離脱派が伸長した理由・有権者編 今さら聞けないブレグジット その9
Japan In-depth / 2019年8月31日 18時0分
もちろんヨーロッパ大陸の加盟国も、単一市場によって大きなメリットを得た。前回・前々回と共通通貨ユーロについて説明させていただいたが、市場統合から通家統合まで実現したことにより、EUの経済が一段とダイナミックになったことは事実だ。
▲写真 ユーロ 出典:Pexel
しかしながら、そのメリットを享受できたのは、もっぱら国境を越えた経済活動を続けてきた大企業や、カネがカネを生むという信念を持てるような投資家たちで、働く者が得た利益は微々たるものだったのである。
いや、雇用の増大ということを考えれば、微々たるものという表現は当たらないかも知れない。だが、その場合もやはり、
「外国から流れ込んできた移民労働者に職を奪われたのでは、元も子もないではないか」という問題が残る。
これは決して、もののたとえではない。単一市場とは、経済活動から国境を取り除き(具体的には関税の撤廃など)、人、物、資金が自由に移動できるようにしようというものであり、ヨーロッパ統合のバックボーンと言うべきローマ条約(1957年に調印、翌58年の元旦より発効)において、労働者の移動の自由は保障されている。
個人事業主にせよ、EUの様々な規制やルールを押しつけられ、困惑したり、時と場合で激怒することが珍しくなかった。たとえば八百屋では、ポテトやトマトを1山ならぬ1ポンド(約450グラム)いくらで売ると、行政指導を受ける場合すらある。飲食物の重さや容量は、すべてメートル法で表記しなければならない、とするEUの規定があるからだが、英国では伝統的なポンド・ヤード法にこだわる人が多いのだ。
地方都市のある八百屋が、米国人ジャーナリストに対して、「それじゃあ、マクドナルドの〈クォーター・パウンダー〉はどうなるんだ。あれは〈113グラマー〉にしなくていいのか?」と憤懣をぶちまけた、との記事を読んだこともある。牛乳など、スーパーでは1リットル入りの紙パックが主流になっているが、やはり伝統的な、宅配の牛乳はすべて1パイント(約568ml)入りの瓶である。
またまた前述の日本人男性の発言を引き合いに出すと、伝統的なやり方を変えるよう「大陸の人たちに決められてしまう」ことは、英国ではもはや生活実感とさえ言えるのだ。
移民の問題にせよ、人種差別的な動きは論外であるとしても、生活者の目線で〈英国人の身になってみれば……〉と言いたくなる面は、たしかにある。
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