パリの聖火リレーが忘れている“本当の意義” 歴史、景観、伝統を発信することだけが目的ではない【7.26パリ大会開幕 徹底!実践五輪批判】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年5月17日 9時26分
仏マルセイユに到着した聖火を載せたベレム号(C)共同通信社
【7.26パリ大会開幕 徹底!実践五輪批判】#3
パリ五輪の聖火リレーは始まっている。
伝統にのっとり、4月16日にギリシャはオリンピアでの採火式の後、ギリシャ国内をリレーし、26日にアテネの象徴パナシナイコスタジアムでパリ五輪組織委への引き渡し式が行われた。
翌日、ギリシャ南部のピレウス港からフランスに向けて出発した聖火は地中海を帆船「ベレム号」で渡り、5月8日にマルセイユに上陸。ベレム号は、最初の近代オリンピック競技大会がギリシャのアテネで開催された1896年に建造され、1世紀以上、記念式典などで使われてきたもの。ギリシャとフランスを「オリンピック」という絆で結ぶ意図がある。
聖火はそこからフランスを象徴する名所を巡りながら、同国史に残る重要な時代をつなげていく。ルートには海も含まれ、地中海、大西洋、インド洋、太平洋も「オーシャンリレー」に加わる。フランスの美しさと多様性、その歴史と素晴らしい景観、知識、伝統、才能を世界に紹介する絶好の機会とすると組織委は意気込む。ベルサイユ宮殿、モンサンミシェルなどの名所旧跡も巡る壮大な旅だ。
しかし、最も大切な何かを忘れていないか?
コロナ禍の厳しい制限の中で行われた東京2020の聖火リレーを思い起こすとその開放感に圧倒されるが、あの時に問われた、コロナ禍でもやる意味はひとつしかなかった。古代ギリシャでは4年に1度、戦争を止めてオリンピアに集まり競技会を開いた。その開催を告げる使者がオリーブの枝を持って各ポリス(都市国家)を回った。「武器を置いてオリンピアに集まれ!」と。
聖火リレーは、オリーブの枝をトーチに替え、世界に休戦を呼びかける平和への訴えなのだ。
この根本原則をパリ五輪も想起すべきだ。東京が伝えきれなかったその意義をパリは発信しているか?
朗報があった。日本の中学生がギリシャ内のリレーに参加し、聖火ランナーとなっていた。オリンピア市と姉妹都市提携をしている愛知県稲沢市の9人の中学生だ。トーチを持った生徒は「日本代表としてのいろんな思いや意志が入ったトーチだと思います。その責任と思いを背負い、しっかり走れるように頑張ってきたい」と語った。実は東京2020でトーチの燃焼部分を請け負った愛知県の「新富士バーナー」が、パリ五輪でもトーチの燃焼部分とガスボンベを製造している。
「平和を考えて走りきってきたいです」とは伴走者の中学生の言葉だ。聖火リレーの意義を日本の若人が伝えていた。これから約60日間繰り広げられる聖火リレーの毎日は「フランス」を伝えるだけでなく、「休戦」をアピールしなければならない。
(春日良一/五輪アナリスト)
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