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「経済の安定は政府・日銀が何とかしてくれる」の楽観は禁物といえる“これだけの理由”

Finasee / 2023年10月3日 11時0分

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Finasee(フィナシー)

デフレが終焉しインフレに突入――世界各国の経済が転換を迎えている今、“銀行預金だけ”を持つ危険性が語られています。ただ、適切にリスクを分散させた資産運用をすれば、インフレ下にあっても自分・家族の生活や資産を守ることはできると日銀出身の政策アナリスト・池田健三郎氏は説きます。

話題の書籍『「新しい資本主義」の教科書』では、日本や世界を取り巻く状況から、投資をはじめとする資産運用の意味について分かりやすく解説しています。今回は本書の『はじめに』、第1章『「5年後の世界経済」を予測したうえで投資を!』の一部を特別に公開します。(全4回)

※本稿は、池田健三郎著『「新しい資本主義」の教科書』(日東書院本社)の一部を再編集したものです。

インフレの感覚を忘れかけた私たち

大変な世の中になりました。長らくデフレが続いていると思っていたら、いつの間にかインフレが襲来し、所得が必ずしも十分に増えない中で身近な商品・サービスが次々に値上がりしています。

世界に目を向ければ、日本のみならず欧米も、長らく不景気で金融緩和が続いていましたが、日本よりも早くインフレ基調に変わり、緩和から引き締めに転じています。それに伴い、金融緩和期に運用難からリスクを取りすぎた反動で、金利上昇局面での信用不安が台頭し、米国では銀行の破綻が相次いでいます。

そもそも、日本国民の中で戦後のインフレやバブル景気の実感や実体験を持っている人は、今や昭和生まれの一部に過ぎません。その人たちも記憶が薄れ、過去の教訓を生かす場面は少ないでしょう。

他方で多くの人は「インフレってどのようなもの?」という状況にあり、戸惑いを感じている人も少なくありません。とくに若い世代は、生まれてからずっと物価や賃金が上昇しない世界で生きていますから、インフレの感覚を持たないのも当然です。

日銀券に暗い影を落とす原因とは?

さて、従来のデフレ下は「金利をほぼ気にしない世界」であり、私たちは自身の資産をどう守るかについてあまり真剣に考えず、「とりあえず現金をタンス預金に」という対策でも取り残されるリスクは低かったのですが、これからは、まったくそうはいきません。

加えて、DX(デジタル・トランスフォーメーション)※1 や、コロナ禍の教訓も私たちの考え方を変え、行動を変えました。もはや人間の行動も「コロナ前」に完全に戻ることはありません。

※1 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

このほか、ロシアによるウクライナ侵攻、東アジア情勢、少子高齢化と労働力不足、社会保障の水準維持の困難化、公的債務の増嵩(ぞうすう)、貿易赤字、電力不足、公共調達(五輪等)の機能不全等々……日本はまさに課題山積で将来が見通しづらい混迷期にあります。

さらに残念なことに、デフレ脱却を図るべく実施してきた日本銀行による金融緩和が、あまりに長期かつ大規模となり、その手法も株式・不動産市場にまで中央銀行の資金を大量に注いだうえ、財政法が禁ずる政府債務の実質的な日銀引受が脱法的に行われるなど「なんでもあり」の領域に踏み込んでいます。

今や日銀は、発行済み国債の過半を保有するという異常事態で、このような先進国は他にはありません。その結果、国債の価格暴落リスクと連動した日銀の債務超過陥落リスク(時価ベース)が、肥大化した動脈瘤の如き様相を呈し、日銀券(お金)に対する信認維持に暗い影を落としています。こうした状況を、「やむを得ない」と評する向きもありますが、さすがに「サスティナブル(持続可能)である」とは言い切れないでしょう。

「家計の経済安全保障」という言葉の意味

こうした中で学者として初の就任となった植田和男日銀新総裁は、歴史上稀(まれ)にみる八方塞がりの状況下での船出となり、日銀自体の実質債務超過に起因する信認喪失リスクという「動脈瘤」を破裂させることなく縮小させ日本経済に健康体を取り戻すことができるか、情勢はまったく予断を許しません。

デフレに戻るのも困るが、インフレが急伸するのは絶対に避けたい(さりとて引き締めもできない)という中で、市場関係者が固唾(かたず)をのんでその動向を注視しています。

こうなると、「経済の安定は政府・日銀が何とかしてくれるから大丈夫だろう」という過度な楽観はさすがにやめておいたほうが良いでしょう。頼れるのは「自助」のみ、まさに自分の生活は自分で守る時代なのです。

というわけで、これからは自分・家族の生活や資産を守りたいのであれば、今までの考え方と行動を大きく変える必要が出てきました。

それが、私がこのタイミングで政府が掲げる「新しい資本主義」の下での「家計の経済安全保障」について、筆を執る決心をした理由です。

2022年から「国の経済安全保障」(国家の経済活動や国民生活に対する脅威を取り除き、一国の経済体制や社会生活の安定を維持するために、エネルギー・資源・食料などの安定供給を確保するための措置)が取り沙汰され、無論これも重要な政策テーマの一つではありますが、一般国民にとっては自分や家族のオサイフ事情のほうが、より差し迫った、プライオリティが高い課題です。

そこで筆者なりに「家計の経済安全保障」を定義すれば、「自分や家族の経済活動や生活に対するリスクを最小化し、持続可能で豊かな生活のための資金戦略を考え、行動すること」となります。

はじめにお断りしておきますが、本シリーズ(全4回)はいわゆる「お金儲け」や「投資指南」の記事ではありません。したがって読者として、投資や利殖の戦法を求める方々は想定しておりません。

そのかわり、どうしたらインフレ下でも資産を減らすことなく、自分・家族を経済的に守り、持続可能で豊かな生活を確保できるか、その「基本となる考え方」について、私見をできるだけ分かりやすくお伝えすることを目指しています。確実に言えることは、「リターン(収益)は、必ずリスク(危険)に見合ったものである」。よって「絶対に儲かる投資法など存在しない」ということです。

●第2回(お金を普通預金に放置する“悪手”…原因は“正常性バイアス”のせいだった!?)では、今の日本において「資産運用に対して、何もしない」ほうがいかに“残念な事態”につながるのかを解説します。

『「新しい資本主義」の教科書』

池田健三郎 著
発行所 日東書院本社
定価 1,760円(税込)

池田 健三郎/経済評論家、政策アナリスト

1992年日本銀行入行(総合職)、一貫して金融経済の第一線で研鑽を積み1999年6月円満退職。以降は個人事務所(シンクタンク)を設立し、「政策職人」として活動。現在、経済評論家・政策アナリスト、TVコメンテーター、シンクタンク代表のほか、ビジネス・コンサルタント、企業経営者として活動中。撮影:今津勝幸

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