おおらかな時代だから許された? 刺激的だった、ファミコンの「誌面広告」
マグミクス / 2024年5月5日 21時25分
■見比べると違いが分かる、ファミコン広告
41年の歴史を誇る「ファミリーコンピュータ」(以下、ファミコン)を語るうえで欠かせないのが、ファミコンソフトの販促のために作られた各種広告やTVCMです。
販促ツールがユーザーへ与える印象は、媒体によってさまざまです。紙媒体である誌面広告や店頭チラシの場合、TVCMのように実際のゲーム映像をそのまま差し込むことができません。その代わりに、ひと目でインパクトを与えるようなキャッチフレーズ(売り文句)や、ビジュアルがふんだんに使われていました。
今回は、ファミコンのブーム期に数多く作られたチラシや誌面広告のうち、有名どころからユニークなものまでいくつかご紹介します。
上述の通り、ゲーム作品の販促が目的として作られた広告の場合、どんなゲーム内容かが分かる実際のプレイ画面をはじめ、主役を務めるキャラクターなどのイラストが描かれていることが多くあります。
例えば国民的ゲームキャラクター「マリオ」を大々的にフィーチャーし、全世界で4000万本以上を売り上げた『スーパーマリオブラザーズ』の広告には、おなじみの地上、水中ステージにくわえて、マリオと「クッパ」の対決シーンがゲーム内から抜粋されています。また、広告の上部には「奇想天外。夢の大冒険ゲーム!」と書かれており、「多様なステージを突き進むアドベンチャーゲーム」という側面が押し出されていたこともうかがえます。
また、同じく任天堂から発売されたRPG作品『MOTHER』の広告を見ると、ゲーム史に残る名キャッチコピー「エンディングまで、泣くんじゃない」の文字が書かれています。少年少女が世界の命運を握る同シリーズは、その後スーパーファミコンやゲームボーイアドバンスへプラットフォームを移し、いずれも味わい深い作風で根強く支持されました。
このように、ファミコンソフトの広告は「ゲーム画面+キービジュアル」のセットで作られることが多くありましたが、なかにはパターンを変形させ、キャッチーさに振り切ったものも存在します。その最たる例が、芸能人とのタイアップによって生まれた「タレントゲーム」の誌面広告です。
ファミコン向けに発売されたタレントゲームのなかでも、とりわけ知名度が高い作品といえば、映画監督としても活躍するタレント、ビートたけしさんが手掛けた『たけしの挑戦状』ではないでしょうか。
同作品の広告には「謎を解けるか、1億人」という、プレイヤーに向けた挑戦状とも受け取れるフレーズが書かれています。その言葉通り、攻略本がなければ自力でクリアするのは不可能なほど、難解なゲーム内容で注目を集めました。肝心のプレイ画面はほぼ載っておらず、ビートたけしさんの写真とアヴァンギャルドな背景イラストが印象強い広告となっています。
そのほか、1985年6月に歌手デビューを果たした中山美穂さんのバストアップ写真が華やかな『中山美穂のトキメキハイスクール』、ハードロックバンド「聖飢魔II」の面々が強い存在感を放っている『聖飢魔II 悪魔の逆襲!』……などなど、タレントゲームの広告は題材となっている人物の顔をあしらったものがほとんどでした。ゲーム内容が伝わるかどうかはともかく、インパクトという観点ではそれなりに機能しているといえるでしょう。
ただし、一部には著名人や芸能人でもなく、いったい誰なのか正体が分からない人物を全面的に押し出した広告も見られます。例えばHAL研究所が開発したシューティングゲーム『ガルフォース』の広告は、「ジイさんになるまで、やってなさい」という文言にくわえ、素性が明らかになっていない少年のアップ写真が掲載されています。
『ガルフォース』の広告は数パターン存在し、「別の少年がモデルになったもの」「止まらない! というコピーをそばで見上げる少年」など、制作意図は不明なものの、どれも目を引くデザインになっています。「とりあえず人に注目させる」という点では、こうした広告はある意味で成功パターンと呼べるかもしれませんね。
■他社の作品名を出したセンセーショナルな広告も
「ドラクエ」の名前を使った広告を打ち出した『魍魎戦記MADARA』タイトル画面(コナミ)
最後にご紹介するのは、コナミが世に送り出したRPG『魍魎戦記MADARA』の広告です。同作品はゲーム雑誌「マル勝ファミコン」で連載されたマンガをベースに作られました。発売元のコナミは当時の誌面広告にて、「ドラクエしながら待ってなさい」という驚くべきコピーを掲載しました。
同作品が誕生した1990年3月は、『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』がリリースされてちょうど1か月と少し経った頃です。コナミはすでに大人気RPGシリーズとして地位を確立していた他社の「ドラクエ」シリーズの名前を挙げ、自社の新作RPGのセールスポイントについて言及したわけです。
そのほか誌面広告ではないものの、同じく「ドラクエ」を意識した販促CMを放送した会社もありました。
データイースト(当時)によって生み出された『メタルマックス』は、TVCMにて「竜退治はもう飽きた」というキャッチコピーを披露しました。ナレーションを担当したのは、『ドラえもん』の「ジャイアン(剛田武)」役を演じた故・たてかべ和也さんです。『メタルマックス』は「ドラクエ」の後釜を狙って作られた中世風ファンタジーではなく、荒廃した近未来を舞台に据え、戦車を駆って放浪するという当時としては異色の世界を描き出しました。
今回取り上げたファミコン作品の広告を含め、宣伝文句やイメージビジュアルに面白さが隠れている場合が多々あります。この機会に過去にハマったゲームソフトのパッケージや説明書を読み直し、作品の魅力に改めて思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
(龍田優貴)
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