相場は数十万円〜数百万円だが、離婚で「慰謝料請求」ができないケースとは…「最も多い原因」ではもらえない!? 【弁護士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月13日 10時0分
女性が離婚を考えるとき、気になるのは離婚後のお金のことでしょう。安易に「慰謝料をもらえば当面の生活は大丈夫」と考えている人は注意が必要です。慰謝料は、離婚に際し必ずしも発生するわけではありません。本記事では、Authense法律事務所の弁護士白谷英恵氏が、離婚で慰謝料をもらえるケースとともに、慰謝料の金額を高くする方法について解説します。
離婚で慰謝料がもらえないケースも
離婚の場合、金額の相場は数十万円〜数百万円とケースによってまちまちです。離婚後の生活再建においては少しでも慰謝料があれば助かりますが、離婚すれば必ず慰謝料がもらえるわけではありません。
離婚の慰謝料とは
一般的に「慰謝料」とは精神的な被害に対する損害賠償のことですが、離婚の慰謝料はその性質によって大きく2つの特徴があります。
ひとつは「離婚原因慰謝料」で、配偶者の行為によって受けた精神的苦痛に対するものです。
もうひとつは「離婚自体慰謝料」で、離婚することで夫または妻という地位を失うことで生じる精神的苦痛に対するものです。
また、慰謝料は「夫から妻に払うもの」というイメージがあるかもしれませんが、浮気・不倫などの行為や離婚自体によって精神的苦痛を与えたのが妻のほうであれば、妻から夫に対して慰謝料を払うケースも当然あります。
慰謝料がもらえないケース
性格の不一致で離婚する場合
平成29年度の司法統計によると、すべての家庭裁判所の婚姻関係事件の申立ての動機として最も多かったのは「性格が合わない」でした※。
離婚の原因として多い性格の不一致は、夫か妻のどちらか一方だけが悪いものではありません。このため通常は慰謝料を請求することはできません。
配偶者の家族との不仲により離婚する場合
結婚生活では、姑やきょうだいなど配偶者の家族の言動に耐えられない、これ以上関わりを持ちたくないということも出てくるでしょう。
このような事態に、配偶者の家族との不仲を「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚することは可能です。しかし、原則として慰謝料を請求することは難しいといえます。
たとえば、「夫がマザコンだったから」という理由だけでは慰謝料をもらうのは難しいでしょう。請求できるとしても、配偶者が両者の関係修復にまったく協力しなかった場合や、配偶者が家族とともに精神的苦痛を与えてきた場合などに限られます。
婚姻関係の破綻後の浮気・不倫で離婚する場合
離婚の慰謝料と聞いてまず思い浮かぶのは浮気・不倫で離婚するケースではないでしょうか。しかし、婚姻関係が破綻した後に起きた浮気・不倫を原因として離婚する場合は、慰謝料を請求することは難しいといえます。
具体的には、家庭内別居状態で話もしない状態だった、すでに別居していて交流もなかった、離婚に向けて話し合いや調停がすすんでいた、というものです。
配偶者の信仰そのものを理由に離婚する場合
日本国憲法では基本的人権として信教の自由が認められていて、配偶者が自分と違う宗教を信仰していることだけを理由に離婚や慰謝料請求をすることは難しいです。
慰謝料がもらえる可能性があるのは、配偶者が宗教のためにお金を使って生活費を入れない、宗教のことを隠して結婚していた、など「婚姻を継続し難い重大な事由」にまで発展している場合に限られます。
離婚で慰謝料がもらえる可能性があるケース
では、慰謝料がもらえる可能性があるのはどんなケースなのでしょうか? 代表的なものを紹介します。
夫が浮気・不倫をした
夫婦関係が夫の浮気・不倫によって継続できなくなった場合、慰謝料をもらえる可能性が高いです。慰謝料の金額はさまざまな状況を考慮して決まりますが、金額が高くなる目安として次のようなケースが挙げられます。
・結婚している期間が長い場合 ・夫婦に子どもがいる場合 ・浮気/不倫相手が既婚者と知りながら夫を妻から略奪する目的で関係を持っていた場合 ・夫が「今後は浮気/不倫をしない」と約束したのに、これを破った場合 ・浮気/不倫相手との間に子どもができた場合 ・夫の浮気/不倫が原因で妻がうつ病などの大きな精神的ダメージを受けた場合夫からDV・モラハラを受けた
DV(ドメスティック・バイオレンス)は、殴る・蹴るといった身体的な暴力だけでなく、罵倒や暴言などの精神的な暴力、生活費を入れないなど経済的な暴力、避妊に協力しないなど性的な暴力も含まれます。
モラハラ(モラル・ハラスメント)は精神的な暴力のことで、支配的な言動だけでなく配偶者のことを無視するといった行動も含まれ、周囲からはよくある夫婦喧嘩と見られてしまうこともあります。
夫からDVやモラハラを受けて離婚する場合、妻や子どもが肉体的・精神的にダメージを受けた場合は慰謝料を請求できる可能性が高いです。慰謝料の金額はさまざまな状況を考慮して決まりますが、金額が高くなる目安として次のようなケースが挙げられます。
・DV/モラハラの期間が長い、頻度が多い場合 ・結婚している期間が長い場合 ・DV/モラハラを受けた側に落ち度がない、または少ない場合 ・DV/モラハラが原因で妻や子に生じたケガ、病気が重症の場合夫の行為が「悪意の遺棄」にあたる
現在の裁判実務では、やむを得ない事情や双方の合意がある場合を除き、夫婦が同居し、お互いに協力して助け合う義務を定めています。
しかし、夫が正当な理由なくこれらの義務を果たさないと「悪意の遺棄」となる可能性があり、離婚して慰謝料をもらえる可能性があります。
離婚で慰謝料がもらえる可能性を高める方法
夫に慰謝料を請求して正当な金額を受け取るためには、「証拠」に基づいた主張を行うことが大切です。証拠集めは離婚を切り出す前から計画的に行うことがおすすめです。離婚のケース別に、有効な証拠やその集め方を紹介します。
浮気・不倫の場合
夫と浮気・不倫相手のあいだに不貞行為があったことや、その悪質性を客観的に示す証拠を集めておきます。比較的入手しやすいのは、スマートフォンやパソコンに残っているメッセージやメールの履歴です。不貞行為があったことや、あったと推測できるやりとりや写真を探します。
また、夫に不倫・浮気について直接聞くときの会話を録音しておくと、不貞行為があったと認める発言を記録できる可能性があります。ホテルの領収書はラブホテルであれば証拠にできる場合があります。
DV・モラハラの場合
DV・モラハラを受けたら手帳や日記に細かく記録しておきましょう。夫の行為や発言の内容だけでなく、日時、場所などできる限り詳しく書いておきます。
暴力を振るわれた場合は、すぐに医療機関を受診して、暴力による症状であることを記載した診断書を出してもらったり、あざやケガを写真に撮って残しておいたりしましょう。
DV・モラハラ行為中や、夫が自分の言動を認める録画・録音があればこれも証拠になりますが、撮影・録音することで夫からの攻撃がエスカレートする可能性もあるので注意が必要です。
記録を破棄される恐れがあるときは、信頼できる家族や友人にメールやメッセージで送信して保管してもらう方法もあります。
悪意の遺棄の場合
生活費の振り込みが途絶えたことがわかる通帳の写しや、夫の生活実態がある場所がわかる資料(賃借契約書など)、別居が始まった時期がわかる資料などが証拠として使える可能性がありますが、悪意の遺棄を明確に証明できる証拠は見つかりづらいといえます。
夫からのメッセージやメールを振り返って、婚姻関係を破綻させる意志のある発言も探してみてください。
慰謝料以外にも離婚でお金がもらえる可能性あり
離婚に際し、夫に請求できるお金は慰謝料だけではありません。離婚後の生活でお金が心配な人は、離婚でもらえる可能性がある主なお金を知っておきましょう。
財産分与
婚姻生活中に夫婦が協力して築いた財産は、離婚時に「財産分与」として清算・分配することになっています。
原則として、2分の1の割合でわけますが、慰謝料を払わない代わりに妻への分配を多くしたり、妻が専業主婦の場合に離婚後に妻の生活が苦しくなることを考慮して増額したりすることもあります。
養育費
子どもを育てる場合、子どもの生活費、教育費、医療費などに充てる養育費を相手に請求することができます。養育費の金額を決める場合、「養育費・婚姻費用算定表」がひとつの基準になります。
「離婚後」でも慰謝料を請求できる可能性はあるが…
慰謝料は離婚後でも請求できる可能性がありますが、離婚後に相手の浮気・不倫に気づき3年以上経過してから慰謝料請求を思い立った場合や、慰謝料請求を放棄する離婚協議書を作成した場合などは諦めないといけません。証拠集めも難しくなるでしょう。
離婚で慰謝料をもらいたいと思ったら、離婚前から計画的に準備することが大切です。 「なにから始めればいいかわからない」「これといった証拠が集まらない」とお困りの方は、離婚問題に強い弁護士まで気軽にご相談ください。
<参考>
※ 司法統計家事事件編・平成29年度婚姻関係事件数申立ての動機別申立人別全家庭裁判所 https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/024/010024.pdf
白谷 英恵
Authense法律事務所
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