酒井啓子のニュース

イラク・ファッルージャ奪回の背景にあるもの - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2016年05月27日19時30分

<イラク政府はISに支配されていた主要都市ファッルージャの奪還作成を開始。しかしその目的は、統治能力を失ったアバーディ政権が国内外からの信用を取り戻すことにあった> 5月23日、イラクのアバーディ首相は、ISに制圧されているファッルージャの奪還作戦を開始する、と発表した。25日にはイラク軍が同市の東部地域をほぼ確保したとし、政府は「ファッルージャ奪回成功、 [全文を読む]

ザハ・ハディードの死 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2016年04月01日21時15分

世界的建築家、ザハ・ハディード女史が亡くなった。 2020年東京オリンピックの新国立競技場建設計画を巡るごたごたで、日本での訃報の伝わり方は、「揉め事の種」的扱いになってしまっている。彼女が数々の国際的な賞を受賞した、世界で超一流の建築家であることを考えれば、こうした報道ぶりはとても残念だ。イギリスでのメディアが一様に、「ロンドン・オリンピックで屋内競技場 [全文を読む]

エジプト・イタリア人学生殺害事件を巡る深刻 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2016年03月15日11時30分

3月、卒業の時期になるといつも思い起こすエジプト映画がある。名監督ユースフ・シャヒーンの1999年の作品、「他者」だ。冒頭、亡くなる4年前のエドワード・サイード本人が登場する。氏が教鞭をとっていた米コロンビア大学のキャンパスで、卒業して本国に戻る若きエジプト人とアルジェリア人の学生に、贈る言葉を投げかける。「共存、他者との共存を忘れてはいけない」。 故郷に [全文を読む]

イラク:前門のIS、後門の洪水 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2016年02月05日14時30分

昨年末、「イスラーム国」(IS)から西部のラマディを奪回して勝利の報に酔いしれたイラクのアバーディ首相だが、今年一月、思わぬ敵に直面している。イラクの真ん中を流れるチグリス川上流の、モースル・ダムが決壊寸前の状態にあるからだ。このダムが崩壊したら、4時間でモースルは水没し、増水した川は1日以内でティクリートを、2日でバグダードを襲う。首都ではバグダード国際 [全文を読む]

サウディ・イラン対立の深刻度 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2016年01月06日21時38分

サウディアラビアでのシーア派宗教指導者ニムル師の処刑、在テヘラン・サウディ大使館への抗議の暴徒化、イラン・サウディ間の国交断絶、親サウディ諸国の対イラン断交――。年頭から急に緊迫化した中東情勢に、友人がフェースブックでこう嘆いた。 「いつも『問題は宗派対立じゃない』といい続けてきたけど、またくりかえさなきゃならないのか」。 友人の嘆きのとおり、日本のメディ [全文を読む]

イラク・バスラの復興を阻むもの - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年12月26日19時16分

27年振りに、イラク南部の最大都市、バスラに行った。 イラク戦争後、日本研究に取り憑かれた熱心なイラク人の学者がいて、彼と日・イラクの学者間合同研究大会を過去10年間続けてきたのだが、それが初めてイラクのバスラで開催されたのである。治安の問題があって、これまで専ら日本国内で開催してきた――イラク国内で開催したのは、2009年にわずかにクルディスタン地方政府 [全文を読む]

パリとシリアとイラクとベイルートの死者を悼む - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年11月16日20時25分

先週、かつて日本に留学していたというシリア人の女性が、来日していた。留学から戻って、ダマスカス大学で日本語教師をしていたのだが、内戦と化したシリアで、今はシリア赤新月社の難民救援のボランティアをしているという。 彼女が、かつて学んだ校舎で日本人の学生たちに言った言葉が、重い。「かつて私がここで学んでいたとき、自分の国がこんなふうになってしまうなんて、想像も [全文を読む]

「名前はまだない」パレスチナの蜂起 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年10月27日15時20分

「イスラーム国」やシリア難民のヨーロッパ流入、ロシアのシリア内戦への介入など、数々の戦争報道が飛び交うなか、イスラエル・パレスチナの話題はすっかり影に隠れた感がある。だが、その間イスラエルの入植が止まったわけでも、パレスチナ人の憤懣が収まったわけでもなく、ずっと衝突は続いてきた。 それが急に、メディアの注目を浴びたのは、10月に入ってからである。イスラエル [全文を読む]

軍では効かない中東の紛争解決 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年10月12日09時54分

この週末、筆者が勤務する千葉大学で、日本政治学会の年次大会が開催された。会員ではないのだが、開催校としてホスト側の立場を利用して、いくつかのセッションを楽しんだ。 さすがに、「政治」関係の学会の最老舗である。安保法制を巡って揺れた今年の政治状況を反映して、関連のパネルが二つ組まれていた。ひとつは「憲法と政治」、もうひとつは「安倍政権の対外政策の検証」である [全文を読む]

シリア難民を内戦予備軍にしないために - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年09月17日11時28分

9月5日にメルケル首相が「シリア難民を受け入れる」という感動的な決断をして1週間経って、ドイツは再び難民の流入を抑える方向に転じた。物理的に処理しきれない数の難民が押し寄せ、オーストリアとの国境に入国管理を導入せざるを得なくなったのだ。 それは当初から十分予想されたことである。80万人という膨大な数を、果たしてどう扱うのか。難民施設は、受入れ体制は足りるの [全文を読む]

安倍首相の70年談話と中東 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年08月26日11時17分

安倍首相の戦後70年談話が出されてから十日間、そろそろ中東諸国での反応が出そろったかなあ、と思って、調べてみた。 どれだけ多く報じられているのだろう、と検索したが、あまり大きくは取り上げられていない。首相談話にキーワードが含まれるかどうかとか、含まれているけど自分の言葉じゃないとか、これじゃ近隣の中韓は不満をもつだろうとか、欧米の英字紙が論じている論調をそ [全文を読む]

中東にとっての「広島・長崎」 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年08月07日20時05分

中東から研究者を日本に招聘すると、多くの場合「広島、長崎に行きたい」と言う。日本に来たからには被爆地を見ないことには、という人は、少なくない。 「第二次大戦でアメリカに核攻撃された日本、その敗戦から立ち上がった日本」は、中東諸国で長く「いいイメージ」として定着してきた。イスラエルやアメリカの圧倒的な軍事力の前にねじ伏せられてきた、というアラブ諸国の思いが、 [全文を読む]

核協議合意で接近する米・イラン関係 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年07月16日11時15分

二週間も延び延びになっていたイランの核開発を巡る協議は、14日、ようやく決着がついた。イランは、今後ウラン濃縮は原子力発電用のみの濃縮度合いにとどめ、IAEAの国内施設の査察を認めるなど、核開発を制限し、その見返りに、イラン向けに課されてきた経済制裁を解除する、ということで、両者合意したのである。本来ならば先月中に決着がつくべきところ、期限は三度も延期され [全文を読む]

中東外交:銃より薀蓄、兵士より詩人 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年06月17日11時40分

ムルスィー・前エジプト大統領に死刑判決が下ったり、バハレーンのシーア派野党指導者に四年の禁固刑が言い渡されたりと、中東では相変わらず政敵追い落としの判決が続いていて、不穏さを増しているが、今日は少し、閑話休題。中東地域をフィールドワークするツボについて、話そう。 中東、と一言でいっても、現地社会に入り込むツボは、国や地域でまちまちだ。筆者が一番長くフィール [全文を読む]

サウディアラビアの宗派間緊張に火がつくか - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年06月03日12時25分

「イスラーム国」(IS)の脅威が、本丸に迫っている。 5月22日、サウディアラビア東部のシーア派人口の多いカディーフ市で、シーア派モスクが自爆攻撃によって攻撃され、21人が死亡した。それから一週間後の29日には、同じくシーア派人口の多いダンマン (ダンマーム)市でモスクが攻撃され、4人が死亡した。ダンマンはサウディ最大の油田地帯の中心都市にあたり、同国第二 [全文を読む]

イラク、「宗派的に見える」ことが問題 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年05月19日14時28分

イラク西部の都市、ラマーディが「イスラーム国」(IS)の手に落ちた。 一ヶ月半ほど前、イラク政府は、イラク中北部のティクリートをISから奪還したとして、国を挙げての祝賀ムードを盛りたて、次はモースル(最初にISが制圧したイラク第二の都市)といきまいていた。そのお祭り騒ぎも、ラマーディを奪われたことで、一気に沈んでいる。 それどころか、ラマーディをめぐるイラ [全文を読む]

アラブの連帯を誘うイラク旧政権派 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年04月12日11時21分

4月は、イラクにまつわる記念日が多い。 4月9日はイラク戦争でのバグダード陥落の日で、12年前のこの日、米軍の戦車が凱旋するなか、首都の繁華街の中心にあったサッダーム・フセインの銅像が引き倒された。実はそれから23年前の同じ日、今の政権与党のダアワ党の創設者で、イラクのシーア派イスラーム思想の父と言われるムハンマド・バーキル・サドルが、フセイン政権によって [全文を読む]

アラブ合同軍は何を目的とするのか - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年03月30日11時02分

エジプトがリビアを空爆し、チュニジアで博物館が襲撃され、イラクで「イスラーム国」(IS)が占拠したティクリートへの奪還作戦が進行し、それに米軍が空爆で参加し、サウディアラビアがイエメンを空爆する。 全中東中で戦争が同時多発的に進行し、一体これはどういう方向に行くのだろうと、五里霧中感の蔓延する中、3月28日、エジプトのシャルム・シェイクで開催されたアラブ連 [全文を読む]

中東やインドの女たちの英知 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年03月13日14時35分

中東で、北アフリカで、「イスラーム国」(IS)は相変わらず暴虐の限りを尽くしているが、それは少し脇において、3月は退職の季節だ。どこの大学でも長く教鞭をとっていた学者たちが、来し方行く末振り返って、学問の出発点を語る最終講義を行う。 今週は、長く親しくしていた先輩を囲む会があった。インドを専門とする女性研究者で、女性で途上国研究を志して海外に単独で出かけて [全文を読む]

ISが引き裂くエジプトと湾岸諸国 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年02月27日10時19分

ヨルダンは、人質にされたパイロットを「イスラーム国」組織(以下ISと略)に焼き殺されて以降、怒り心頭で積極的に対IS攻撃に取り組み始めた、と前回のコラムで指摘した。それに続いて先週は、エジプトがブチ切れた。 2月15日、キリスト教徒のエジプト人21人がリビアで、ISに拉致され殺害された。ネットにアップされた同胞の無残な姿はエジプト人の国民感情を刺激、翌日1 [全文を読む]

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