【地価公示 住宅地の上昇率】3位は宮古島、2位は“日の丸半導体”効果の千歳、1位は「第2のニセコ」と呼ばれる街に…
Finasee / 2024年4月9日 11時0分
Finasee(フィナシー)
地価の上昇率が目立つのは東京だけではない
令和6年の地価公示価格が発表されました。
地価公示価格とは、すべての土地の価格の指標になるものです。1月1日時点における、全国2万6000地点の地価を、2259名の不動産鑑定士によって評価し、国土交通省が公表しています。
都道府県別の地価変動率が、昨年に比べて上がったのか、それとも下がったのかを、住宅地と商業地のそれぞれで見ると、住宅地は29都道府県でプラス、17県でマイナスになりました。昨年の住宅地は、プラスが25都道府県、マイナスが22県でした。
次に商業地について見ると、29都道府県でプラス、15県でマイナスになりました。昨年は23都道府県がプラスで、23県がマイナスでした。
この動向から見ると、住宅地、商業地のいずれについても、地価上昇が全国的に広がりつつあることが分かります。ちなみに2015年の地価公示価格で、前年比がプラスだった都道府県は、住宅地が7都府県、商業地が10都府県でした。
もう少し細かく見てみましょう。
都道府県庁所在地別に住宅地の地価動向を見ると、東京23区は5.4%の上昇でした。もちろん前年比5.4%の上昇率は決して低い方ではありません。が、札幌市は8.4%の上昇、仙台市が7.0%の上昇、福岡市は9.6%の上昇というように、地方の都市中心部における地価上昇が目立っています。これは利便性や住環境に優れたところの住宅需要が旺盛であることを示しています。
また、東北6県の住宅地の地価が、前年比でプラスに転じたことも特筆すべき点でしょう。2023年の前年比は、青森県と秋田県がマイナスでしたが、2024年はプラスに転じています。
秋田県を例にとると、人口は減少傾向にあります。1980年の秋田県の総人口は125万6745人でしたが、1982年以降2023年に至るまで、前年比マイナスが41年間にわたって続いています。ちなみに2023年の総人口は91万3514人ですから、この41年間で、34万3231人も人口が減ったことになります。
これだけ人口流出が著しいのにも関わらず、秋田県の2024年地価公示価格は、前年比で0.2%のプラスでした。プラス幅自体は小さいものですが、これだけ人口が流出しているにも関わらず、住宅地の価格が上昇している理由は、秋田県の中心地に人が集まっているからと考えられます。実際、県庁所在地である秋田市の地価は、過去5年において2021年こそ0.0%、つまり変動しなかったものの、その前年である2020年、そして2022年以降は前年比でプラスです。ちなみに2023年は前年比1.2%の上昇、2024年は前年比1.5%の上昇となりました。同一県内の人口移動によって、中心地の地価が押し上げられたのです。
また、大都市圏の住宅地の地価上昇が、周辺地域にも波及しているケースも見られます。東京23区はその代表例といえるでしょう。前述したように、東京23区の地価公示価格は、2024年の前年比が5.4%の上昇ですが、それに連動するかのように、さいたま市が2.7%の上昇、千葉市が3.7%の上昇、横浜市が2.7%の上昇となっています。
標準地ごとに、住宅地の地価上昇が著しい地域を標準地番号別に見ると、上位には北海道が並びました。1位は「富良野-201」で前年比27.9%の上昇。次いで「千歳-19」の23.4%上昇が続きます。3位には沖縄県の「宮古島-6」が入っていますが、4位が同じく北海道の「千歳-10」の20.6%上昇、5位が「帯広-8」の20.4%上昇、6位が「千歳-1」の20.2%上昇です。
富良野市は今、第二のニセコという呼び名が高まっています。外国人観光客を相手にしたリゾート開発が盛んで、別荘やコンドミニアムなどの需要が増大し、高い上昇率になったと考えられます。
同じく、外国人観光客を対象にしたリゾート開発で注目されているのが、長野県の白馬です。こちらの地価も前年比19.5%上昇で、標準地の地価上昇率は全国8位です。
また、北海道の千歳市が、上位10位のなかに4つも入っていますが、これは次世代半導体の量産を目論む日の丸半導体メーカー、ラピダスの工場進出に伴うものです。同社の半導体工場は新千歳空港の近くにあり、その半導体工場に勤務する人たちの住宅需要が高まるとの見方から、地価が上昇しているのです。
商業地の地価は、「インバウンド」の影響が色濃く商業地は、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念され始めた2020年の全国平均が3.1%の上昇率を見せたものの、その後は行動自粛に伴う人流や、インバウンド客の大幅減少によって、2021年は0.8%の下落となりました。そこから徐々に回復基調をたどり、2024年の上昇率は、2020年のそれに追いついています。
上昇に寄与した都道府県を見ると、人流回復やインバウンド復活の影響が色濃く出ています。北海道の5.1%上昇、東京都の6.3%上昇、神奈川県の5.4%上昇、千葉県の5.3%上昇、大阪府の6.0%上昇、京都府の5.1%上昇、福岡県の6.7%上昇、沖縄県の5.0%上昇、といった具合です。いずれも国内観光客、外国人観光客が集まりやすい場所ばかりです。また再開発によって利便性や賑わいの向上が期待されていることなども、地価上昇に寄与していると考えられます。
半導体、新幹線の延線…ニッポンの「今」を表す現象もその他、特需的な要因によって、地価の上昇が目立っている地域もあります。たとえば、鉄道の新路線が開業したことによって交通の利便性向上への期待が高まり、地価が上昇しているケースです。
代表的なケースとしては、今年3月に開業した北陸新幹線の金沢―敦賀間があります。
敦賀市のある福井県の地価は、住宅地こそ前年比マイナスが続いているものの、徐々にマイナス幅が縮小しており、かつ県庁所在地である福井市の住宅地地価は、連続して前年比マイナスだったのが、2024年は0.3%のプラスに転じました。
また商業地は、北陸新幹線の延伸による経済効果が期待されているからか、2024年はすでにプラスへと転じ、なかでも福井市の商業地は、2.1%という高い上昇率を示しています。
「不動産バブル再来ではない」といえる理由これまで地価上昇というと、東京23区をはじめとした大都市圏だけの現象というイメージでしたが、インバウンドや交通機関整備、そして半導体をはじめとしたモノの生産拠点を日本に移す動きが出始めるなか、地価上昇の動きが徐々に、地方にも波及しつつあります。
こうなると「不動産バブルの再燃か?」という見方が出てきがちですが、実は案外、そうでもないのかも知れません。ある不動産エコノミストは、「長期的に公示価格を見ると1991年が最も高く、全国全用途平均は前年比11.3%の上昇となりました。対して2024年のそれは、1991年に次ぐ上昇率とはいえ、わずか2.3%の上昇率に過ぎず、バブルと言うにはほど遠いのが現実」ということでした。
株式市場でも、1980年代のバブル期には、日経平均株価採用銘柄の平均PER(指数ベース)が60倍を超える水準まで買われましたが、同平均株価が過去最高値を更新した現時点でも、20倍を少し超える程度(指数ベース)で推移しています。バブル崩壊を懸念する声も聞こえてきますが、株価も地価も、案外落ち着いた状態を維持していると見るのが、妥当なのかもしれません。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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