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「妻の不妊」を理由に離婚できますか? 子どもを待ち望んでいたのに…慰謝料も請求したいです【弁護士が解説】

まいどなニュース / 2024年5月19日 19時35分

妻の不妊を理由に離婚できるのでしょうか ※画像はイメージです(polkadot/stock.adobe.com)

妻の不妊を理由に離婚を考える夫がいます。子どもができないことや妊活に積極的ではないことを理由に離婚できるのでしょうか。また、子どもを待ち望んでいたのに、つらい思いをしたことから、慰謝料の請求も考えているようです。そのようなことは可能でしょうか。弁護士が解説します。あわせて離婚以外の道がないのかも考えてみましょう。

妻の不妊が理由で離婚したい…

結婚して子どもを待ち望んでいた夫にとって、妻が不妊だとわかったとき、ショックを受けるのも当然でしょう。「子どもが生まれることを前提に結婚したのに」と裏切られたような気分になる人や結婚を後悔する人もいるかもしれません。また、両親から「子どもができない嫁とは別れなさい」と迫られることもあります。

不妊を理由に妻と離婚することはできるのでしょうか。また、不妊症で子どもを産めないことや、不妊治療などを含む妊活に積極的ではなかったことを理由に、慰謝料の請求はできるのでしょうか。不妊と離婚をめぐる問題について解説します。

妻の不妊を理由に離婚できる?

妻の不妊を理由に離婚できるケースとはどのような場合でしょうか。離婚できるケースを、離婚までの手続きとともに紹介します。

▽妻と合意できれば離婚も可能

離婚は基本的に、夫婦の双方が合意すれば可能です。話し合いでは、財産分与や親権、養育費、慰謝料などの条件などについても話し合われます。このように、話し合いで離婚することを協議離婚といいます。離婚で最も多いのが協議離婚で、離婚の理由を問われることもありません。

ただ、妻が「離婚はしたくない。子どもがいなくても別れたくない」などと言った場合は、すぐには離婚できません。また、離婚には応じるものの、財産分与などの条件をめぐって話し合いがつかないこともあります。そのときは離婚を求めて話し合いを続けるか、法的な手続きに基づいて離婚を求めていくしかありません。

▽離婚の合意を得られないときは調停という手も

妻が離婚に反対したり、離婚には同意してもらえても条件で折り合えなかったりした場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。調停とは裁判所の調停委員を介した話し合いで、調停委員が双方の意見を聞き、言い分を整理して合意を目指します。しかし、合意できる見込みがないときは調停不調として打ち切られてしまいます。

調停が打ち切られると、再び妻との間で協議離婚を目指して話し合うか、離婚裁判を起こして裁判所に離婚を求めることになります。裁判で認められれば、相手の合意がなくても離婚が可能です。ただし、離婚裁判を起こすには離婚調停を行うことが前提で、離婚調停を行わずに裁判はできません。

▽事情によっては離婚できることも

離婚裁判では証拠に基づいて離婚を認めるべきかどうかが審理されますが、民法で定められた「離婚事由」があり、夫婦関係の修復が困難だと裁判所が判断すれば、離婚が認められます。離婚事由とは、次の5つの事情です。

・配偶者が浮気や不倫(不貞行為)をした
・一方的な別居や生活費の未払いなど配偶者の悪意で遺棄された(悪意の遺棄)
・配偶者の生死が不明で3年以上経つ
・配偶者が重症の精神病で治る見込みがない
・婚姻を継続しがたい重大な事由がある

ただ、「妻の不妊で子どもができない」「妻が妊活に非協力的だ」という理由は、離婚事由には含まれません。おそらく裁判で離婚の理由があるとは認められないでしょう。裁判で離婚が認められるには、不妊以外の事情や理由が必要になります。

たとえば、夫が不妊治療を勧めたり、妊活への協力を求めたりすると、逆上して暴力を振るうといったケースであれば、暴力を理由に離婚が認められる可能性があります。いずれにしても、婚姻関係が破綻して回復の見込みがない認められなければ、離婚は認められません。

妻の不妊を理由に慰謝料請求は可能?

妻の不妊や妊活に非協力的なことなどを理由に、妻に慰謝料を請求することは可能なのでしょうか。妻に慰謝料請求が可能なケースや慰謝料請求を検討する場合のポイントについて解説します。

▽妻の不妊を理由に慰謝料の請求は難しい

子どもの誕生を心待ちにしていた夫にとって、妻の不妊は妻の裏切りにも感じられることがあるでしょう。両親から「子どもを産めない嫁とは別れなさい」と迫られて精神的に追い込まれ、被害者意識を持ってしまうこともあります。しかし「妻の不妊で子どもができない」「妻が不妊治療に非協力的で、子どもが望めない」という理由では、基本的に慰謝料請求はできません。

慰謝料の請求が認められるのは、法律に違反するひどい行為で精神的な苦痛を負ったときです。単に「子どもができなくてつらい」というだけでは認められません。そもそも、妻が不妊症だとしても、妻本人の責任ではありませんし、不妊治療をうけるかどうかは本人の自由です。妻に落ち度があるとは言えません。

もちろん、不妊治療を拒否して、夫に暴力を振るったり、一方的に家を出て行ったりしたときは、慰謝料を請求できる可能性があります。また、不妊治療に非協力的な理由が、浮気や不倫だった場合も、当然ながら慰謝料を請求できる可能性が高いでしょう。

▽妻に不妊の原因があった場合は請求が可能?

妻に不妊の原因があると明確になったとしても、妻には責任はなく、慰謝料の請求は認められません。ただし、結婚前から不妊症であることがわかっていて、夫が子どもを望んでいることを知りながら、不妊の事実を隠して結婚していた場合は、「だまして結婚した」という夫の訴えが認められ、慰謝料の支払いを命じられる可能性があります。

一方、妻が不妊だからといって、出産が望めそうな女性と浮気や不倫をする男性もいますが、妻が不妊であっても「不貞行為」を正当化することはできません。この場合は、おそらく妻からの慰謝料請求が認められるでしょう。

▽妊活に非協力的な妻への慰謝料請求は?

不妊治療をはじめ、排卵日に合わせて性行為をするなど、妊娠しやすい環境を整えることを妊活と呼びますが、妊活に非協力的なことを理由に慰謝料請求を考える人もいます。しかし、妊活に取り組むかどうかは妻の自由ですから、不法行為とはいえず、慰謝料請求はできません。

しかし、妊活を求める夫に暴力を振るったり、暴言を吐いたり、長期間セックスを拒否したりした場合は、不法行為と認められて慰謝料請求が認められるかもしれません。一方、夫が妊活を強要したり、暴力を振るったりすると、逆に慰謝料を請求される恐れがあります。

不妊の原因は男性側にある場合も

子どもがなかなか生まれない場合、「子どもが生まれないのは女性側に原因がある」と考えられがちですが、実際には男性側に原因がある場合や、原因がよくわからないケースもあります。医学的な不妊の原因について説明します。

▽女性に原因がある場合

女性の不妊症の原因にも、さまざまな種類があります。排卵が起こりにくい「排卵障害」や卵管がつまったり狭くなったりする「卵管因子」、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどの「子宮因子」、子宮頸管を精子が通りにくい「頸管因子」、免疫の異常で精子を攻撃してしまう「免疫因子」と大きく5つに分けられます。

このうち、排卵障害と卵管の異常が原因となることが多いようです。排卵障害は月経周期が不規則で、基礎体温を測っても特徴が現れにくくなります。原因としては、ホルモンの異常のほか、精神的ストレス、過剰なダイエットも関係すると言われます。

また、クラジミア感染症によって卵管がつまったり卵管周囲が癒着したりすることによって卵管因子による不妊になることがあります。卵管周囲の癒着は、虫垂炎など骨盤周辺の手術の影響で起こることもあります。

▽男性に原因がある場合

男性側の不妊の原因としては、精子の数や運動量に問題のある「造精機能障害」や、性器が勃起しないなどの「性機能障害」、精子の通り道が詰まっている「精路通過障害」があります。多いのは造精機能障害で、女性の排卵障害と卵管因子と合わせて、不妊の三大原因と呼ばれます。

精子は、精巣で作られ精巣上体を通り抜ける間に成熟しますが、造精機能障害の人は、精巣での精子形成や精巣上体での成熟過程に問題があります。おたふく風邪による精巣炎が原因の一つとして知られていますが、多くの場合、原因は不明です。

▽原因がわからないことも

夫婦のどちらにも不妊の原因となる異常が見つからないのに、妊娠しないケースがあり、これを「機能性不妊」といいます。日本産婦人科医会によると、不妊治療のためクリニックを訪れる夫婦の10〜30%が原因不明の機能性不妊だそうです。

機能性不妊は高齢の夫婦に多くみられる傾向があり、加齢によって精子や卵子の機能が衰えたり消失したりしているのが原因の一つだと考えられています。

妻の不妊を理由に離婚を決断する前に

妻が不妊だとわかり、離婚を考える夫もいるようですが、子どもを産み育てることだけが、夫婦の幸せだとは限りません。妻と離婚したものの、妻との生活が忘れられず後悔する人もいます。離婚することが本当に正しい選択なのか、離婚を決断する前に、考えておきたいポイントを紹介します。

▽養子縁組を検討する

自分と血がつながった子どもが生まれなくても、養子を受け入れて子どもを育てる方法があります。養親と養子の間に法律上の親子関係を作る制度を養子縁組といいます。養子縁組には、生みの親との親子関係を終了させない普通養子縁組と、生みの親との親子関係を終了させ、戸籍上も実子記載される特別養子縁組があります。

普通養子縁組の場合は、戸籍に「養子(養女)」と記載され、実の親の名前も記載されます。養親と養子の合意があれば、実の親との復縁も可能です。特別養子縁組は、事情があって親が育てられない子どもを引き取る制度で、実の親子として扱われます。このように血のつながりにこだわらなければ、養子縁組で子どもを育てることができます。

▽里親制度を検討する

子どもを育てるのであれば、里親制度を利用するのも一つの方法です。里親とは、親の元で生活できない子どもを一時的に預かって育てる制度で、事情や目的によっていくつか種類が分かれています。一般的に里親と言った場合、「養育里親」を指しますが、里親の期間が長くなると養子縁組をするケースもあります。養子縁組を前提とした「養子縁組里親」もあります。

里親になると、里親手当や養育費などが自治体から支給されます。ただし、だれでも里親になれるわけではありません。児童相談所等で研修を受けたうえで、児童相談所の家庭訪問・調査を受け、里親として登録する必要があります。

▽2人きりの結婚生活を考えてみる

子どもが生まれなくても、幸せに暮らしている夫婦は数多くいます。2人で幸せに暮らす道はないか、一度考えてみましょう。確かに、子どもが生まれたら、にぎやかで楽しい生活が待っているかもしれません。しかし、病気の心配や教育についての悩みもあり、楽しいことばかりとは限りません。子どものために何かを我慢しなければならないこともあるでしょう。

子どものために費やすはずだった時間とお金を、自分たちの幸せに使うという考え方もできます。ほかの子どもたちの幸せのために、何かをしてみてもいいでしょう。養子縁組をしたり、里親になったりするのもその一つです。不妊という2人の問題を、どう解決していくか、離婚以外の選択はないのか、よく話し合ってみましょう。

妻の不妊で離婚を考えたときは、専門家に相談を

自分と血のつながった子どもの誕生を心待ちにしていたのに、妻の不妊がわかりショックを受ける夫もいるでしょう。不妊治療に非協力的な妻に「ひどい裏切りだ」と感じる人もいるかもしれません。しかし、不妊は妻の責任ではありませんし、不妊治療は体への負担も大きく、治療を受けるかどうかは本人の自由です。

子どもが生まれることは、夫婦にとって大きな喜びですが、夫婦の幸せはそれだけではありません。夫婦でこれからの生活や、将来についてよく話し合ってみましょう。もし、落ち着いて話ができないときは、夫婦関係について詳しいカウンセラーに夫婦で相談してみてもいいでしょう。きっと、2人の将来について考えるための良いアドバイスが得られるはずです。

◆稻川 静(いながわ・しずか) 弁護士・法律事務所UNSEEN(第二東京弁護士会所属)/リコ活専門家
「目に見えないものを大切にする」という理念を掲げる法律事務所UNSEENにパートナー弁護士として参画。コーチングスクールCTIでコーチングを学び認定資格CPCCを取得しており、傾聴を大事にし、離婚という場面でクライアントが本当の願いから自分の人生を選択できるよう、弁護士としてだけでなく持てるリソースを全て使って伴走する。女性探偵と男女関係にまつわるコラボセミナーを継続開催中。

(まいどなニュース/リコ活)

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