特集 横浜点滴殺人
横浜市神奈川区の大口病院で入院患者が相次いで中毒死したことが判明しました。点滴に異物が混入されていたのが原因で、以前から同院の4階では不穏なトラブルも起きていたようです。内部の犯行では?との見方が強まる中、点滴を誰でも触れる場所に置いておいたなど、病院のずさんな管理体制も問われています。事件を時系列でまとめてみました。(2016年9月29日更新)
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事件の主なあらまし
9月20日未明、八巻信雄さん(88)が死亡
点滴に混入した液状の異物による中毒で20日未明に死亡した
20日午前4時頃、八巻さんの心拍数の低下を知らせるアラームが鳴り、当直の30歳代の女性看護師が異変に気づいた。この看護師が医師を呼んで救命措置を行ったが、同55分に医師が死亡を確認した。
死因は「中毒死」点滴の容器に異常も
司法解剖の結果、中毒死と判明し、点滴の容器に異常が見られたという。県警は、異物の詳細を明らかにしていない。
病死と診断されたが、他にも被害者がいるのでは…?
同病院では18日以降、ほかに80~90代の男性2人と90代の女性1人が死亡。いずれも病死と診断された後に司法解剖されており、週明けに結果が出る。
9月23日、他にも3人死亡
「男女3人の死因が、毒物によると否定できない」
巻さんは長男と2人暮らしで、14日から4階にある8人部屋の病室に入った。この病室には寝たきり状態だった八巻さんを含め6人が入院していた。八巻さんを含め18日以降に亡くなった4人はいずれも4階の病室に入院していたという。
次々と明らかになる事実
点滴袋に界面活性剤混入
院内に在庫としてあった複数の点滴袋にも、異物が混入されていた疑いがあることが判明
患者が無差別に狙われた可能性があるとみて点滴の納品経緯、管理状況などを調べている。
点滴袋に破れなく、注射器で混入か
袋には破れなど目立った破損はないといい、県警は何者かが注射器を使うなどの方法で入れたとみている。
ナースステーションでは、鍵が付いた棚ではなく、誰でも簡単に持ち出せる場所に保管されていた。
点滴袋内の液体「泡立った状態」
界面活性剤は、漂白剤や合成洗剤に含まれる成分で、担当の女性看護師は当時の点滴袋内の液体について「泡立った状態だった」と説明しているという。
八巻さんが20日午前3時過ぎまで体調に異常がなく、約1時間後に急変していたことも判明
不特定多数を狙った混入か
点滴袋は「誰でも触れる状態」
使われた点滴袋もナースステーションにあり、関係者であれば誰でも触れることができる状態だった。何者かが不特定の患者を狙って在庫の点滴袋に界面活性剤を混入させた疑いもある。
混入は17~19日?
点滴は八巻さんだけが使用するよう、院内にある薬剤部で名前と日付が入ったラベルを貼付。八巻さんが使用する2日前の17日朝に4階のナースステーションに持ち込まれ、他の患者分を含め使用日ごとにまとめ、無施錠の状態で保管されていた。
同病院では通常、点滴袋を入院患者に投与する当日の午前に準備するが、17~19日が3連休だったため3日分を保管していたという。近くには界面活性剤の成分が含まれる製品があり、当直時間帯には、当直の看護師2人が患者の部屋の巡回に出て、ステーションが無人になることもあった。
4階では日付ごとに段ボール箱に入れて保管、使用する分をステーションの机の上や洗面台などに置いていた。17日夕以降、日中と当直の時間帯に看護師が2人ずつ勤務していたが、点滴袋は誰でも触れられる状態だった。
特捜本部は、八巻さんの点滴が最後に交換された祝日の19日午後10時ごろまでの3日間に、何者かが界面剤を混入したとの見方を強めている。点滴袋や在庫に目立った穴や傷はなく、特捜本部は点滴と管をつなぐゴム栓から混入された疑いがあるとみている。
9月26日、点滴袋を鑑定へ
神奈川県警が未使用のまま残っていた点滴約50袋の鑑定を始めることが26日、捜査関係者への取材で分かった。八巻さんの点滴袋からは界面活性剤の成分が検出されており、県警は他の点滴袋や中身の薬液を詳しく調べる。
混入の界面活性剤は「消毒液」
捜査関係者によると、医療現場では器具の殺菌や手指の消毒などに消毒液が幅広く使われている。大口病院でも様々な場所に常備され、八巻さんが入院していた4階にあるナースステーション(看護師詰め所)などにも置かれていた。
混入の界面活性剤は「逆性せっけん」
逆性せっけんは殺菌作用が強く、消毒液の主成分として使われる。医療現場では、こうした消毒液が手指や医療器具の滅菌・抗菌などに幅広く使用されている。洗浄作用が強い通常のせっけんが水中で陰イオンになるのに対し、陽イオンとなるため、「逆性」と呼ばれる。
18日死亡の88歳男性も中毒死と発表
18日に死亡し、司法解剖されていた入院患者、西川惣藏(そうぞう)さん(88)=同市青葉区梅が丘=の死因が中毒死だったと発表した。
西川さんの体内からも界面活性剤の成分が検出
八巻さんの殺害を受け、捜査本部は同室の患者のうち、18日に死亡した西川さんと80代男性、20日未明に死亡した90代女性の3人を司法解剖。西川さん以外の2人は、当初の診断通り病死だった。
当初は病死と診断
4階では、18日から八巻さんが死亡した20日未明までの間、西川さんを含む男女3人(80~90歳代)が死亡。医師はいずれも病死と判断していた。
保護テープに穴
2人が入院していた4階のナースステーションにあった未使用の点滴袋数個のゴム栓保護テープに、注射針を刺したような穴が開いていたことが捜査関係者への取材で分かった。
さらなる混入の可能性
10個以上の袋に穴
4階ナースステーションに未使用で残されていた点滴袋約50個のうち約10個でゴム栓に封をするシールに穴が開き、2人以外の名前が書かれたものもあることが27日、捜査関係者への取材で分かった。
死亡の2人は同じ界面剤が混入
司法解剖の結果、八巻さんと同じ界面活性剤の成分が男性の体内から検出された。捜査本部は連続殺人事件と断定、捜査を進める。
西川さん以外の男女2人は病死
八巻さんの死因が中毒死と判明したことで、捜査本部は18日以降に死亡した西川さんを含む男女3人の患者について司法解剖を実施、死因特定を進めていた。西川さん以外の男女2人は病死だった。
混入したのは「ヂアミトール」
ヂアミトールは劇薬に指定されてはいないが、高濃度のまま体内に入れば、多臓器不全や血管損傷などを引き起こす恐れがある。
関連リンク
混入量の問題?2人の死亡状況に差
今月18日に死亡した西川惣蔵(そうぞう)さん(88)は容体が急変することなく、中毒とみられる異変がないまま亡くなっていたことも判明。同じ点滴を投与されて死亡した八巻信雄さん(88)は容体が急変したことから、2人の点滴に混入されたとみられる異物の量や濃度に違いがあった可能性が出ている。
異物が混入したとされる点滴を受けた2人が死亡に至る経緯に違いがあったことが28日、捜査関係者への取材で分かった
界面活性剤はどのくらい危険?
界面活性剤とは「物質と物質の「境界面」で働き、その性質を変化させるもの」
「目に入れば失明の可能性があり、体内に入れば細胞に毒性が働いて大変危険です。それを点滴に入れるなんて、ありえないですね」
日本中毒情報センターのホームページを見ると、陽イオン系界面活性剤の説明があり、容器を振ったりすると強く泡立ち、誤飲するとまず嘔吐や下痢などの中毒症状が出るとあった。その成分を10%含む液体を飲むと、25~250ミリリットルで致死量になるそうだ。
「一般的に考えると、飲むよりも危険と言えます。飲んで吐くようなことができないからです。体内に取り込まれれば、毒性が強いので、細胞の膜を溶かしてしまいます。さらに、強い変性がある界面活性剤なら、タンパク質と相互作用してその機能を失わせることになります。最悪の場合は、死に至ることも十分ありえるでしょう」
被害者は2人にとどまらず数十人に?
高橋洋一・大口病院長のコメント
「私は職員を信じている」
病院近くで報道陣の取材に応じ、「警察の捜査には全面的に協力している。真相究明を願っている」と述べた。
「筆舌に尽くしがたい怒りと自責の念」
「本日、西川惣蔵様のことについて、警察から発表がありました。大変に驚き、このような人としてあるはずもない犯罪を行った犯人に対して、筆舌に尽くしがたい怒りを感じています。それとともに、患者様の命を預かる医療人として、病院の管理責任者として、自責の念にかられております。引き続き病院の安全体制について見直し検討を行い、決定した事項の迅速な実施に努めて参ります。何の罪もない患者様に愚劣な犯行を重ねた犯人の一刻も早い逮捕に資するべく、大口病院は、引き続き警察に全面的に協力して参る所存であります。西川惣蔵様の御遺族に対しては、わたくし院長および主治医共々、御自宅に伺わせていただき、死亡診断の経緯につきご説明するとともに、誠心誠意、謝罪させていただく所存です」
「内部の可能性も否定できない」
高橋院長は「驚いている。犯人が腹立たしい」と語った。犯人については「皆目見当がつかない」とする一方で、「内部の可能性も否定できない」と沈痛な表情で話した。
「ここ数カ月で数十人の患者が死亡」
同病院ではここ数カ月で数十人の患者が死亡したと明かし、通常より多いため、「院内感染を疑っていた」と説明
4階の患者、3カ月で48人死亡していた
捜査関係者などによると、4階では7月1日から9月20日までに48人が死亡。8月下旬には同じ日に5人が死亡し、9月初旬には4人が亡くなった日もあった。
院長「『多いかな』という印象」
4階は自分で食事ができないなど重症の患者が入院するといい、同院の高橋洋一院長は「医療法の改定で重篤な方を受け入れたことと関係していると思ったが、確かに『多いかな』という印象だったので院内感染を疑った」としている。
48人死亡も、事件の立証は難しい
病院側は当初、殺害された西川惣蔵(そうぞう)さん(88)の死因を事件性がない「病死」と判断しており、実際には他にも危害が加えられていた患者がいた疑いが残る。一方、遺体の大半はすでに火葬されており、専門家は「遺体がないなかで犯罪かどうか立証するのは極めて困難」との見方を示す。
西川さんは点滴中、心拍数の急激な低下など、大きな異変がないまま死亡した。犯人が点滴の滴下の速度を調整するなどし、体内の血中濃度を少しずつ高めて、死因を病死と誤診させようとした疑いがある。
遺体が存在しないなか、死因を再度調べることは困難だ。薬物中毒に詳しい日本医科大大学院の大野曜吉教授(法医学)は、大口病院4階に終末期医療の高齢者が多かったことに触れ、「もともと死に近かった人たちで、診断記録などをもとに中毒死と判定することはほぼ不可能」と指摘する。捜査本部は病院関係者の話や診療記録などを精査する方針だが、「投与された点滴などもすでに廃棄済みだろう。死因の究明は難しい」と話している。
院内で起きていた事件とトラブル
エプロンが切り裂かれたり、飲み物への異物混入も
7月上旬と8月中旬の2回、トラブルが相次いでいるとの情報提供が匿名であった。「職員のエプロンが切り裂かれた」「飲み物に漂白剤とみられる異物が混入し、看護師の唇がただれた」という内容で、メールで送られてきたという。
トラブルは事件発生の4階に集中
トラブルの大半は、八巻さんを含む高齢の患者が入院している4階に集中しており、神奈川県警が事件との関連を調べている。
同一の差出人からトラブルの情報、事件当日にも
市医療安全課によると、7月上旬、別の課に「先日、カルテの紛失や看護師のエプロンが切り裂かれていることがあった」と情報提供のメールがあり、8月中旬にも同一の差出人から、「病棟の飲み物に漂白剤と思われるものが混入し、飲んだ病院スタッフの唇がただれた」とメールがあった。事件当日の9月20日には、「点滴にハイターが混入される事件が発生した」とメールがあったという。
医療安全課が医療法に基づいて今月2日に行った定期立ち入り検査では、病院側はメールの内容について事実関係を認めたうえで、職員らに事情を聴いたことを明らかにした。しかし、同課は詳細な事情を聴かず口頭指導にとどめた。
“あの病院に入ったら死ぬ”
「駅の反対側にある東総合病院に食われて、廃れてしまったのです。今では患者の中心は症状の重い老人で、八巻さんが亡くなった4階は寝たきりの人が多い。死亡する人が多いため、地元では“あの病院に入ったら死ぬ”なんて冗談も聞かれるほど。そのため職員のモチベーションが低いとの声も聞かれます」(地元商店関係者)
“告発”Twitter投稿も
8月、大口病院内でのトラブルを告発していたツイッター投稿があった。
住所:神奈川県横浜市神奈川区大口通130にある
— FUSHICHOU (@ngu19690604) 2016年8月12日
大口病院、4階病棟にて漂白剤らしき物が混入される事件発生、看護師スタッフが漂白剤らしき物を混入された飲み物を飲んで唇がただれなどの被害を受けました。
なお、同病院、同病棟では今年、看護師スタッフのエプロン切り裂き事件、カルテ紛失事件が発生しております
— FUSHICHOU (@ngu19690604) 2016年8月12日
。
犯人像は?
専門家分析「病院に不満を抱え、医療知識のある人物」
犯罪心理に詳しい目白大の原田隆之教授は「病院全体がターゲットになっている」と指摘。「病院に不満を抱え、医療知識のある人物が、職員より患者を狙ったほうがダメージを与えられると考えた可能性もある」と話している。
西川さん死亡日の勤務状況は
八巻さんと西川さんが死亡した日には女性看護師2人が4階で当直勤務し、このうち1人は2人が死亡した日にいずれも勤務。捜査本部は当時の勤務状況について詳しく調べる。
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