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「多階層的アプローチ」でトランスポーターの隠れた働きを解明

Digital PR Platform / 2024年4月24日 11時41分

研究チームは、この多階層的アプローチを使って、腎臓でD-セリンを運ぶ2種類のトランスポーターグループを発見しました。1つ目は小型アミノ酸を運ぶASCT2、2つ目は乳酸やビタミンB3といったカルボン酸を運ぶと考えられていたSMCT1とSMCT2でした。この2つのグループは、健康な腎臓においては同じようにD-セリンを運んでいますが、腎臓が障害を受けるとSMCT1と2の活性が低下する一方で、ASCT2の働きが強くなり、血液中のD-セリンが増加することがわかりました(図2)。

SMCT1とSMCT2がD-セリンを運ぶことは予想外であり、「多階層的アプローチ」ならではの発見です。この研究は、生体のおけるトランスポーターの隠された機能を明らかにする手法を確立することで、健康な腎臓および障害を受けた腎臓においてD-セリンがどのように運ばれているのかを明らかにしました。さらに、D-セリンを腎臓病のマーカーとして確立するにあたり、その分子メカニズムを解明しました。

本研究が社会に与える影響
本研究は、生体内におけるトランスポーターの機能を先入観なく明らかにするためのアプローチを提供します。これにより、さまざまな組織・臓器において、未だ全貌が明らかになっていない多様な小分子輸送の解明が期待されます。加えて、この手法は、本研究でのD-セリンのような希少な微小分子の輸送システムを解明するためにも有効です。それにより本研究で明らかになった、腎臓障害時におけるD-セリン輸送システムの変化は、D-セリンを腎臓病のバイオマーカーとして使用するための分子基盤を説明します。
腎臓の障害は患者のQOLを著しく低下させますが、D-セリンのバイオマーカーとしての確立により、早期診断が可能となり、患者の予後が改善することも期待できます。それにより、患者のQOLだけではなく、医療経済にも恩恵をもたらすことも期待されます。

研究費
本研究は、科研費(JP22K06150, JP21H03365)、AMED(JP21gm0810010、JP21ek0310012)、痛風・尿酸財団、武田科学振興財団、中谷医工計測技術振興財団、株式会社資生堂、医療法人慈生会 梶ヶ谷クリニックの支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル: A multi-hierarchical approach reveals D-serine as a hidden substrate of sodium-coupled monocarboxylate transporters
著者:   Pattama Wiriyasermkul, Satomi Moriyama, Masataka Suzuki, Pornparn Kongpracha, Nodoka Nakamae, Saki Takeshita, Yoko Tanaka, Akina Matsuda, Masaki Miyasaka, Kenji Hamase, Tomonori Kimura, Masashi Mita, Jumpei Sasabe, and Shushi Nagamori.
掲載雑誌: eLIFE
DOI:    https://doi.org/10.7554/eLife.92615
用語説明
D-セリン:可決アミノ酸(非必須アミノ酸)であるL-セリンの立体異性体。哺乳類の脳内に豊富に存在し、記憶や学習などの高次脳機能に重要なNMDA型グルタミン酸受容体の補助的活性化因子である。また、統合失調症などの精神疾患との関連が示唆されており、治療標的としても注目されている。近年、腎臓病のバイオマーカーとしても有望視されている。

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