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親が認知症に→口座が凍結された!“唯一の解決策”は「成年後見人制度」だが…日本で一向に普及しないワケ【司法書士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月1日 11時30分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化にともなって高まる認知症リスク。認知症の発症により、本人はもちろん、家族にもさまざまな問題が発生します。そのひとつが「意思能力の欠如による口座凍結」です。この問題の解決策は、基本的には「成年後見人制度」しかない一方、日本では成年後見人制度の普及が一向に進んでいないと、司法書士で『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)著者の岡信太郎氏はといいます。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。

財産が凍結→解決策は「成年後見人制度」だけ!?

認知症になり、財産が凍結されてしまったらどうすればいいのでしょうか。解決策としては基本的に「成年後見制度」だけとなります。

成年後見制度とは、裁判所に選任された後見人が、認知症などによって財産管理などの行為をひとりで行うのが難しい方の支援をする制度です。

後見人の仕事は、大きく2つあります。1つ目が「財産管理」です。その最たるものが通帳管理。本人に代わって預貯金の出し入れができるようになります。ほかにも、家の権利書のような財産の保管、不動産の管理、相続への対応などがあります。財産管理だけでなく、本人の生活に不可欠な病院代、公共料金、介護ヘルパー代などの各種支払いを支援することも重要な仕事です。

2つ目が「身上の保護」と呼ばれる仕事です。施設の入所契約や介護契約のような本人の生活を組み立てるものを指します。本人と定期的に面会し、施設担当者や主治医とも定期的にコミュニケーションを取りながら、できる限り本人の意向を反映させていきます。

ただし、後見人であってもできないこともあります。それは食事や入浴の介助です。それらの行為が必要な場合は、後見人はその手配を行うことになります。

また、手術や延命治療などの医療に対する同意はできません。婚姻や離婚、養子縁組を本人の代わりに行ったり、同意したりすることもできません。

成年後見制度は2000年4月1日、介護保険制度と同時にスタートしました。それまで介護サービスを受けるには市区町村等の行政判断が必要でした。いわば「お上」から介護内容や入所施設について指導されなければサービスを利用できなかったのです。

しかし、1980年代以降、日本も高齢化が進み始め、利用するサービスを本人が決定し、みずから契約する形となりました。ここで登場するのが、成年後見制度です。介護保険制度では介護内容や入所施設は利用者が自ら選び、契約する必要があります。しかし、老化や認知症などによる判断能力の低下によってそれが難しいケースがあります。そのとき、本人の代わりとなる人が求められるのです。これが成年後見人です。

「成年後見人制度」が一向に普及しないワケ

ところが、成年後見制度は介護保険制度と比べて知名度も利用率も低迷しています。認知症高齢者は増加し続けている一方なのに、です。そこにはいくつかの理由があります。

成年後見制度の普及が進まない理由の1つに、子どもをはじめとする親族自らが希望通りに後見人になれないことが挙げられます。後見人は家庭裁判所によって選ばれますが、近年、親族を選任しない傾向が強くなっているのです。今や8割以上が親族以外から選任されています。

ちなみに親族以外とは司法書士、弁護士、社会福祉士といった専門職、市区町村等が実施する養成研修を受けるなどした一般市民の方です。親族が選ばれる場合もありますが、圧倒的多数で第三者が選任されているという現状があるのです。「自分が後見人になれる」と楽観視しないほうがいいでしょう。

成年後見制度が避けられる理由は他にもあります。後見人を利用するにあたっては家庭裁判所に申立書を提出する必要があり、それはA4用紙1枚で済むような簡単なものではないからです。

申立書には、医師の診断書を添付しなければなりません。成年後見制度は本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3段階に分かれており、本人が今どの状態にあるのか、医師の判断を仰ぐ必要があるからです。

添付書類はほかにもあります。中でももっとも馴染みが薄いのが「登記されていないことの証明書」です。これは、本人が事前に後見人を選任していないことを証明する書類です。東京の法務局が発行するため、多くの人が郵送請求をすることになります。

本人の財産がわかる資料も提出しなければなりません。典型的なのは通帳や保険証券です。原本は提出できませんので、コピーを取って提出する必要があります。しかし、これで終わりではありません。そのコピーをもとに財産目録や収支予定表を作成しなければならないのです。

こうした申立書の作成に時間がかけられない場合は司法書士などの専門家に作成代行を依頼することができます。ただ、その場合に発生する費用は原則として申立てをする人の負担なのです。

こうした複雑な手続きがあることを知っていれば、親が認知症となって金融機関から後見人をつけるように言われても「そう簡単に言ってくれるな」と思ってしまうのが一般市民の実感でしょう。制度が敬遠されるのも無理はありません。

煩雑な「成年後見人制度」だが…利用している人の“動機”とは

それでも成年後見制度を利用する人がいるのは、予防のためというより、必要に駆られて急遽利用せざるを得なかったからです。そのことは最高裁判所事務総局家庭局の統計からも読み取れます。申立ての動機として最も多いのは「預貯金等の管理・解約」です。つまり、認知症を理由に金融機関の口座が凍結されるなどして行き詰まり、慌てて制度を利用しているのです。成年後見制度が認知症対策の「最後の砦」「駆け込み寺」と言われることもあるのはこのためです。

それゆえ、慌てて駆け込み寺に駆け込んでしまい、後悔する事例が後を絶ちません。

1つ目の理由としては先ほども申し上げたとおり、後見人に必ず希望通りの人が選ばれるとは限らないことです。本人とは何の縁もゆかりもない第三者の専門職が選任されることを覚悟しておく必要があります。

2つ目の理由としては、一度後見人がつくと本人が亡くなるまで利用は止められないということです。本人が生きているうちは、何らかの理由で制度の利用を中止したいと申し出ても認められないのです。

もちろん、本人の認知症の症状が改善して自立できれば後見を取り消すことは不可能ではありません。しかし、現在の医学では認知症を完全に治すのは難しいでしょう。後見の取り消しはほぼないと考えたほうが現実的かもしれません。

後見人の側も自分の意思で辞任することは基本的にできません。「正当な事由」があれば可能ですが、それが妥当かを判断するのは裁判所であり、辞任には裁判所の許可が必要です。

専門職が後見人についた場合、その人から別の人に変更することも簡単ではありません。「家族との相性が悪い」「態度が横柄」「通帳を見せてくれない」ということがあっても、後見人の変更が認められることは稀です。もちろん、横領などの不正行為があれば別です。

口座凍結の解除などの目的が達成されたからといって後見をやめることはできないことはぜひ知っておいてください。

岡 信太郎 司法書士のぞみ総合事務所 代表

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