税務署は、庶民の税金「数万円」さえ見逃さないが…議員の裏金「5億8,000万円」にはそっと蓋。税務調査の赤裸々実態【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月7日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
自民党派閥による政治資金パーティーをめぐる裏金問題が昨年からニュースを賑わしています。毎日新聞が実施した世論調査(2024年2月17・18日)の結果からは、問題のあった自民党議員を「国税が調査すべきだ」という国民の声が強くあがっていることがわかります。本記事では、一般庶民の身の上に起きた税金問題の事例から、税理士法人OGUの小串嘉次信税理士が税務調査の実態を紐解いていきます。
裏金問題が騒がれる片隅で
巷間、政治資金問題を巡り、収支報告書への不記載は議員85名が該当、5年間で5億8,000万円におよぶ不明金が発覚した。
不記載となった金額がどのような使途になっているのかが明らかになることはなく、議員に還流された資金が個人所得として認識され、課税対象とされる議論もいま現在行われていない。そのため、国税当局がこの問題について動きを見せることはなさそうな気配である。
そのような政治情勢のなか、一般庶民Aさんの身の上に起こった税金問題をご紹介したい。
東京在住のサラリーマン、大阪の実家を売却すると…
Aさんは東京で一般企業に勤めるサラリーマンである。Aさんは2年前の春ごろに父親から相続で取得した大阪の宅地を売却した。
Aさんはもともと大阪の出身であったが、現在東京で自宅を購入して家族も同居していたため、大阪の実家の宅地はもはや不要であった。そこで、実家の近隣にある地場の不動産会社に買い取ってもらったのだ。
売却価額は5,000万円ちょうど。昨年3月の確定申告時には譲渡所得の申告をオンラインで自力作成し、住民税も含めると1,000万円近い譲渡税を納付した。
そんな折、今年に入って大阪の税務署から自宅に電話連絡が入った。なんでも実家の宅地を売った不動産会社に対する税務調査の一環として、売買時の取引状況の確認のため、売買当時の契約書や最終決済の状況の書類を見せてほしいとのことであった。
Aさんは自分の申告内容には自信を持っており、なんらやましいことはないので、近々大阪に帰る予定があるからその折に税務署に寄って資料を見せる旨を税務署の担当者へ伝えた。
そしていよいよ、大阪の税務署に訪問する日が来た。
Aさんと調査官のやりとり
Aさん「こんにちは。お問い合わせの資料をお持ちしました」
調査官「ご足労をいただきありがとうございます。では、早速に資料の方を拝見させて頂きますね。なるほど、契約書は公簿取引により売却価額が5,000万円ですね」
Aさん「そうです。相場どおりかなと思いまして不動産屋さんの言い値で売りました。私の確定申告書もその様に記載していますからね」
調査官「なるほど、そうですね。申告書は契約書どおりに記載されています。契約書に印紙もお貼りいただいていて契約書として完成していますね」
Aさん「そうでしょう。不動産の売却に伴う税金が1,000万円近かったものですから、お陰様で昨年は高額納税者になれた気分でしたよ」
調査官「なるほど、恐れ入ります。しかし売買当日、不動産会社から5,000万円以外の現金をもらっておられないでしょうか?」
Aさん「えっ? 5,000万円以外の現金などもらう理由がわかりませんがどのような意味でしょう?」Aさんは多少不機嫌になってそう答えた。
調査官「本日契約書とは別にお持ちいただいている、決済当日の精算書のことなんですがね」
Aさん「ええ」
調査官「精算書には物件の固定資産税の清算金として14万2,600円を買主は売主に払う旨の記載があります」
Aさん「そういえばその年に私が納税した固定資産税を日数割りして買主さんが現金で私に精算してくれました」
調査官「そうですね。資料が物語っています。この固定資産税の精算金は資産税の税務実務においては、不動産の売却代金に加算して下さい、というルールなのですよ」
Aさん「ええっ! 僕がその年払った固定資産税を精算しただけの意味ですよね。どうしてこれが売却代金に含められるのですか!?」
調査官「この固定資産税の精算は、不動産取引における実務慣行に則った経費精算に過ぎないので、税金の立替金払いには該当せず譲渡収入を構成するものとして扱われます。従ってAさんは譲渡所得の修正申告を行うべき必要があります」
Aさん「そんな……。もうたくさん税金を払っているのにまだ税金を取る気ですか? 東京からわざわざ来たのだからなんとか考えてくれませんかね?」
調査官「いえ、私が現認した以上、修正申告の対象とお考えください。当方は、買主である不動産会社の帳簿との整合性のためにもこの修正は必要であると考えます」
Aさんに告げられた追徴課税額
このようなやり取りの結果、Aさんは14万2,600円を譲渡収入に加算することにより、物件の売却価格は5,014万2,600円であったとする修正申告書を作成し、所轄税務署に提出することとなった。Aさんの修正申告による増差税額は住民税を含め2万8,900円が追徴される結果となった。
事例のようにAさんは売却代金と精算金の僅かな差異について税務当局に着目され、修正申告のうえ追徴税額を納税することになった。
これは日本における税務が租税法律主義に基づいていることから心情的には別として、仕方のない税務上の修正であったように思う。Aさんも悔しかったに違いないが法的に正しい処理が必要と考え、修正申告に従ったはずである。
冒頭の政治資金の問題では、我々納税者のお手本であるべき議員の使途不明金が現在も騒がれて喧しい。
Aさんが税務当局で味わった侘しさが現実の庶民感情なのであるから、議員の方々は自律的な制度を自ら創り、たとえ僅かな金額であっても襟を正して厳格に政治資金を取り扱っていただきたいものである。
小串 嘉次信
税理士法人OGU
税理士
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