狂った投球フォーム…甲子園V左腕が間違えた“選択” ボロボロの肩と肘、胸中えぐった後悔
Full-Count / 2024年5月18日 7時20分
■阪急、オリックスで46年間 松本正志氏…ドラフト1位なのに「よっぽどじゃないと出番がなかった」
46年前の“心意気”を穏やかな口調で振り返った。今年3月31日付でオリックスを退職した松本正志氏は、1977年に阪急ブレーブスからドラフト1位指名を受けて入団。以降は“青波一筋”でプロ野球人生を全うした。
「いっぱい思い出はありますね。自分が選手だったことを話すのは珍しいかもしれません。いつも『あの時のあの選手』はどうだった? という質問が多いのでね(笑)」
黄金期も低迷期も“生きる歴史”として球団を支え続けた松本氏が、自身の新人時代を回想した。松本氏は東洋大姫路高時代、1976年(当時2年生)の選抜でベスト4、1977年に行われた夏の甲子園大会では全国制覇に導いた。
ドラフト1位でプロの世界に飛び込んだ“甲子園優勝投手”は「プロに入った時は『すぐに1軍で活躍できるな』と思っていました。先輩のブルペン投球を見た時に『これならいけるな』と。先輩たちも『このボールなら甲子園で優勝するわ』と言ってくれていましたから」と腕を組む。
「高卒1年目で、春季キャンプの後半戦からオープン戦を含めて5、6試合で投げさせてもらったんです。なかなか当時そんな投手はいませんでした。『期待してもらっているんだなぁ』と感じていましたね」
有頂天になっていたわけではない。不安を胸にマウンドに上がっていた。「開幕前、最後の登板で打たれて2軍スタートになったんです。1回しか打たれていません。そのくらい当時の阪急は強かったんです」。夏場を迎えるまではファームで鍛錬を積んだ。
鳴り物入りで入団したが「当然のように敗戦処理からスタートでした」。7月に1軍昇格しても、先発で1試合を預けてもらうことはなかった。「あの頃の阪急は、常に上位のチームでした。だから、敗戦処理も、よっぽどじゃないと出番がなかった」と常勝軍団がゆえの“嘆き”もあった。
■後輩との食事で尋ねた質問に「俺もそうすればよかったな…」
プロ初マウンドは1978年7月5日のクラウン戦。5回からマウンドに上がったが「7、8点ビハインドだった記憶ですね。佐藤義則さんを継いで投げました。僕が緊張しながら黙々と投げていたら、打線が頑張ってくれて同点に。そこで山田久志さんが出てきたんです」。
同点での“エース投入”で「本気で勝ちに行って、引き分けになった。初登板で、もう1イニング投げて味方があと1点取ってくれれば、初勝利のチャンスでした。だけど、山田さんが出てきてくれてうれしかった。先発がベンチに入って『絶対勝つ!』というゲームで初登板させてもらったんですから」。プロ1年目は6試合の登板で、防御率4.15の成績だった。
「プロ1年目はストレートだけでした。僕は不器用だったから。18歳の時、カーブも投げられたんですけど、ストライクが入らなかった。だから、投げられませんと言ってました。10球投げたら2球くらいしかストライクゾーンに投げられなかった」
ピカイチの直球のみで勝負し、甲子園でも優勝。変化球は「騙し騙しでしか投げられなかった」のだが「プロ2年目から『カーブをしっかり覚えろ!』とみんなから言われて……。フォームがおかしくなって狂ったんです。フォームが崩れるとストレートも走らなくなった。2年目まではストレートが通用すると肌で感じていたけど、肩も肘も壊して、かなりスピードも落ちてしまった」。
苦境に立たされ続け、プロ4年目の1981年に“相談相手”が見つかった。2学年下の牛島和彦投手(当時は中日)だった。「食事をする機会があったんです。牛島は真っすぐとフォークだけで成功していた。『なんでカーブじゃないんや?』と聞いたら『僕はカーブを投げられない』と。だから、真っすぐの軌道で投げられるフォークに決めましたってね。『あ、そうなのか……』と返事するしかできませんでした」。ナイフとフォークを置くと、反省と後悔が胸中をえぐった。
「俺もそうすればよかったな……」
その頃、まだ22歳。「4年目なのに、もう選手として難しいなと思い始めていました。肩も肘もボロボロで、ボールの威力がだんだん落ちていましたから」。街灯に照らされる自分の影は肩がすくんでいる。トボトボと家に帰るのが、辛かった。(真柴健 / Ken Mashiba)
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