朝鮮戦争から生まれた「主体思想」 金王朝解体新書その6
Japan In-depth / 2017年6月27日 23時0分
「政治的・経済的・軍事的に米国の大きな影響下にある統一朝鮮」
が出現するのを嫌ったためである。
読者ご賢察の通り、現在に至るもこの論理でもって、中国は北朝鮮の命脈を絶つことまではしないだろうと考えられているわけだが、1950年代には、より深刻に受け取られていた。
と言うのは、中国と朝鮮半島の国境線はかなり長く、その国境地帯から東北部一帯には、朝鮮族の人々が数多く生活している。台湾の国民政府も「大陸反攻」を唱えており、東北部が一挙に不安定になった場合、北京は南北から挟撃されかねない、と考えられたのだ。
その後の平和共存路線に対しても、中国の態度は冷淡であった。
要は冷戦構造の固定化で、すなわち「ふたつの中国」を是認するものだというわけである。
これがその後の中ソ論争、さらに中国共産党の内部においては、フルシチョフ路線を支持する実務派と、毛沢東らの間で対立が深まり、ついには文化大革命という大規模かつ過激な権力闘争に発展する。
一方キム・イルソンだが、この戦争の顛末から、ソ連を頼りにしたのは誤りだった、と考えるようになったらしい。
休戦成立以降、チュチェ(主体)思想という、よく言えば独自の一国社会主義、客観的に見れば大時代な鎖国政策を提唱するのである。
たしかにスターリンは、国連軍がピョンヤンを占領した時点で、北朝鮮による「南進統一」を支持したのは誤りだったと認め、朝鮮労働党はひとまず北京にでも「亡命政府」を作って他日を期すのがよい、との構想まで披露したと伝えられる。
その後、1970年代にキム・イルソンがモスクワを訪問した際、クレムリンの党官僚たちは、彼のロシア語と軍事知識に感嘆した、という話もある。
もともと彼は赤軍大尉だったわけだから(シリーズ第1回を参照)当然だが、ここで注目すべきは、1970年代のクレムリンにおいては、キム・イルソンを詳しく知る人物などいなくなっていた、ということである。
そのようなソ連だったが、キム・イルソンの後継者として長男のキム・ジョンイル(金正日)の名が浮上した時は、不快感を隠そうともしなかった。社会主義国で権力の世襲とは、なにを考えているのだ、というわけだ。
言われてみれば、スターリンはナチス・ドイツ相手の「大祖国戦争」において、毛沢東はすでに述べた朝鮮戦争における義勇軍派遣に際して、いずれも息子を一兵卒として従軍させている。
ご承知のように冷戦は1989年に終結し、1991年にはソ連が崩壊するのだが、ちょうどその時期から、北朝鮮においては、権力の世襲が具体的な準備段階に入ったのである(キム・イルソンは1994年に死去)。
しかしながらキム・イルソンも、3代世襲までは考えていなかった、とも伝えられる。
次回は、その話を。
(本記事は、その1、その2、その3、その4、その5の続き。その7に続く)
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