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酒井真弓のDXトレンド最前線、ベイシアグループを変えた人的資本経営

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年5月2日 22時0分

ベイシアグループソリューションズ代表取締役社長の樋口正也氏

※編集部注:取材は2024年1月。『ダイヤモンド・ホームセンター2024年2月15日号』に掲載、肩書・役職等は取材時のままとなっております。

近年、流通小売業に限らず、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや社内文化の変革に成功している企業が増えてきている。本連載ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の先進事例を紹介。第1回はカインズ(埼玉県)を擁するベイシアグループのDXに迫る。

 カインズ、ワークマン(群馬県)、ハンズ(東京都)など30社を束ねるベイシアグループ。2022年7月には、日本IBM出身の樋口正也氏をトップに、グループ横断のDXカンパニー「ベイシアグループソリューションズ」を設立した。

 AIを駆使した需要予測、SNSやECサイトの口コミデータを生かした商品開発など、業務効率化、顧客満足度の最大化に取り組んでいる。属人性を排し、DXを進める上でいちばん大事なのは「人」らしい。

ベイシアグループソリューションズ代表取締役社長の樋口正也氏
ベイシアグループソリューションズ代表取締役社長の樋口正也氏

DXは人なり

 DXとは非連続なイノベーションだ。すでに標準化・仕組み化された仕事と比べてアドリブの要素が多い。結果として、リーダー個人の経験や考え方が影響しやすいといえる。テクノロジー領域でキャリアを積んだ樋口氏は、ベイシアグループソリューションズでその知見を遺憾なく発揮している。たとえばエンジニア採用に関しては、全応募者のレジュメを読み込み、一次面接からエンジニアと技術的なディスカッションを交わしているという。

 大切なのは、目的を達成するために必要な技術とスキルセットを理解し、適切な人材の採用からシステムの実装までスピーディに遂行すること。そして、現場を理解した上で技術力を発揮できる人材を育てることだ。樋口氏が人的資本経営に注力する理由はここにある。

エンジニアが入社したくなる組織へ

 ベイシアグループにおける人的資本経営のポイントは、人事制度改革・採用・育成が三位一体となっていることだ。

図表●ベイシアグループの人的資本経営のポイント

 第1に、人事制度改革。ベイシアグループもかつてはエンジニア採用に課題を抱えていた。まず、アナログな印象の小売業ではエンジニアに関心を持ってもらうのが難しい。その上、店舗と同じく土日・祝日出勤となると、家族に反対されることも少なくなかった。そこで、まずはグループ横断でIT人材は土日・祝日休みとし、検討のテーブルから真っ先に落とされないようにしたのだ。

 さらに、国内外のテック企業のユニークな制度を研究。業務時間の20%で社内の別業務に挑戦できるテックバンジー制度、学習費用を補助するテックラーニング制度、IT資格合格者に報奨金を贈るテックサーティフィケーション制度など、自己研鑽(けんさん)を促した。

 服装も自由化し、社内が一気にカジュアルになると、明るい会話が生まれやすくなったという。今ではTシャツにサーフパンツで面接に現れるツワモノも。

 一つひとつは小さなことだが、積み重ねれば組織カルチャーが変わる。エンジニアが入社し、働き続けるモチベーションになるのだ。

採用こそ最重要ミッション

 次に、採用。樋口氏は多いときで1日10通のレジュメを読むこともあるそうだ。採用にコミットするようになったきっかけは、Googleの元CEO エリック・シュミットの著書『How Google Works:私たちの働き方とマネジメント』を読んだこと。Google共同創業者の二人が採用を自分たちの最重要ミッションとしてきたことを知り、自分も覚悟を決めたという。

 AIやクラウドに注目していたとしても、Googleの「Duet AI」や「Vertex AI」の使い方まで語れる経営者はそうはいない。だが、樋口氏は一次面接でそこまで切り込んでくるから、エンジニアも目の色が変わるという。

 もう1つ、技術がわかる経営者だからこそできることがある。たとえば、これまでクラウドの運用に従事してきたエンジニアは、レジュメや面接でそれに関する経験やスキルをアピールするだろう。しかし、よくよく聞いてみると実はクラウドのデータレイクにも詳しくて、「このままクラウド運用チームに配属するより、AI専門チームでデータサイエンティストと一緒に仕事をするほうが伸びるのでは」という発想に至ることもあるという。

 組織を俯瞰(ふかん)できる経営者だからこそ、エンジニア本人すら気づいていない可能性を見いだし、時には新しいポジションを用意することもできる。

 「その人のスキルを1つに決めつけないこと。柔軟な視点でスキルセットを見ることで、人を中心に組織をダイナミックに変えられるようになる」(樋口氏)。

給与体系だけでは不十分

 小売業界でも一部で「エンジニアに特化した給与体系を設けるべきでは」という議論が始まっている。だが樋口氏は、「給与だけで関心を持ってもらえる時代ではない」と断言する。

 「一次面接から自分が出て行くようになって実感しているのは、会社に魅力があれば、給与がどこまで上がるかは気にしなくなるということです。逆に言えば、魅力が伝わっていないから、エンジニアも給与でしか判断できなくなる。今の環境よりよいと感じてもらえたら、給与が少ししか上がらないとしても、ここで働きたいと言ってもらえるのです」。

 それでも大幅な給与アップにこだわるエンジニアはいるだろう。そんなとき樋口氏は、「経営視点とは何か」という話をするという。

 ITに1億円使うとしたら、店舗は何億円売らないといけないと思いますか?――当然すぐにはピンとこないだろう。質問を変えて、営業利益率が5%の会社で1億円のコストは、何億円の売上に相当すると思いますか?――5%割り戻す=20倍にするということだから、20億円。つまり、1億円の利益を得るには、20億円売り上げなければならない。

 「経営視点がない場合、ITで使う1億円と、店舗がつくった1億円が同じ1億円だと気づかない。インフレに電気代や輸送費の高騰、ヒーヒー言いながら必死に積み上げた1億円です。自分の給与だけを主語に語ることは、組織で働く上でナンセンスだと気づいてほしいのです。もちろん普通は気づいているし、そこまでストレートには言いません」。

仲間をリスペクト誇りを持って働く

 最後に、育成。

 22年春には、デジタル人材育成の場として「ベイシアグループデジタルアカデミー」を開講し、グループのビジネス部門とIT部門が一体となって学んでいる。ポイントは、参加を挙手制にしたこと。意欲の高いメンバーが学びをグループ各社に持ち帰り、変革の中心人物となることで、ボトムアップモードが生まれた。めざすは、多様なスキルや専門性を持つメンバーが融合して価値を生み出す「フュージョンチーム」だ。

 「まずは『ビジネスが上、ITは下請け』という先入観を取り払い、対等に議論できる組織にすること。その上で、『AIを使ってこんなことを一緒にやってみない?』という会話が生まれ、さらによいものが出来上がっていくという流れを実践しています」(樋口氏)。

 フュージョンチームは、互いの素晴らしさに気づくことでさらに強くなる。「うちにはこんなに優秀なエンジニアがいるんだ」と感じてもらえたらしめたもの。「ちなみにこんなことはできる?」と相談し合えるようになれば、さらにレバレッジが効く。樋口氏は、「人的資本経営において最も重要なのは、仲間をリスペクトし、一人ひとりが誇りを持って働けるようにすること」と結んだ。

 血の通った人間の営みである以上、DXも本質は同じ。あなたの会社はどうだろうか。

酒井真弓(さかい・まゆみ)
●ノンフィクションライター。IT系ニュースサイトのアイティメディア(株)で情報システム部、イベント企画を経て、2018年フリーに転向。広報、イベント企画、コミュニティ運営、イベントや動画等のファシリテーターとして活動しながら、民間企業から行政まで取材・記事執筆に奔走している。日本初Google Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu’e’r(ジャガー)」のアンバサダー。著書に『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社)、『ルポ 日本のDX最前線』 (集英社インターナショナル) など

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