ミスタービーンから教えられた。仮面ライダーウィザード。
インフォシーク / 2013年5月21日 17時30分
野球のユニフォームを着た人が野球をしても驚かない。料理人の服装をした人が料理をしても驚かないし、詐欺師の服装をした人が詐欺をしても…まぁ、やっぱり驚かない。
そんなことを考えてしまったのは、あるドラマを見たからである。と書いてもいつもの展開なのだが、仮面ライダーウィザードである。5月18日放映の第36話だ。
いや、仮面ライダーの服装をしたものがライダーキックをしても驚かないよねなどと書きたいわけではなくて、今回は今まであえて無視をしてきた仮面ライダーウィザードの、ときどき漂う、なんともいえない、空気感のようなものにスポットを当ててしまうのである。
これを書くには、意外と勇気がいるかもしれない。
第36話は仮面ライダーウィザードとラスボスが初めて対時したり、謎が謎を呼んだりして、なかなか難しい内容であった。そうしてその中でも、ギャグを意識したシーンがいつもよりやや多めに散りばめられていた。
ギャグと言っても、決して難しくはない。主に子供が見ていることもあるだろう。今回描かれていたギャグは、刑事が犯人を捕まえようとダッシュして仲間にぶつかって転んだり、警察署長が大量の胃薬を吹いて刑事の顔が粉で真っ白になったり、右の道路と左の道路から人が同時に走ってきて交差点でぶつかったり…と、まぁ、シンプルなズッコケである。
しかしそのようなギャグに対して、実は妙な空気を感じていた。あくまでときどき、である。ストレートに書くと、面白いのになぜだか笑えない、そんなときがあったのだ。
これはなんなのだろうか。とその原因を考えるに、その一つを今回しっかりと認識したように思う。
それは登場人物の服装である。
一番わかりやすいのは、奈良瞬平という登場人物の服装だ。奈良瞬平は仮面ライダーウィザードの助手をしている男性で、赤や黄や緑といったまぁとにかくドギツイ色の服ばかりを着ている慌て者ドジ純粋な人間だ。そうして彼はそのキャラクターから、ギャグの場面にはだいたい絡む役割になっているのである。
例えば彼のその派手な服装が、実は笑いにブレーキをかけているかもしれない、ということだ。
1990年代の後半、私はローワン・アトキンソンがコメディについて説明しているビデオを見た。ローワン・アトキンソンとは、あのミスタービーンを演じる俳優である。ビデオの中でアトキンソンは、「どのようなことが起きると、日常がコメディになるのか」というようなことをロジカルに語っているのだが、その中でコメディにおける服装についても語っていた。
ローワン・アトキンソン曰く、コメディをするには「現実離れした服は着ないこと」も重要である、というのだ。つまり、面白い服装をした人が面白いことをしても予想外でもなんでもない。想像の範疇なのである。言われてみればミスタービーンはおかしな人だが、確かに服装はそこまでおかしくない。せいぜいズボンが短くて、ネクタイの結び目が小さいかな、という絶妙なバランスがあるくらいである。
この絶妙なバランスがコメディなのである。
この法則からいくと、奈良瞬平の服装は派手すぎる。見ている者は彼の服装を見て、おおよそ突拍子もないことをするであろうなと察してしまうので、彼がしっかりと面白いことをしても特に私においてはときどき笑えないときがあるのではないだろうか。
ということは彼が服装を変えればいいのか。という問題になるが(そういう考え方もあるにはあるが)、しかし派手な服装をしていてもきっぱりと面白い人もいる。例えばピエロはすごいのである。あんなに派手な格好をして誰もが面白いことをする人物と認識しているのに、きっちりと笑わせてくるのである。プロだ。そういう意味ではバカ殿などもそうなのかもしれない。思い出せばダウンタウンのコントにも、そのような突拍子のない格好のキャラクターがいくつかいたように思う。
つまり、あえて派手な服装をした者は、服装の派手さを意識させないくらいに凌駕した面白さを提供する宿命を背負うのである。
奈良瞬平役の戸塚純貴は、実に演技において、周囲の俳優よりもかなり高いハードルと闘っていたのである。これに気がついた途端、私は彼がすこぶる好きになってしまった。彼は実に、相当に孤独に考えながら演じているのではないか。
高いステージに挑む姿は美しい。あと3ヶ月ほどで最終話がくる仮面ライダーウィザード。その中で実は高いハードルに挑んでいた若き俳優・戸塚純貴、ラストスパート、ぜひがんばってほしい。
1973年1月生まれ。芸術家。ライター。芸術活動のかたわら、仲間と協力してゆるゆる映画応援サイト「ガッケンターサイト」の運営や、映画監督や俳優もゲスト出演する「ガッケンターTV」(インターネット)の製作をしている。
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