副業先「クライアントに損害を与えた」指示通りに制作しただけなのに…。「業務委託料の支払い」を拒否、損害賠償請求まで。対処法は?【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月12日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
政府の働き方改革により、副業やフリーランスなど、私たちの働き方の選択肢は広がりました。自由度が上がった一方で、発注者とのやり取りはすべて自己責任で行わなければなりません。「業務委託料が支払われない」「契約書を自分でチェックしなければならない」など、対応に追われる方も多いようです。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、業務委託料の支払い拒否と損害賠償請求について、齊藤宏和弁護士に解説していただきました。
成果物を指示通りに納品したのに……
相談者の匿名希望さんは、副業でWebコーディングをしています。
先日業務委託先である仲介会社に、納品分の業務委託料の請求書を送付しました。すると「リリースされた成果物にミスがあり、クライアントに損害を与えた」として、業務委託料の支払い拒否と損害賠償を示唆する内容の連絡を受けたのです。
相談者は「成果物のミスは仲介会社の指示ミスによるものであり、自分は仲介会社の指示通りに制作しただけ」と認識しています。そして問題発覚まで修正指示がなかったことから、業務委託料の支払い拒否や損害賠償に応じなければならないのか疑問に感じています。
そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の3点について相談しました。
(1)現状、業務委託料の支払い拒否と損害賠償の請求は法的に認められるのでしょうか。
(2)弁護士に相談する前に、こちらでやっておくべきこと(証拠の収集など)はありますでしょうか。
(3)今後も副業を続ける場合、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
今回の相談内容で重要な3つのポイント
今回のご相談内容のポイントとしては、
①「成果物のミスは仲介会社の指示ミスによるもの」ということが証明できるか
②相談者が「仲介会社の指示」が適切なものではないと認識していたかどうか
③仮に仲介会社の指示が不適切であると認識していた場合は、そのことを相談者が仲介会社に指摘したかどうか
の3つになります。
①「成果物のミスは仲介会社の指示ミスによるもの」ということが証明でき、かつ、②相談者が「仲介会社の指示」が適切なものではないとの認識がなかった、又は③不適切と認識して、そのことを仲介会社に指摘したが、指示通りに作成するよう求められたということであれば、業務委託料の支払い拒否は認められませんし、相談者が損賠賠償を行う必要もありません。
まず、業務委託契約は、その性質により請負型、委任・準委任型などに分類されます。本件は、相談者が仲介会社の依頼のもと、Webコーディングにより成果物を完成させ納品するものですので、仕事の完成を目的とする請負型に該当します。
請負の場合、民法632条以下が適用されることになり、本件では既に引き渡しも済ませていることから、契約に特別の定めがない限り民法633条により注文者である仲介会社に報酬支払義務が生じています。
一方、仲介会社は成果物にミスがあったと主張しています。この「成果物のミス」がどのようなものかははっきりしないものの、法的に整理すると、民法559条にて請負契約にも適用される売買の規定である民法562条の「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものである」(「契約不適合」と言います。)との主張と思われ、それを理由として、代金の減額(民法563条)や損害賠償(民法415条)を求めているということになります。
しかし、民法636条では、契約不適合が「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた」ものである場合には、代金の減額や損害賠償等はできないとされています。
そのため、①「成果物のミスは仲介会社の指示ミスによるもの」ということが証明できるかが、一つ目のポイントになります。
したがって、弁護士に相談する場合には、「成果物のミス」「仲介会社の指示」のそれぞれを具体的に特定できるもの(メールのやり取りの内容等)をご用意いただければと思います。
ところが、この一つ目のポイントをクリアできたとしても、民法636条ただし書では、「請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。」とされており、もし、相談者(請負人)が、仲介会社(注文者)の指示が不適当であると知っていたにも関わらず、これを指摘していなかった場合は、代金の減額や損害賠償等が認められることになります。
そのため、②相談者が「仲介会社の指示」が適切なものではないと認識していたかどうか、また③仮に仲介会社の指示が不適切であると認識していた場合は、そのことを相談者が仲介会社に指摘したかどうかがポイントになります。
なお、「仲介会社の指示」が相談者を拘束するようなものではなく、単なる希望程度のものであった場合や、相談者が仲介会社の指示が不適切だと認識していなかったとしても、請負人として容易に不適切であることを知り得たにも関わらず、認識できていなかった場合には、代金の減額や損害賠償等が認められることになってしまいます。そのような観点からも「仲介会社の指示」がどのようなものであったのかを具体的に特定できる資料は、非常に重要になってきます。
相談者が今後も副業を続ける場合には、紛争を未然に防ぐことが重要です。
これまで記載してきたことは、あくまで民法に則った場合の結論です。契約不適合があった場合の責任については、民法の定めが絶対ではなく、契約において自由に変更することができます。
したがって、今回の相談においても、実は契約書の内容次第で結論が変わり得ます。
契約書はそれほど重要なものですので、今後も副業を続けることを考えるのであれば、取引のたびに、契約書の内容を確認することは必須と言わざるを得ません。
また、契約書の内容に特段問題がなかったとしても、万が一のトラブルに備えて、業務を行う過程での会話内容の記録や、メールの保存等は心がけていただければと思います。
知的財産権や下請法について予め知っておくのは容易ではない
1.下請法との関係
本件のような業務委託契約については、しばしば下請代金支払遅延等防止法(いわゆる「下請法」)が適用される場合があります。
下請法が適用されるかどうかは、取引の内容と、取引事業者の資本金規模で判断されます。
下請法が適用される場合には、発注後に注文者が報酬を減額する、一定期間内に代金を支払わない、報酬を決める際に著しく低い額を定めるなどの場合に、下請法違反として委託者に勧告、公表、課徴金などの法的措置が課されることになります。
また、令和4年1月26日に下請法の運用基準が改正され、下請業者の保護がより厚くなっています。
詳細については、公正取引委員会のホームページをご確認頂ければと思いますが、取引先とのやりとりの中で不満を感じたときは、下請法の適用の可否を含めて調べてみるとよいと思います。
また、ご相談者が従業員を使用せず、お一人で事業を行っている場合、今年(2024年)秋頃以降、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆる「フリーランス新法」)が適用されることになります。同法の内容は下請法の保護の内容と同等のものですので、保護される受託者の範囲が広がるイメージとなります。
2.成果物の知的財産権の帰属
業務委託の場合には、成果物の知的財産権の帰属及び対価が問題になることが少なくありません。
今回の相談のようにWebページを作成する場合や、ソフトウェアなどのプログラム開発を行う場合などには、著作権の帰属や著作者人格権の行使の可否が問題となります。
まず、著作物が製作されると、その著作権は原始的に著作者である受託者に帰属します。その上で、委託者が著作権そのものを譲り受けるのか、著作権は受託者に残しつつ著作物を利用する権利だけを取得するのかなどを契約において決めておく必要があります。また、それにかかる対価が、業務委託料に含まれるのかどうかも、決めることになります。
さらに、著作物を公表できるかどうか、公表の際に著作者の氏名を表示させるかどうかといったことなどを決める権利を、著作者人格権というのですが、著作者人格権については譲渡ができないことになっています。そのため、著作者人格権については、著作者である受託者が、同権利を行使することができるかどうかが、契約において決められることになります。
受託者としては、知的財産権についての決まりや仕組みを理解しつつ、譲れない点を明確にしつつ、委託者と交渉していくことが必要となります。
しかし、知的財産権のことや下請法のこと、相談内容に関わる契約不適合のことなどを都度調べたり、予め知っておくというのは容易なことではないと思われますので、是非、弁護士にご相談ください。
齊藤 宏和
弁護士
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