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三菱の「4WD」何がスゴイ? “スーパーセレクト4WD”に「AYC」? 他メーカーとは違う「三菱の取り組み」とは

くるまのニュース / 2024年5月13日 19時40分

2023年7月26日に、約9年ぶりのフルモデルチェンジを果たした新型「トライトン」。同車の持ち味は高い走破性を誇る“4WD”ですが、三菱は4WDに対し、どのように取り組んできたのでしょうか。解説します。

■戦前から続く4WDの歴史

 三菱といえば、「パジェロ」や先日デビューした新型「トライトン」に代表される四輪駆動(4WD)による高い悪路走破性を備えたクルマとともに、「ランサーエボリューション」や「エクリプスクロス」、「アウトランダー」といった乗用車系やSUVにおいても、一般路での高い安定性や旋回性能の高さを4WD技術によって実現したクルマが思いつきます。
 
 三菱はなぜ、こうした4WD技術に強くこだわるのでしょう。歴史をさかのぼりながらその強みを探ってみましょう。

 三菱が初めて自動車を手掛けたのは1917年の夏に「A型」と呼ばれる試作モデル(まだ三菱自動車ではなく三菱造船カワサキ造船所)の開発が始まり、翌1918年には完成。生産を開始しているのですから欧州に引けを取らない歴史のある自動車メーカーといえるでしょう。

 さらに1935年には6輪駆動のトラック「PSF33型」を開発しただけでなく、軍用の四輪駆動車PX33型を1936年に完成させています。

 PX33型は4台の試作車が作られましたが、三菱本社筋で次期尚早との意見も多かったことから、生産には至らなかったようです。

 しかし、このころから三菱は積極的に四輪駆動車の研究と開発に力を入れていたことが史実により証明されているのです。
 
 さて、三菱は1952年にアメリカのウイリス社からパーツを輸入し組み立てる、ノックダウン方式で「シープ」の生産を開始。官公庁に納入が開始されます。

 そしてついに1953年に純国産化した「ジープ・CJ3型」が登場するのです。そうして三菱といえばジープ、三菱といえば四輪駆動車というイメージが確立していったといえるでしょう。

 なぜここまで三菱は四輪駆動車にこだわったのでしょうか。それは、どんな悪路でも安全、安心に行き来できる機動性に着目していたからです。

 特にジープにおいては戦後、アメリカ(進駐軍)が持ち込んできたクルマ達を目の当たりにし、その技術力と機動性が当時の日本車のレベルにはないもので、そこに技術者魂に火がついたともいえるかもしれません。

■モータースポーツにも積極的な三菱

 一方、三菱は1960年代からモータースポーツにも積極的に取り組んでいます。1962年には三菱「500」で第9回マカオグランプリのクラス優勝を遂げていますし、第2回日本グランプリで「コルト1000」がクラス優勝を飾っています。

 海外に目を向けても1967年には第2回オーストラリア・サザンクロスラリーで「コルト1000F」がクラス優勝を獲得。1973年にWRC(世界ラリー選手権)が制定されて以降も積極的に参戦し続け、ランサーエボリューションなどの名車を次々と生み出していきました。

 もうひとつ、三菱はパリ・ダカールラリーをはじめとした世界一過酷なラリーにも積極的に参戦。1983年に初出場したパリ・ダカールラリーでパジェロが無改造車クラスとマラソンレースで優勝、2位及び最優秀チーム賞を獲得。1985年には総合優勝を飾ります。

 トータル26回参戦し、7連勝を含む通算12勝を挙げる快挙を成し遂げているのです。

 これで見えるのは大きく2つの流れがあることです。繰り返しますが、ひとつはジープから始まり、パリ・ダカールラリーの参戦車であるパジェロなどのいわゆるクロスカントリーの系譜。そしてもうひとつはランサーエボリューションなどの乗用車系の系譜です。

■パジェロからスタートした新技術開発とは?

 ここからは先日開催された「オートモビルカウンシル2024」の会場で三菱開発フェロー博士(工学)の澤瀬 薫氏に色々お話を伺ったので、それをもとに進めていきましょう。

 クロスカントリー系で最初に注目したいのは1982年に発売した初代パジェロです。

パジェロからスタートした新技術開発って?パジェロからスタートした新技術開発って?

「当時、4WDはオフロードで仕事をするクルマでした。それを内外装だけでなく、サスペンションなどをオンロードでも快適に走れるようにという技術を搭載することで、普段使いも出来て、いざとなったら悪路も走れるように、クロスカントリーを乗用車の世界に引っ張り込んだ最初の4WDといっても過言ではないでしょう」と紹介します。

 一方でこのクルマは、それまで三菱で主流だったジープの4WDシステムをそのまま踏襲している関係上、いわゆるパートタイム四駆でした。

 つまりオンロードを走るときは二駆、オフロードで走るときは四駆に切り替えるシステムだったのです。

 その理由は高速を四駆のままで走ると、直結四駆であったために駆動系などで発熱が問題となってしまうためでした。

 しかし、当時から「運動性能に関わる四駆技術がいかに役に立つかということを考えていました。研究実験として実際にテストコースで確認すると、高速走行時も四駆にすると直進安定性が向上することが分かっていました。つまり、四駆はクルマが走る・曲がる・止まることにすごく重要な技術だと認識していましたので、三菱が4WDの研究開発にすごく力を入れ始めた、そのきっかけとなったクルマなのです」と説明。

 そうして生まれたのが2代目パジェロに搭載されたスーパーセレクト4WD(SS4)なのです。

 これはセンターデフに作動制限としてビスカスカップリングを用いたフルタイム式ながら、センターデフロック機構を備えることでトラクション性能を確保したシステムです。

 これもパリ・ダカールラリーで得た経験が役に立っています。そのラリーでは極悪路だけでなく砂漠の上を飛ぶように走るシーンも多くあるため、いちいち切り替えるのは大変です。

 さらに「高速走行時の安定性と走破性、低速時の安定性、そして旋回性能といった操縦性などクルマが思い通りに動いてくれるということが必要」というところから生まれた技術です。

 続いて3代目パジェロには「モータースポーツの世界のフィードバックで旋回性能をもっと良くしたいという思いから、センターデフに改良を加え、前後の駆動力配分を若干リア寄りにしたスーパーセレクト4WDII(SS4II)を搭載したのです」と教えてくれました。

 つまり、オフロード系で進化してきたパジェロの系譜、クロスカントリーのストーリーは、「悪路走破性の技術があったうえでの、高速安定性。しかしその世界でもしっかりとハンドル操作の通りに動きたいということで、技術が進化してきたのです」との説明でした。

■乗用車系の”走行性能”4WDとは

 もうひとつの流れ、乗用車系を見てみましょう。例えば6代目「ギャランVR-4」はビスカス付きセンターデフ4WDを採用し、運動性能を高めるために乗用車に4WDを搭載した先駆者といえます。

 同時に4WS(リアステア機構)も各国メーカーに先駆けて市販車として採用しました。こういった技術は実際にWRCで何度もトライして、技術的かつ実践の裏付けのもとに搭載されているのです。

6代目の「ギャランVR-4」のラリーカー6代目の「ギャランVR-4」のラリーカー

 澤瀬氏は、「三菱は市販車の技術開発チームとモータースポーツの開発チームがタッグを組み、常にディスカッションをしながら、もっとクルマを良くするためにはどうしたらいいかをずっとやってきたのです。その乗用車系の走りがこのVR-4に繋がっています」とのことでした。

 もう1台紹介したいのはWRCで活躍したランサーエボリューションVIです。オートモビルカウンシルにはトミ・マキネンが実際に走らせたクルマが展示されました。

 澤瀬さんはこのクルマをもとに、次のように話します。

「乗用車系の4WDシステムの進化としては、走破性も直進安定性も大事ですが、何よりWRCの世界では曲がりくねったいろんなコースを走りますので、操縦性がすごく大事です。

 そこでVR-4で採用したビスカスカップリング付きセンターデフ四駆という、メカニカルな4WDシステムから電子制御をいち早く取り入れ、このクルマではトリプルアクティブデフというフロントデフもセンターデフもリアデフも電子制御する技術を投入しました」といいます。

 その目的は「走破性、安定性、旋回性能をうまく両立することでした」。そのコンセプトを市販車ベースに落とし込んで開発したのが、アクティブヨーコントロール(AYC)になるのです。

 これは左右輪の駆動力や制動力制御により、車両の旋回性能を向上させるもの。つまりいかにコーナーを的確に、ドライバーの思い通りに曲がるかを狙ったシステムです。

 こういったシステムについて澤瀬氏は、「レースのように一発速ければいいのであれば、すごくピーキーで速いセッティングも可能ですが、ラリーの場合は何日もかけて長い距離を走るのでドライバーの疲労も蓄積されてしまいます。

 その中でいかにドライバーのイメージ通りに走ることができるかが速さにつながりますし何より安全です。ですから三菱はこの世界(ラリー)をずっとやってきたのです。そうして四駆の技術、四輪制御といったAWC(オールホイールコントロール)の技術を磨いてきたのです」と話してくれました。

■歴史を積み重ねてきた「三菱の4WD」

 こういった歴史の積み重ねが三菱の4WDの強みなのです。澤瀬氏は、「モータースポーツの経験値で四駆の物理特性、メカニズムがどういう物理法則で四輪の駆動力配分を行っているかをしっかり理解しているのが強みでしょう。

 それができないと、前後独立論(四輪それぞれにモーターを置くEVなど)になった時に、機械がやってくれていたことを、制御で作り込まなければいけなくなるので、機械がやっている物理メカニズムを理論として理解できていないと、あるいはそれが経験値としてその効果が何だということが裏付けられていないと、制御を作ろうと思っても出来ないのです」とコメントしました。

 これまでの技術と知見の蓄積が未来にもつながっているというわけです。

 最後に三菱が目指す理想の四駆とはどういうものでしょう。澤瀬さんは、「四輪全部を独立に緻密にコントロールできるようになること」といいます。

 そうなると、「四輪が常に最適な路面とタイヤの間のスリップ比を保つことができるので、多分素人でもドリフトできるんです。もちろんドリフトしたいわけではなく、ドリフトしても怖くない。つまり四輪が滑っているのに意のままに行きたい方向に行けるという技術ができるはずなんです」。これも安全に繋がる技術です。人間はエラーをする生き物です。そのエラーが起きた時にどう対処できるか。

 ドライビングスキルが高くない人でも安全快適にドライブできる。その上で、より楽しくなるとすればこんなに喜ばしいことはないでしょう。きっとこれは電動車になったとしても変わりません。

「電動で四輪独立制御になったら何の制約もなく自由自在にタイヤをコントロールできる良さがあります」と澤瀬氏。

 しかし先に述べていたように、いままで機械がやっていたことを電子制御にするためには、プログラミングしなければなりません。つまり、機械がやっていた良いことと悪いことを、物理の現象として何が起きていたのか。それを理論として把握していないと作り上げられないのです。

 ですからフィーリングも含めた過去の蓄積とその技術の検証が必要になり、それは一朝一夕にはできないものなのです。そのうえで澤瀬さんは、「エンジニアが優秀であれば電動車の方が究極、理想の4WDができると信じています」と語っていました。

 電動車、いわゆるEVになるとどんどん白物家電化していくという見方があります。その一方で制御技術がより精緻になることで、これまでできなかった理想形も実現できてくるのです。

 そのためにはこれまで機械で実現してきた理論を明確に把握し、かつ、それをフィーリングでも解析して来た蓄積が必要となります。それが三菱の強みになるのです。BEVになったとしても、三菱車はファンを虜にさせる走りが体現されていることでしょう。

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