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1日半の労働で1カ月分の収入を手にする新興富裕層

デイリーNKジャパン / 2024年4月28日 10時58分

平壌市民の日常(2018年9月19日、平壌写真共同取材団)

北朝鮮でトンジュと呼ばれる新興富裕層が、苦境に直面している。金正恩政権の市場抑制策により、今までのように商売ができなくなったからだ。そんな彼らが農業に活路を見出していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

カン・ヨンジュ氏(仮名)は、北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)の中心都市、恵山(ヘサン)で有名な商売人だ。中国東風汽車の5トントラックと6人乗りの乗用車を所有し、乾物を運ぶ商売をしていた。

しかし、現地の情報筋によると、彼は最近、トラックを処分したという。

北朝鮮では、個人が生産手段を所有できなくなっており、自動車もそのひとつだ。そのため、国営の工場、企業所、国の機関の名義を借りる形が取られてきた。カン氏は、恵山編織工場の名前で自身のトラックと乗用車を登録していた。工場に手数料を支払うことで堂々と運転でき、工場はドライバーから現金が得られるという仕組みだ。

(参考記事:北朝鮮のオヤジは「タクシー運転手」が夢の職業

ところが今年3月、彼のトラックが金亨稷(キムヒョンジク)郡の地方工業工場の建設に動員されることになった。そこで彼は急いでトラックの主要部品を外して運転できないようにした上で、恵山市安全部(警察署)に廃車届を出した。

そして、トラックを引き取った上で外した部品をまた装着し、売りに出した。彼はそうして手に入れたカネで、土地を買おうとしている。

「もはや商売をしても儲からないため、農業が唯一儲かるビジネスというのが彼の考えだ」(情報筋)

金正恩政権は2010年代、個人の商行為に対する規制をあまり行わなかった。そのおかげで市場経済が進捗し、誰も彼もが商売に進出した。ところが当局は、コロナ禍を経て、市場に対する締めつけを急速に強めた。商売がしづらくなった商人たちは、こぞって農業に進出しているというわけだ。

別の情報筋によると、誰もが生活に困っている今、日給10元(約216円)で丸一日農業の手伝いをするという人が列をなしている。受け取った10元を勤め先に差し出せば、「食べ物がなくて動けない」との理由で、病気休暇扱いにしてもらえるという。

今の労働者の一般的な月給は3万北朝鮮ウォン(約510円)だが、たった1日、畑で働くだけで1万8000北朝鮮ウォンに相当する10元がもらえる。畑で1日半働けば、1カ月分の給料が得られ、まるまる1カ月働くと、かなりのカネとなる。

種まきや草取りは1日280坪分、畑起こしや収穫は1日140坪分をこなさなければならないが、土地はもともと個人が耕作していたものなので、慣れている人にとってはさほどつらいものではないという。

畑起こし1日、種まきと草取りで3日、収穫1日の合わせて5日が必要だ。つまり、ひとつの田畑の農作業を手伝えば50元(約1080円)がもらえる計算となる。複数の田畑で働けば家族の食費分は稼げるということだ。

トンジュの立場からすると、年間たった50元の人件費で、多くの収穫が得られる。140坪の畑にジャガイモを植えると2トンの収穫が見込めるが、それを市場で売ると1320元(約2万8500円)の儲けになる。元金が1年で25倍になるということだ。

さらに、農民に穀物を貸し与え、秋の収穫後に2倍にして返してもらう高利貸しも営んでいるため、かなり儲けているということだ。

(参考記事:国家がどう頑張っても押し戻せない北朝鮮の「市場経済化」

「今のように商売を取り締まれば、トンジュは農業と高利貸しに頼らざるを得なくなる。それで食糧価格が左右される」

金正恩政権が市場抑制策に乗り出した理由の一つが、食糧価格の安定だ。市場での穀物売買を禁止し、国営米屋「糧穀販売所」を復活させ、消費者にはそこで穀物を買わせるという仕組みだ。しかし、今回報告された動きを見ると、トンジュは、市場抑制策にうまく対応し、生き残ろうとすることで、北朝鮮が目論んでいる穀物流通の完全な「再国営化」を妨害する結果を生んでいる。

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