主審しか映像を見られないことはどんなプレーにどんなジャッジを下したのかがわからない、という不満もありました。このロシア大会ではそういった点を考慮してスタジアムのスクリーンにリプレイ映像とジャッジについての説明文が表示されることになりました。
以下はFIFA(国際サッカー連盟)のフットボールイノベーションでグループリーダーを務めるセバスチャン・ルンゲ氏のコメント。

「判定が決まった後には、巨大スクリーンにリプレイ映像を流し、VARでどのような判定を行ったかファンたちに知らせる。VARに限らず、何かが起これば、正確に説明する必要がある。また、試合後には全試合ではないが、必要な場合にはVARに関する記者会見を行うこともある」
まだ残るVARの問題点

いくら映像を見ることができるとはいえ、プレーがその度に止まってしまうことには変わらないので、あまりにも頻繁にVARを求めると批判も出てきそうです。また、判定のタイミングによっては混乱を招く可能性もありそうです。下の例は、4月16日に行われたブンデスリーガ第30節マインツvsフライブルクでの出来事。前半終了間際のファウルがハーフタイム中にファウルと判定され、ロッカールームに引き上げていた選手を呼び戻してPKを行うことになりました。これに不満を覚えた観客がピッチに大量のトイレットペーパーを投げ込むという事態になってしまったとか。

▽物議を醸しているのは、この試合の重要な分岐点となった前半終了間際の一連の場面だ。DFブロシネツキのクロスがボックス内でフライブルクDFの手に当たったものの、そのまま前半が終了。しかし、ハーフタイム中にVARに確認したグイド・ウィンクマン主審は、ロッカールームに引き上げていた選手たちを呼び戻してPKスポットを指差し、マインツに貴重な先制点が与えられることとなった。

また、VARで判断できること・できないことの線引したほうがいいかもしれません。例えば、「ペナルティエリア内でのハンドの有無」などだったらVARは大きな威力を発揮するでしょうが、そうでない場合もあります。3月27日にイタリア代表と国際マッチを行ったイングランド代表は終了間際に微妙な接触プレーをVARによってファウルと判断され、PKで追いつかれドローとなりました。イングランド代表のガレス・サウスゲート監督はこのことについて“嫌味”をいっています。

「あのような判定を下す場合、本当に明確なルール違反がなければならない。だけど、あれがそれに該当していたとは思わない。この件については永遠に議論できるだろう。あのようなアクシデントをVARで100%明確に処理することができるとは思わない。明らかなハンドやオフサイドについてはいいと思うけどね。いずれにせよ、我々はこれに適応しなければならない」

また逆に、「なぜあの場面でVARでを使わないんだ」という批判も出てくるかもしれません。いずれにせよ、最終判断をするのはあくまで主審であり、VARはあくまで判断の「アシスタント」をする存在。完璧なジャッジをするのは不可能であり、またたとえ完璧なジャッジだったとしても不満が出てくることもこれまでとかわらないでしょう。このワールドカップではそういったVARをめぐるドラマにも注目してみたいですね。
最後に、VARに関する、ちょっと面白い動画を紹介します。これは5月2日に行われた欧州チャンピオンズリーグ準決勝、ローマvsリバプールの一戦でジャッジに不満を持ったローマの公式サイトが作ったものです。今年のCLにはVARが導入されていなかったため、「こんな判定をするんだったら、VARの導入が必要だ!」という抗議の意図を込めてのもので、投稿されたツイッターには「これがチャンピオンズリーグにVARが必要な理由です(笑)」とコメントされています。その目的の割にほんわかした気分になれる動画なので、ぜひご覧ください。

“神の手”マラドーナ「もしVARが当時あったら…」

過去のワールドカップの歴史の中で、数々の「誤審」がありました。中にはそれによって勝敗や優勝が左右され、今でも論争になるものもあります。その中でも最も有名な「誤審」と言えば、1986年イングランド大会でのディエゴ・マラドーナによる「神の手ゴール」でしょう。誤審に関するアンケートなどでは必ず1位になるだけでなく、誤審という枠を超えワールドカップで起きた「事件」として長く語り継がれています。

マラドーナ氏は1986年のW杯イングランド大会の準々決勝イングランド戦でGKピーター・シルトンよりも先に“手”でボールに触れてゴールを記録。試合後に「神の手が触れた」と表現し、“神の手ゴール”として語り継がれている。

そのマラドーナにいくつかのメディアがVARのことを尋ねていますが、その答えは非常に肯定的です。

マラドーナ氏は「もしテクノロジーがあったら、あのゴールはなかっただろうね。私は手を使ってゴールを決めた。審判が見ていなかったから、あれはラッキーだったよ」と当時を振り返ると、VARを支持すると続けた。
「あの試合でVARが存在していたらどうなっていたと思いますか?」
▽するとマラドーナ氏は潔くも図々しく答えた。
「逮捕されていただろう。80000人の観客を欺くことはできない」
▽その後、マラドーナ氏はゴールを奪った左手を「これだ!!」と高らかに挙げたという。

ちなみにこの“神の手”事件が起きた試合で副審を務めていたブルガリア人のボグダン・ドチェフさんはインタビューで「(あの誤審によって)人生を台無しにされた」とマラドーナに愚痴っています。もし当時VARがあって、マラドーナの神の手ゴールが取り消されていたら彼の人生はどう変わっていたのでしょうね。

『BBC』によると、生前ドチェフさんは「マラドーナは素晴らしい選手だが小さい男だ。私の人生を台無しにしたのだからね」と恨み節を語っていたというが、ドチェフさんなくして、“神の手”ゴールが存在しなかったことも事実だ。

その2:外部との通信が可能に

タブレットやスマホなどの持ち込みが可能に

これまでJリーグなどでもベンチと無線システムによるスタッフとのやりとりは可能でしたが、映像を表示できる端末やPCの使用は禁止されていました。これが可能になります。
例えば観客席などにいるスタッフから試合中のトラッキングデータやその分析結果をベンチに送り、それをもとに対策を練ることができるようになります。より緻密な戦術合戦が可能になりそうです。
ただし、選手への電子機器を使った直接の指示はNG。また退席処分を受けた監督・コーチによる遠隔指示も不可です。

また、戦術面に大きな影響が出てきそうな変更点も。選手へ指示を出す目的に限って、テクニカルエリアに外部から情報を伝えることが認められたのだ。試合中の分析が高度化することが期待され、試合を見ながらタブレットやパソコンでデータを送信するアナリストの役割が大きくなりそうだ。

その3:交代枠の追加

延長戦で「4人目」の交代が可能に

これまでは通常の90分、延長戦の120分どちらも交代枠は3人までとなっていましたが、延長戦に入った時点で4人目の交代が可能となります。たった一人と思うかもしれませんが、サッカーは運動量が多いだけに時間の経過につれプレーのダイナミズムが減り、得点が入りにくくなっていきます。延長戦にフレッシュな選手が投入されることで、よりゴールの可能性が増え、終盤までエキサイティングな展開が期待できるでしょう。またPK戦を減らすことにもつながると思われます。
このルールは引き分けの存在するグループリーグでは関係なく、完全決着が求められる決勝トーナメントから活用されることになります。この交代枠の増加で、これまでとはひと味違う選手起用が見られるようになるかもしれません。例えばすでに2人の選手が交代した後半終了間際、3人目を投入するか?という場面で、以前なら延長戦を意識して交代に2の足を踏むところでしたがこの交代枠の増加により3人目の投入をためらうことはなくなり、終了間際に劇的な展開を期待できます。あるいはPK戦を見据えて、PK戦に強いGKの投入を考えるチームも出てくるかもしれません。

さらに選手交代のルールも変更。これまでは一律3人までの交代選手起用が許されていたが、今大会では延長戦に入ると追加の交代が認められる。この仕組みは2016年のリオ五輪でも導入されており、1試合あたりの運動量が増え続けていることを受けての措置とみられている。

今後変更or追加される(かもしれない)ルール

今回の大会では大きな変更点はこの3つでしたが、未来のワールドカップで実施される予定、あるいは現在検討中のルールについても紹介します。

2026年W杯は48カ国参加で決定

グループリーグは3チーム16組で?

参加国の増加は決定事項。ただ、それに伴うグループリーグの方式にはいろいろと問題点もありそうで、そのあたりの変更も今後あるかもしれません。

国際サッカー連盟(FIFA)は10日、スイス・チューリッヒの本部で理事会を行い、W杯の出場枠を2026年より現行の32か国から48か国に拡大することが満場一致で決定したと発表した。
参加チームの拡大で大会全体のレベル低下を危惧する声があがる中、3チームずつ16組に分かれて行われるグループリーグの大会方式に関しては競技の公平性も疑問視されている。グループリーグが3チームによって争われることで、各グループの試合数は全部で3試合。1試合ずつ3日間に分かれて開催されることになる。
2022年W杯は48カ国?32カ国?

2026年は決定、では2022年のカタール大会は?これについてはまだ流動的なようです。しかしそうなった場合、アジアの出場枠は最大9枠、なんだか緊張感なくなりますね…。

この提案にインファンティーノ会長は「非常に興味深い考えだ。もちろん、実現可能か見極めなければならない。FIFAやCONMEBOLだけで決めることはできないけど、とても面白い試みだ」と2022年W杯から48チームが出場できるように検討していくと語り、次のように続けた。
「W杯出場枠の拡大は世界中でサッカーが発展することに重要な役割を与えることができると思っている。だから、2026年W杯から48チームが出場できるように決めたんだ」
この変更は日本にも影響し、現行のアジア出場枠4.5枠から、2026年W杯には8.5枠になることが決定している。仮に2022年W杯から48チームが出場できるようになれば、アジアからは最大9チームが出場することが可能となるが、果たしてどのような決断が下されるのだろうか。

イエローカードで「一時退場」に

「導入ほぼ確実」?

現在のルールではファイルを行ったイエローカードが出されると1枚目で「警告」となり、2枚目で「退場」となるわけですが1枚まではその試合中はそのままプレーできていました。それを1枚目が出された時点で10分間の間退場となり、プレーに参加できなくなる…というルールを検討中なんだそうです。記事によるとイングランドサッカー協会の審判長曰く「将来的に導入はほぼ確実」なんだとか。サッカーで一時とはいえ1人少ない人数で戦わないといけないのは非常に不利な状況ですから、不用意なイエローカードをもらわないように、プレーががらっと変わる可能性もあります。

「シン・ビン」制度は既にラグビーやアイスホッケーなどで導入されているルール。サッカーではこれまで警告のみだったイエローカードだが、この「シン・ビン」制度になると一時的に退場処分となる。国際サッカー評議会(IFAB)は2年前からノッティンガムシャーの下部リーグで「シン・ビン」を導入したテストを行っており、イエローカードを提示された選手は10分間の退場処分になっている。

監督にもイエローカード?

スタッフやベンチ入り選手も

監督などピッチ外の関係者にもイエローカードが適応されるのは、今までは一発で退席だっただけに、カード1枚分の猶予が出来たと考えればいいのかどうなのか?その試合だけでなく、選手と同じようにイエローカードの累積による出場停止もあるのか…?気になりますね。ちなみにこれについて語っているFIFA副事務局長のズボニミール・ボバン氏は、日本が初めてW杯に出場したフランス大会のグループリーグでクロアチア代表として対戦しています。

「我々は、監督への警告処分(イエローカード)の導入を検討している。その対象にはスタッフとベンチ入りしている選手も含まれる。現在、監督は直ちに観客席(などフィールド外)へ退席を命じられているが、改正案では退席処分に至る前に警告を受けることになる」

PK戦が「ABBA方式」に

先攻・後攻を交互に入れ替え

PK戦では「先攻が圧倒的に有利」というデータがあるため、その不公平感をなくすために先攻・後攻を1本ごとに入れ替えていくという方式です。日本でもルヴァンカップで導入されています。

『ABBA方式』とは、これまで先攻・ 後攻で交互にPKを蹴っていたが、Aが1本蹴ったら、Bが2本蹴り、Aが2本といったように最初と最後を除いて同じチームが2本続けて蹴る方式のことをいう。