社説:裁判官の罷免 例外であるべき判決だ
京都新聞 / 2024年4月5日 16時5分
交流サイト(SNS)への投稿で殺人事件の遺族を中傷したなどとして訴追された仙台高裁の岡口基一判事に、裁判官弾劾裁判所が罷免の判決を出した。
裁判官の罷免は約11年ぶり、8人目で、SNS投稿など表現行為が理由となったのは初めてだ。
岡口氏は2015年に東京都立高3年の女性が殺害された事件に関する投稿など、計13件で訴追されていた。不適切、不穏当な発言を続けた責任は極めて重い。
国会議員が裁判官を務める弾劾裁判所は、岡口氏の投稿について「著しい非行」と指摘し、表現の自由の範囲を超え、事件遺族の名誉を傷つけたと断じた。
岡口氏は遺族から抗議を受けた後も「遺族は俺を非難するよう東京高裁に洗脳されている」などという投稿を繰り返したことを重大視した。
罷免判決には不服申し立てができず、最低5年間は法曹資格も失う。SNSでの中傷が深刻な社会問題化する中、弾劾裁判所は岡口氏の言動を裁判と裁判所の信頼を損なうものとして、厳しく評価した。
無責任に他人を傷つけるSNS投稿を続けた岡口氏には、猛省が求められよう。一方で表現を巡り立法府が司法に権限を行使した点には疑問も残る。前例とすべきではない。
憲法は個々の裁判官の身分と独立を手厚く保障している。三権分立で国民の代表からなる国会が罷免権限を持つのはもっともだが、行使には抑制的であるべきとの原則も改めて確認したい。
過去の処分理由は、職務上の不正や児童買春、盗撮などだった。元裁判官などからは「職務外の私的言動で過去の事例とは異なる」との声が上がっていた。
最高裁は二度、戒告処分をしたが、過去の事例と異なり罷免を求めなかった。弾劾裁判所はこれらを十分に考慮したのだろうか。
岡口氏は、殺人事件の遺族が起こした民事裁判で名誉毀損を認定され、謝罪に追い込まれた。21年7月からは職務停止となり、退官も表明していた。
今回の罷免判決が、総じて個人の意見表明に消極的な現職裁判官へのさらなる圧力や萎縮につながってはなるまい。
裁判官は「法の番人」として一定の制約を受ける面はあるとしても、SNS時代にあって裁判の公正さを保ちつつ、どこまで自由に発信できるのか。表現の自由の在り方を考える機会としたい。
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