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要介護者も共同住宅で住み続ける。相馬井戸端長屋の10年から見えてきた多様な高齢者の受け皿としての可能性

Japan In-depth / 2023年12月8日 14時0分

要介護者も共同住宅で住み続ける。相馬井戸端長屋の10年から見えてきた多様な高齢者の受け皿としての可能性




齋藤宏章(相馬中央病院内科医師)





【まとめ】





・入居者同士の共助をコンセプトとして設立された公営住宅「相馬井戸端長屋」。





・多くの人が長く居住を継続できているのはこの取り組みの持続可能性を示す。





・土地勘のある場所で生涯を送るということの価値の重要さを痛感する。





 





私は2022年7月より福島県相馬市、相馬中央病院で内科医として勤務しています。今回はこの相馬地域で震災後に立ち上げられた、災害公営住宅「相馬井戸端長屋」に関する研究結果を紹介させてください。





●震災後に相馬地区で設立された公営住宅「井戸端長屋」





ご存知のように、東日本大震災では相馬市を含む福島県浜通りは地震、津波、その後の福島第一原子力発電所事故によって大きな影響を受けました。長期的な避難や環境の変化の影響を身体機能の弱い高齢者は特に受けてしまいます。相馬市は震災以前から高齢化率の高い地域の一つであり、2010年にすでに高齢化率25.3%となっていました。震災後、相馬市では2000人以上が仮設住宅に避難しました。長期的な避難生活が予想されたため、このような人の中には、県外や別の地域に移住や働きに出た人もいます。





困るのは高齢者です。家族と共に、新しい住居に移住した人もいましたが、もともと家族が近くに住んでいないような独居の方、家族は移住しても本人は生まれ育った相馬市に留まりたいと残った人など、多くの孤立した高齢者がいました。これらの孤立してしまう高齢者が長期的に身体力や生活力を落とさないように暮らしていけるようにと設計、設立されたのが「相馬井戸端長屋」です。長屋は、入居者同士が共助して生活を支え合っていくということをコンセプトとして設立された公営住宅です。「井戸端会議」をするような環境を、ということで相馬井戸端長屋と銘打たれています。





長屋では個々人の個室に加え、共同風呂、共用の洗濯機が用意され、昼食宅配(外部業者が毎日弁当を配達)、保健所の看護師が1~2カ月に1度、住民の健康状態をチェック、買い物目的で近隣の商業施設までバスで定期的に送迎などの取り組みが行われています。また、各長屋は住民から代表者を選出し、長屋の住民の様子を把握したり、保健センター、市役所との連絡係を担ったりしています。





このように色々と環境が整えられてはいますが、あくまで居住されている人たちが自立して生活することが前提にされているため、常駐の医療従事者や特別な医療サービスは提供されないという点がミソです。また、入居中に身体能力が落ちて行っても、訪問介護等のサービスも利用しやすいようなバリアフリーの構造と部屋の作りも配慮されています。災害公営住宅は各地にありますが、このような先駆的な取り組みは他に例がなく、私たちの研究チームからもこれまでいくつかの英文論文として、報告してきました。





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