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ロジカルシンキングを越えて:1.コンサルティング出身者の罪/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2018年2月19日 8時50分

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伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

前回は、ロジカルシンキングに対する問題提起をしてみました。今日はコンサルティングにおけるロジカルシンキングについて批判的に見ていきます。

ロジカルシンキングが普及したにもかかわらず、一向に上がらないビジネスパーソンの企画力という現実があるように思うということを問題提起したわけです。

私が思うに、ビジネスパーソンの企画力が上がらない状況で、人々を混乱させているのが、いわゆる一流のコンサルティング会社出身者です。最近は、事業会社の企画スタッフの多くがコンサルティング出身者になってきました。そして、さも自分はこういうふうにロジカルシンキングを学び、こういうふうに考えていますと主張しています。

彼らは自分が言っていることをまともに検証せずに、世間に「ロジカルシンキング」を流布しているように見えます。彼らはコンサルティングの中で使っている用語や概念などが全て了解できているかのように語ります。

しかし、彼らが本当にコンサルティングにおけるロジカルシンキングを了解しているか非常に眉唾だと思います。

いったいコンサルティングのロジカルシンキングの出自はなんなのか?いわゆる論理学とはつながりはあるのか?ビジネスマンに企画力をつけるには?といったことを考えていった時、それは非常に大きな確信に変わりました。

彼らは「自分たちがやっていることが何なのか?」がわかっていない。

大事なのでもう一度いいます。彼らは「ロジカルシンキング」を教えながらそれがなんなのか?がわかっていない。

一部、良心的な方々がいないとは言いません。そういった方々は、「コンサルティング実務の中でいろいろと経験をして、こういうふうなことだと思ってやっているが、定義されていない用語もそれなりにあって自分も実はよくわからない」といったことを著作の中で明らかにしています。誠意ある物言いだと思います。

しかし、そういった繊細な部分はあまり普及しません。用語だけが普及していく。「MECE」「ロジックツリー」「田の字」「イシュー」「仮説」「そら、あめ、かさ」「ピラミッドストラクチャー」いろいろな用語が誤解にまみれて広がっていきます。

コンサルティング出身者が「ロジカルシンキング」と名のつく著作を書くと、そういう著作をもとに、「ロジカルシンキングを教えます」と称する研修講師たちが「自己流の解釈で劣化した内容を教えていく」という構図が研修業界にはあるように思います。

あなたがロジカルシンキングを教えられるのはなぜですか?というのは、本をちゃんと読んだから、コンサルタントの研修を受けたから、というような方々が増加し、世間にはますますわけのわからないロジカルシンキングが普及するという悪循環が成立しているのではないでしょうか?本当に自分で成果あるビジネスプランニングをしたことがあるんですか?とは聞けないですよね。

そもそも、コンサルティング会社の中で、ワークプランをかっちりやって、ロジックツリー、MECEをしっかりやりましょうということになったのは、コンサルティングの歴史の中でも、ごく最近のことです。年代で言うとは1990年代半ば以降のことなのです。

それまでは、クリエイティブな職人のような人々がコンサルティングをやって、なんとなくできてしまう人は残り、できない人は去っていくという風潮の中にありました。

この時代に活躍していたコンサルタントがもしもMECEという言葉を聞いたら、「なんだそれは?」と言うでしょうし、MECEの概念を聞けば、「頭が悪いコンサルタントが増えたのだろうか?」と思うことでしょう。

しかし、そういった環境の中で、チャート作りの下働きの人員を増やし、下働きをする人々のクオリティの均質化を図った大手のファームがありました。

そのファームは、それほど教育が必要でない優秀な人間を採用し、その人間の考えていることを吐き出させるために、ロジカルシンキングツールを開発しました。

それが、今では誰でも知っている感のあるMECE、ロジックツリー、「そら、あめ、かさ」と言われるようなツールであると思います。

そのファームの中でも、「マネジャーになるなら一旦MECEを捨てて考えられるようにならなければならない」という教えもあります。どういうことかというと、マネジャーになると、ある程度企画の根本部分をやるようになってくる。そうすると、その部分をやっていくには、いわゆるロジカルシンキングツールでは対応できない、ということなのでしょう。

下働きをやっているジュニアのコンサルタントは、「なぜ俺たちはこんなにたくさんのチャートをロジカルに作っているのに、給料が低いんだ!搾取されている!」と思いがちです。(低いとは言っても、短年の年俸でいえばそれなりです。彼らの比較対象はマネジャークラスであり、外資金融の友人たちですね)確かに、夜通しでひたすらデータを集めたり検証したりをやっていると、そう思ってしまうでしょう。

彼らはコンサルティングの価値の源泉はチャートにあると思ってしまいがちな環境の中にいるのです。

しかし、マネジャーの側から見ると、下働きのコンサルタントの価値は低い。「クライアントの課題解決」がコンサルティングの価値ですから、チャートがあろうとあるまいと、クライアントが解決に向けて動き、アクションを実行し、課題が解決することが重要です。それがコンサルティングの価値です。

今では少なくなりましたが、チャートをほとんど作らないでプロジェクトを動かすマネジャー、パートナーもいます。企業課題が解決すれば、チャートがあろうとなかろうと、ロジカルだろうとそうでなかろうとどうでもいい、というスタンスです。ロジックはあくまでバリューを出す手段の1つであって全てではないのです。

ただ、こういったことは一般に普及しません。こういった知識も書籍の類ではほとんど語られません。正しいことを語ったとして損をするだけですからね。人々の幻想を打ち壊し、研修商売をしている人々の商売を悪くいい、邪魔をしたところで得にはなりませんから。

今ではロジカルシンキング本を出している方々は、マネジャーまでいかなかったような方々、コンサルティングの本当の実務を知らないような方々も多い状況となってしまっているというのも一因ではないかと思います。仕事が取れないコンサルタント、リピートでご指名で仕事がもらえないコンサルタントにどんな価値があるのかは知りません。

生きていくためには仕方のないことなのでしょう。大手ファーム出身であれば、サラリーマンとして事業会社で生きていけますからね。

とある大手ファームで、当時最年少でマネジャーになったコンサルタントは、事業会社でロジカルシンキング等を教える機会があると言っていました。「まるで英会話学校の講師みたいな気分だよ。本当に英語を教えるということを極めようとする人間は英会話の先生に甘んじてたらいけないはずなんだけどね。」と。

ビジネスに「儲けたもの勝ち、言ったもの勝ち」な面があることは否定しません。貨幣と商品の交換が起こることが、社会を成り立たせます。ブームに乗り、多数の交換が起こり、その結果として儲かればそれはそれでいいでしょう。

しかし、教育に携わる場合、ビジネスマンの企画力を上げ、日本に投資機会を作り出すこと、この危機的状況を打破することに貢献するという思いが、志としてあるべきであると私は考えます。

そういった志なき人々はそもそも教育に携わるべきではないと思うのです。彼らが今後、どういった考えで研修ビジネスをやっていくのかは知りませんが、能力があるのであれば、ビジネスマンの企画力向上、日本への活力の注入、そういったところに向かうべきではないでしょうか。

だいぶ、口が悪くなってしまいましたね。ただ、ロジカルということにこだわったところで、企画力という成果には結びつかないということを語るために、社会的評価の高いコンサルティング出身の方々をディスってみました。ご気分を害されたら申し訳ありません。

次回はコンサルティングにおけるロジカルシンキングの出自について見ていこうと思います。

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