「妊娠中だけど、離婚したい…」産まれる子どもへの影響は? 後悔しないための注意点【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月8日 10時0分
たとえ妊娠中でも、さまざまな事情から「離婚したい」と考える人はいるでしょう。しかし、離婚後の生活資金や産まれてくる子どものことを考えると、なかなか踏み切れないことも。本記事では、Authense法律事務所の弁護士白谷英恵氏が、妊娠中の離婚における注意点について解説します。
妊娠中に離婚できるのか?
妊娠中だからといって離婚が制限されるようなことはありません。ただし、お腹の子どもの親権や、養育費、離婚後の生活など、多くの悩みと対峙することになります。
夫婦間の協議によってスムーズに離婚ができれば、まだ問題はないですが、離婚の条件で争ったり、離婚自体をどちらか一方が認めなかったりする場合も考えられます。
調停や裁判に発展すると、特に妊娠中の女性にとっては大きな負担となってしまうため、離婚に踏み切るには慎重な判断が必要です。
妊娠中に離婚を検討する理由
では、妊娠中に離婚を検討する理由とは一体なんなのでしょうか。もちろん、夫婦によって十人十色ではありますが、一般的に以下のような理由が考えられます。
妊娠中の妻が精神的に不安定に
妊娠した女性の体内では、ホルモンバランスが急激に変化しています。その影響で、すぐに苛立ってしまったり、気分が落ち込んだりと、精神的に不安定になりがちです。
この状態は、一般的に「マタニティブルー」という言葉でも知られています。マタニティブルーである妻が、つい夫に辛く当たることで、夫婦関係が崩れてしまうケースは珍しくありません。
妻の妊娠中に夫が浮気
妊娠中の女性は、体調も不安定で、性的なスキンシップを望まないこともあるため、セックスレスになることもあります。そして、セックスレスを理由に、ほかの女性と浮気をするという男性もいるようです。
夫の軽率な行動は、子どもを命がけで産もうとしている妻にとって、許しがたいものとなります。
ドメスティックヴァイオレンス(DV)
妊娠中の夫からのDVであれば、肉体的か精神的かにかかわらず、早急に離婚を検討したほうがいいでしょう。
DVがひどい場合、妻と、お腹の中の子どもの命が危険にさらされます。ひとりで抱え込まずに、警察や相談窓口を利用し、離婚についても相談に乗ってもらいましょう。
夫婦間のすれ違いやコミュニケーション不足
女性が、体の変化によって妊娠を自覚できる一方、男性はそうはいきません。そのため、夫婦間ですれ違うのは致し方ないですが、この時のコミュニケーションを怠ると、夫婦間に大きな溝が生じることになります。
自分がなにを望んでいるのか、言葉にしてコミュニケーションを取ることが大切です。
それでも妊娠中に離婚したい…将来的に後悔しないためには
それでも妊娠中に離婚を決断した場合、後悔しないためには、一体なにに注意すればいいのでしょうか。特に知っておきたい事項を以下に紹介します。
子どもの戸籍
離婚成立後300日以内(=10ヵ月)に出産した場合、子どもは、結婚時に氏を変更していないほう(=筆頭者)の戸籍に入ります。10ヵ月という妊娠期間を考えると、基本的には離婚成立後300日以内の出産となるため、ほとんどの子どもはこれに該当します。
なお、混同しがちですが、親権者と戸籍は連動していないため、自動的に親権者の戸籍に入るといったことはありません。
では、結婚時に筆頭者でなかったとき、どうすれば子どもを自分の籍に入れることが可能なのでしょうか。
筆頭者でなかった場合、なにも手続きをしないと、本人は、離婚後に実家の戸籍に戻ることとなります。しかし、戸籍法上、子どもをこの実家の戸籍に入れることはできません。
そのため、子どもを自分の戸籍に入れたいのであれば、自分を筆頭者として、新たに戸籍を作る必要があります。子どもを自分の戸籍に入れるまでの手順は以下のとおりです。
<子どもを自分の戸籍に入れるまでの手順> 1.役所への手続きで、自分が筆頭者となる新しい戸籍を作る 2.新しい戸籍を作ったら、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可審判申立」を行う 3.本籍地の役所に子どもの入籍届を提出する面会交流
非監護者である親が、子どもに会いたいと願うのは当然のことです。
面会交流とは、そんな親に認められた子どもと交流する権利です。「交流」という言葉には、直接会うだけでなく、手紙でのやり取りや、プレゼントをあげるなどといった行為も含れます。
面会交流の方法や頻度、日時、場所といった条件は、基本的に夫婦間で決定することができます。しかし、その話し合いがまとまらなかった場合は調停で、さらに難航した場合には、審判にて決定がなされます。
また、面会交流は、親に認められた権利である一方、子どもの「親に会いたい」という意思を尊重する権利でもあります。妊娠中の離婚の場合、生まれてくる子どもが明確な意思を持つのは数年先のことになりますが、親の都合だけでなく子どもの気持ちを汲むことも大切です。
なお、「子の福祉」に悪影響をおよぼすと判断されたときは、面会交流が認められない場合もあります。それは、たとえば以下のような場合です。
・非監護者が子どもを虐待する可能性がある ・面会交流が原因で子どもに精神的負担が生じる ・監護者が再婚しており、新しい家庭とのあいだで子どもが混乱する恐れがある面会交流の条件は、離婚の経緯や離婚後の夫婦の関係性といった大人側の事情だけではなく、子どもの意見や成長への影響を加味して決定する必要があります。
養育費
小さな子どもを抱えながら経済的に自立することが大変難しいということは、想像に難くありません。そのため、養育費の問題は、妊娠中に離婚する人にとって切実な問題といえます。
法律上、親子関係は「結婚期間中の妊娠であるかどうか」で決まります。そして、親子関係が認められれば、監護者は元配偶者に対して養育費を請求することが可能です。
養育費とは、基本的に子どもが成人するまでに必要な生活費のことを指し、そこには学費や医療費、娯楽費などが含まれます。なお、養育費を請求できる期間や金額、方法は、法律で決まっているわけではないため、夫婦の協議によって決定できます。
どうしても夫婦間の協議で決定しない場合は、審判で決定されることになりますが、その際、金額は、家庭裁判所が発表している「養育費算定表」を用いての計算となります※。
慰謝料
離婚の原因が、元配偶者のDVや浮気といった不貞行為であった場合、元配偶者に対して慰謝料を請求することができます。このほかにも、離婚後の仕事や財産分与など、検討しなければならない事項は山積みです。
自分達だけの問題ではなく、このときの判断が子どもの将来にも大きく影響してくるため、よく調査し、検討しましょう。少しでも不安な際は、弁護士に相談することをおすすめします。
※ 裁判所 養育費・婚姻費用算定表(令和元年12月23日に公表された改訂標準算定表(令和元年版)です)
何年経っても、自分の選択に自信が持てるように
妊娠中の離婚を決断したのであれば、親権者や監護者であるか否かにかかわらず、子どもにとってなにが最善なのかを考えなければなりません。本人同士だと、感情的になり冷静な協議が難しくなることも多いため、弁護士の仲介が有効です。
もちろん、夫婦関係がもとに戻り、生まれてくる子どもと一緒に幸せな家族を築けるのであれば、それが最もいい結果といえます。
自分のいまの気持ちは、マタニティブルーの影響ではないのか、夫婦関係の修復は本当に不可能なのか、もう一度よく考え直してみてはいかがでしょうか。何年経っても、自分の出した答えに自信が持てる決断をしましょう。
白谷 英恵
Authense法律事務所
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