文在寅利用で危機脱出狙う金正恩
Japan In-depth / 2021年10月4日 23時0分
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・金正恩氏は9月29日の施政演説で、文在寅政権に「南北首脳会談ショー」の餌をちらつかせた。
・金正恩体制は危機に瀕している。
・体制維持のため、韓米の離間・韓国からの経済支援・韓国左派従北政権再創出を狙う。
北朝鮮は9月に入って各種ミサイル発射を繰り返す一方で、9月28日から14期5回最高人民会議を開催した。2日目会議では金正恩国務委員長が施政演説を行い、当面の国内課題ならびに対韓国、対米方針を明らかにした。対韓国部分は演説の20%に及んだが、内容は、表現こそ違え24、25日の金与正談話とほとんど変わらなかった。
1、金正恩の破廉恥で狡猾な対韓国演説
この演説で金正恩は、「南朝鮮は北朝鮮の挑発を抑止しなければならないという妄想と甚だしい危機意識、被害意識から早く脱しなければならない」と北朝鮮の挑発に対する韓国の抑止行動を、「妄想」「被害意識」などとする恥知らずな「転倒黒白」の主張を行い、韓国国民を愚弄した。
そして文在寅大統領が国連で演説した「終戦宣言」を取りあげ、「南朝鮮が提案した終戦宣言問題を論じるなら、北南間の不信と対決の火種となっている要因(注:韓米合同軍事演習や駐韓米軍の戦略武器配置など)をなくせと迫り、「梗塞している現在の北南関係が一日も早く回復され、朝鮮半島に恒久平和が訪れることを望む全民族の期待と念願を実現するための努力の一環としていったん10月初めから関係悪化で断絶させた北南通信連絡線を再び復元する」と、たいそうな贈り物でもするかのように南北通信連絡線の開通を通告し、それが南北首脳会談につながるかのように匂わせる餌を投げた。
2、金正恩演説の背景と狙い
金正恩が今回の演説で文在寅政権にアメをちらつかせる行動に出た背景には、金正恩体制の危機の深まりと、韓国での次期大統領選挙が迫っていることがある。
背景①―限界に近づく北朝鮮エリート層と住民の不満
北朝鮮では現在、体制を支える軍までも、食糧不足などで金正恩への不満をつのらせている。そうしたことから金正恩は最近、命令に従わなかった最側近のリ・ビョンチョル(李炳哲=政治局常務委員兼党中央軍事委員会副委員長)系列を排除し、お気に入りのパク・チョンチョン(朴正天)総参謀長を政治局常務委員に昇格させ、軍指揮系統を一新した。しかし、軍内部の不満はくすぶったままだ。
国政も思い通り進まず国務委員会の委員も総入れ替えした。今回の14期5回最高人民会議で、李炳哲、金才龍、李萬建、金衡俊、金秀吉、金正官、キム・ジョンホ、崔善姫らの国務委員をすべて解任し、金徳訓、趙甬元、朴正天、呉秀容、李永吉、張正男、金成男、金與正らの側近で国務委員会を固めた。この人事は権力中枢がいかに不安定かを示すものである。
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