どうしようもない大人になった僕は、どんな時も神聖かまってちゃんを聴いてた。ランジャタイ・伊藤幸司
CREA WEB / 2024年4月24日 18時0分
編集部注目の書き手による単発エッセイ連載「DIARIES」。今回はお笑いコンビ・ランジャタイの伊藤幸司さん。音楽好きとして知られる伊藤さんですが、なかでも「の子」さん率いるロックバンド・神聖かまってちゃんへの思い入れは格別だとか。この場を借りて、伊藤さんから神聖かまってちゃんにラブレターを送ります。
神聖かまってちゃん存在してくれてありがとう。
僕は今「ロックンロールは鳴り止まないっ」を無限ループで聴きながらこれを書いています。
真っ黒で気持ち悪い卵な僕は、気持ち悪いって何回言われたんだろ。
クラスで醜い異臭を放って、フォークダンスで女子全員から手を繋ぐふりをされて、僕はもうどうにもならないだろうねと思ってたころに、1242を受信してみると、ナインティナインに出会いました。
びばるげばる書店で松本人志の『遺書』を買いました。
そんで東京NSCに入りました。
でもろくに会話もできなくて、いつも友達ができない帰り道を過ごしていました。
授業中に、「ここは仲良しクラブじゃねえんだぞ」とかいって狂ったりしてみたら、みんなが避ける中でぱちくり見ている国崎くんがいたから友達になりました。
夏休みも来ずに中退したけど、僕よりもっと変な国崎くんとコンビを組んじゃった。
いかれたNeetのまま、SMA HEET PROJECTに履歴書を送って面接に行ってそのまま所属になりました。
その頃、よく国崎くんの家に遊びに行っていた。
好きな漫画を教え合ったり、初恋の人のことを話したり、学生時代のことを話したり、好きなテレビを話したり、お父さんのことを話したり、お母さんのことを話したり、妹のことを話したり、いないお兄ちゃんとお姉ちゃんと弟のことを話したり、今年のM-1で誰が面白かったか話したり、今までのお互いの人生をすり合わせ練り合わせ溶け込ませるようにたくさん喋った。
すり鉢の前で棒を手に、ごりごり、がりがり。
がりがり、ごりごり。
どんなふたりになるだろう。
ズッ友でいられるかな。
ワクワク、ワクワク。
カエルの鳴き袋に、コウモリの牙、タイコウチのめだまにライオンのたてがみ、あと魔法の粉も入れちゃお。
フフフふふ。
鍋に入れてぐつぐつ、グツグツ。
爆発しないように気をつけないと、、
みちなるほうにいけるかな。
どこまでもどこまでも上に上に上にいけるかな。
すごいのができますように。
ノスタルジー。
コンビ組むって決めて、ちんちんポクポクとコンビ名を考えて、コンビ名を提案しようと決めて国崎くんの家にいった日。
「ランジャタイってどうだろ?」
「なんやそれ! ええやん! それにしよー!」
「ほんと?よかった。あの、辞書をぱかっと開いてたまたま目に入った単語がそれなんだけど、、」
本当は考えに考えて、『蘭奢待』という天下人だけが切り取ることを許される天下取りの香木の名前をいただいたすごい名前で、それは「天下とる!」という一世一代の決意表明だったのだけども、恥ずかしくてそこまで言えなかった。
天下を取るなんて、当たり前だのクラッカー。
知恵が溢れて止まらない。
日本中に、あるてぃめっとレイザーをぶっ放したかった。(国崎くんはその後数年間、自分達のコンビ名のことを「ランジャイタイ」と思っていたらしい。)(そう思ってたっていうのもボケかもしれない。)
前置きが長くなりました。
神聖かまってちゃんのことを書こうと思ったら、結成当初の思い出がとめどなく駆け巡るのです。
同じ1985年生まれだし、きっと18歳までおんなじ景色を見ながら生きてきたんだろうなと勝手に思っちゃってるしで、ライバルというか、芸人になってからの人生を共に歩んできたような感覚なのです。
めっちゃいい曲あるよ!
もう寝ようとしてた時、国崎くんにイヤホンを渡される。
国崎くんが出してくれた毛布の上で、男の子にも女の子にもなれない僕は、女の子座りをしたまま、イヤホンを受け取る。
そういえば幼稚園の頃から、ゆーれい未満で手はお菊さんみたいにうらめしや、足は女の子座りでいじめられたっけなあ。
努力じゃどうにもならないことはある。
生まれた時からその形なんだから。
無理やり変えられないし変えたってしょうがないよ。
どうしようもないだろうしどうにもならないだろうね。
なんでこんなんなんだろ。
死ねって毎日思ってたな。
お父さんはなんでもかんでも僕を全否定してずっと怒ってくるし。
あーあ。
僕も死ね。
おそるおそるニコニコ動画の再生ボタンを押した。
真夜中に、ピアノの音が大音量で流れてくる。
そのまま動けなくなった。
全身の毛穴という毛穴にポイフルが入るんじゃないかってくらいガパッと開いた。
好き。
目も口も毛穴も開きっぱなしだった。
脳が無限ハメコンボでひっくり返されっぱなし。
どっちが表か裏か右脳左脳ももうわかんない。
映像の中のの子ちゃんのぱちくりした目とずっと目が合っていた。
放心状態。
なんなんですかこれは。
目を閉じて寝ようとしても、なんでだ全然鳴り止まねえ。
もうだめだ。
この人好き。
心の奥まで完全にちりとられてしまった。
ちばぎんどこいくの。
それから僕は神聖かまってちゃんにはまりにはまった
それから僕は神聖かまってちゃんにはまりにはまった。
インターネットに落ちてる音源を聴き漁った。
生配信に辿り着いて、の子ちゃんが生配信をしてたらかならずそこに見にいった。
仕事もないし家に引きこもってるし、神聖かまってちゃんの生配信ばっかり見てた。
ずっとパソコン見てた。
ロックをただで伝えてもらった。
monoくんにボコボコにされたり、ちばぎんにボコボコにされたり、電車でパソコン片手に叫んでて、サラリーマンに電車から無理やり降ろされたり。
僕も女装とかしてニコ生で配信したりした。
売れないのか、とっとみせかけて!
すごいのは曲じゃなくてパソコンとっとみせつけて!
謝る時はいつも嘘泣きばっかり。
初めてテレビに出た時はわくわくしまくった。
全国のバンドマンに告ぐ。
おれの時代であるのである。
ずっとわくわくしてた。
ナルトって、ラーメンにのせるより正しい使い方あったのか。
中居君はプロ。
負けないように頑張ろうと思った。
ライバルはお笑い芸人じゃなくて神聖かまってちゃんだった。
好き。
高円寺でみさこさんに遭遇して写真撮ってもらったりしたっけな。
どうしようもない大人になった僕は、辛い時も嬉しい時もどんな時も神聖かまってちゃんを聴いてた。
2021年M-1グランプリ決勝、最初で最後の思い切りだったそのM-1決勝戦は、バトンを海に向かって全力でぶん投げた。バトンは海に消えてった。
沈むバトンがそのまま世界から消えてなくなるような気がして、僕は急いで海に飛び込んで命からがら拾いなおした。
拾ったはいいけどこのバトンどうしよう。
もうちょっと持ってよう。
M-1ラストイヤー、「ロックンロールは鳴り止まないっ」を聴きながら会場に向かった。
というか毎年全予選、会場に向かう時は「ロックンロールは鳴り止まないっ」を聴きながら電車に運んでもらった。
好き。
M-1ラストイヤー、めちゃくちゃウケたのに準々決勝で落とされた。
えっまじ!? まじ!? うっそでしょ!?
そんなセリフが言えた時お友達ってやつがいるのかな。
僕にはいないな。
M-1チャンピオンになります!
最後の嘘。
全部夢。
の子ちゃんにメールした。
正真正銘一世一代。
「の子ちゃん大好きです。ぼくと友達になってよ」
の子ちゃんから返事が返ってきた。
ああどうしよう。
返信どうしよ。
もー!
こっちから送ったのに。
会いに行きたいけど、会っちゃって友達になれない現実が確定されたらどうしよう。
僕は人と会話ができないから。
誰とでも仲良くなれるってすごいなあ。
それだけで幸せ。
まじつまんねー。
でもの子ちゃんとはなんとか友達になりたいんだもん。
神聖かまってちゃんワンマンライブに行った。
全国ツアーファイナル。
お台場で、ガンダムの前で会場の行き方がわからなくてうろうろしていると、
「伊藤さんですか?」
女性の方に声をかけられて、一緒に写真を撮った。
「応援してます」
なんて言われた後、その方に会場への行き方を教えてもらった。
雨がぱらぱらと降っている。
会場に入る。
右手の前から2ブロック目のとこに入る。
神聖かまってちゃんが出てくる。
の子ちゃんが近い。
最初の曲は「美ちなる方へ」。
ああ、もうだめだ。
mono君はずっと何言ってるかわかんないし、みさこさんはドラムしびれるし、ゆうのすけも最高。
泣いた。
そんで最後に「ロックンロールは鳴り止まないっ」が始まって、
涙が止まらなくなった。
嗚咽して泣いた。
衝撃をもっとくれよ。
もっともっとくれよ。
勝手に登場人物をお笑いに置き換えて、勝手に泣いた。
ずっと泣いてた。
アンコールの「23才の夏休み」なんて、人間ってこんなに水出るの?くらい泣いた。
だめだよそんなことしちゃ。
泣きながらお家に帰った。
の子ちゃんを遊びに誘おう。
文面を考える。ああ、どうしよう。
悩むなあ。
メールも、この文章も、人生初めて2回めのラブレター。
てにをはなんてめちゃくちゃだそんなことどうでもいいや。
ワンツー取られちゃった。
ラブレターってこんな感じなのか。
リアムノエルのギャラガー兄弟よりの子ちゃんが好きだ。
43歳の夏休みまでとりあえず僕は生きる。
そしたら53歳の夏休みまでまた生きる。
63歳、流石に生きてるのか?
わかんないけどそうやって生きてく。
やるか死ぬかなんだから僕は頑張る。
僕は神聖かまってちゃんが、全部の音楽の中で1番好きだっ。
ほんと大好き。
圧倒的。
負けないぞっ!
何があってもランジャタイ死ぬまでやるから神聖かまってちゃん死ぬまでやってね。
伊藤幸司(いとう・こうじ)
1985年、鳥取県出身。NSC時代の同期、国崎和也とお笑いコンビ「ランジャタイ」を結成し、2021年にM-1グランプリ決勝進出。初のエッセイ集『激ヤバ』(KADOKAWA)も話題に。4月より「オールナイトニッポンPODCAST」火曜のパーソナリティを担当中。
X(旧Twitter)@ranjyatai11
文=伊藤幸司
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