社説:臓器の異種移植 安全性確保へ指針作り急務
京都新聞 / 2024年4月8日 16時0分
国内の深刻な臓器提供者(ドナー)不足を背景に、動物の臓器をヒトに移植する「異種移植」の実用化を目指す動きが広がっている。
臓器移植以外に救命の手段がない場合、従来の生体や脳死の移植を補完し、代替する新たな医療の選択肢になるのか。安全性や効果を十分に検証しながら進めてもらいたい。
京都府立医科大と鹿児島大のグループが今夏にも、遺伝子を改変してヒトへの拒絶反応を起こしにくくしたブタの腎臓を、サルに移植する研究に着手する。術後管理や免疫抑制剤の投与などについての知見を得た上で、数年内のヒトへの移植を視野に入れているという。
異種移植の研究は海外が先行する。
米国では、2022年に重い心臓病の男性にブタの心臓を移植する手術が行われたのに続き、先月には腎不全の男性にブタの腎臓が移植された。いずれもブタの遺伝子を改変した。心臓移植を受けた男性は約2カ月後に亡くなったが、典型的な拒絶反応は認められず、腎移植を受けた男性は順調に回復しているとされる。
臨床応用への課題は少なくない。動物の臓器をヒトの体内に移植することへの不安や拒否感は小さくないだろう。免疫による拒絶反応や感染症のリスクも含めた理解と、合意を得る努力が国や研究者に不可欠だ。
日本は、米国や中国などに比べて研究体制や環境整備が遅れている面が多い。厚生労働省の異種移植に関する安全指針は、動物細胞の移植を想定しており、臓器を丸ごと移植することには対応していない。
日本医療研究開発機構(AMED)が、25年度内のとりまとめを目指して指針案づくりに乗り出している。
一方、臓器移植に動物を用いる研究は、さらに発展する可能性がある。
目的とする臓器の遺伝子をなくした動物の受精卵にヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)を注入し、ヒトの臓器を持つ動物をつくる計画が動く。移植による拒絶反応のリスクを大幅に減らせるとされる。
ただ、「動物とヒトの両方の細胞を持つ動物」を生み出すことへの倫理的な問題が生じる。慎重な議論が求められよう。
臓器を体外で作製して移植する「再生医療」への期待も根強い。ただiPS細胞を使って腎臓などの立体的な臓器をつくる研究は、複雑な構造の再現が難しく、臨床応用にはまだ多くの時間がかかりそうだ。
異種移植への注目は、慢性的なドナー不足と表裏一体だ。国内で移植を受けた人の待機期間は心臓で約3年半、腎臓では約15年と長期に及び、移植を受けられずに亡くなる人も多い。助かる命を救うため、行政の踏み込んだ対策が欠かせない。
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