米H-1Bビザ発給緩和化の動き
Japan In-depth / 2021年9月13日 12時30分
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・米国のH-1Bビザの発給が緩和される動きがある。
・トランプ政権下では却下率が高まり、抽選方式を撤廃する話も。
・カナダでのIT人材の育成の活発化に、米国も加担している。
バイデン政権は、米国のH-1Bビザと呼ばれる高度な特殊技能者を対象とした就労ビザ発給に関し、米国商工会議所などの要請を受け、緩和の動きを見せている。米国移民局(USCIS=US Citizenship and Immigration)は7月末に、10月から始まる2022会計年度の同ビザ枠充足へ申請者に対する2度目の抽選実施を決めた。
H-1Bビザの創設は1990年。別名「ハイテク・ビザ」といわれる。その時期は、ビル・クリント大統領とアル・ゴア副大統領という民主党の若手コンビが「情報スーパーハイウエー」構想を打ち出し、その後のインターネット普及が急速に進んだ時期と重なる。米国がITを活用した社会・経済改革の進展に伴うIT技術者不足に対応して設けた外国人就労ビザだ。このビザの有効期間は3‐6年。頑張れば、グリーンカード(永住権)の取得が可能な就労期間を得られる。頑張り組みの中から、ベンチャーを興し成功した例も多い。H-1Bビザは米国での成功のステップにもなった。
H-1Bビザの年間枠は6万5000件。ただし、米国が自由貿易協定を締結しているチリとシンガポールの国籍を有する申請者に6800件の枠が割り当てられている。このため、日本人を含む他の国籍の申請者に対する年間枠は5万8200件だ。米国の大学で修士号以上の学位取得者には、さらに2万の別枠がある(図1参照)。取得者のほとんどはIT技術者やエンジニアで、その70%程度がインド人、10%程度が中国人(2018会計年度)。マイクロソフト、アップル、グーグル、フェイスブック、アマゾン、インテルなどの大手技術企業などはこのH-1Bビザ制度を活用している。
トランプ大統領は就任当初からこうしたビザを問題視。トランプ政権下では、H-1Bビザの新規申請、更新申請とも却下率は高まり、2019会計年度には4件中1件は却下されたほどだったという。同政権は「50万人以上にのぼるH-1Bビザ保持者が、米国市民の職を奪った」とし、2020年秋にH-1Bビザの発給要件厳格化を打ち出した。USCISは1月8日の官報で、H-1Bビザの選考方法を従来の抽選から賃金を基に優先順位をつける方式にする旨公表した。
[caption id="attachment_61836" align="alignnone" width="624"] 画像)2017年4月18日、H-1Bビザの刷新に関する大統領命令にサインしたトランプ大統領(当時)
出典)Photo by Scott Olson/Getty Images[/caption]
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