「食堂というより食卓、おうちの食卓でありたい」元市職員の店主が1人で切り盛り...大型団地にある家庭的な『食堂』 お客さん同士で自然と会話も "憩いの場"の一日に密着
MBSニュース / 2024年3月1日 13時42分
定食メニューは1種類だけ。奈良市の大型団地の敷地内に小さな食堂があります。店主は奈良市の職員を早期退職して第二の人生を歩まれている花村淑子さん。家庭的でとっても温かいほっこりする“団地食堂”の一日を定点観測しました。
市職員時代に高齢者福祉に携わる…「食事を作れない」「食べる場所がない」という声を耳にする
奈良市登美ヶ丘にある中登美第3団地。全部で110棟(2520戸)あり、広さはなんと甲子園球場6個分を誇ります。そんな団地内にある小さな食堂『花ちゃんちのおうちごはん』。どこか“懐かしい”家庭料理が味わえ、オープンから約1年で多くの人の笑顔が溢れる場所となりました。
店主の花村淑子さんは、開店の2時間ほど前からいつも仕込み作業を行います。
(花村淑子さん)「(Q野菜が多い?)そうですね、野菜が多いですね。なかなか外食で野菜ってとれないじゃないですか。なのでできるだけ野菜を使うようにしています」
定食は日替わりメニューの1種類のみ。この日の主菜は、梅風味のてりやきソースで長ネギと鶏モモ肉を炒めた「長ねぎとモモ肉の梅てりやき」、副菜は「菜の花のベーコン炒め」と「ブロッコリーのごま和え」。定食にはこれに、奈良県産のご飯とみそ汁がついてきます。
さらに金曜日限定でメニューに加わるのが、ほうれん草のペーストとトマトとひき肉を使った「若草カレー」です。
このお店ができたのは約1年前。もともと奈良市の職員として働いていた店主の花村さん。高齢者福祉に携わる中で“食事を作れない”“食べる場所がない”という声を耳にし、高齢者の多い団地で気軽に利用できる“食卓”を作りたいと思ったのがきっかけでした。
(花村淑子さん)「団地に住んでいるだけで、『どの棟にお住まいですか?』とか、そういう話題がつながるので、だから団地でしたかった」
店主・花村さんとの「会話」もこの店ならでの魅力
午前11時半、お店のオープンと同時に早速、お客さんがやってきました。
(客)「きょうはカレーある日?」
(花村さん)「カレーある日」
近所の職場で働いているという2人。ときどきランチで利用するそうで、この日は若草カレーを注文。そして、立て続けに、町内会で集まったという5人組もやってきました。
(花村さん)「こんにちは」
(客)「5人や」
(花村さん)「5人?ほんならそこのテーブル2つ使っちゃってください」
5人のみなさん、どんな集まりなのでしょうか?
(客)「町内会のサークルみたいな。同じ年寄りやけど年寄りの面倒を見るために何をしようっていう企画を考える会」
花村さんが注文を取ります。
(客)「5人とも一緒(のメニュー)で」
(花村さん)「A定食ですね。ちょっと待ってくださいね。ありがとうございます。ちょっとお時間ください。1人でやってますんで、すみません」
店内にはカウンター席が6つとテーブル席が2つ。毎日1人でこのお店を切り盛りしています。
(花村さん)「おまたせ~」
(客※カレーを注文)「緑色してるね」
(花村さん)「緑色やで。ほうれん草使ってるから緑なんです」
(客)「おいしいです。家では作れない味です」
(客※定食を注文)「野菜が多いのがいいですね。普段はなかなか野菜がとれないケースが多いから」
(客)「うん、ご飯がおいしい。おいしいね」
(花村さん)「ここで精米してるからそれでおいしく食べていただけるかなと思って」
(客)「精米したてだから余計おいしいんだ」
このような店主の花村さんとの会話もこのお店ならでの魅力です。
午後1時。ほぼ毎日、この時間にご飯を食べにやってくるという男性が来店。
(男性)「おいしいですよ、いつも。年寄りは肉がたくさんの料理は食べられない(Q野菜をおいしく食べられる?)うん」
そんな常連さんがこのお店に通う理由は…
(男性)「花村さんの人徳」
午後2時半すぎとなりました。定食が出されるのは午後2時半までと、午後5時半以降。その合間では、注文を受けてから豆を挽くコーヒーなどのカフェメニューが楽しめます。
“特別な理由”で店に訪れた夫婦
(夫婦)「(Qきょうはどちらから?)京田辺市から」
京都から車に乗ってやってきたというこちらの夫婦。この店に来たのにはある特別な理由がありました。
(妻)「父がここでおいしく(ご飯を)食べてたんだなとか、ジーンと感じますね。温かくておいしいもの、健康にいいものを食べてくれたんだなっていう」
実は父親のジュンさんが約半年前に突如、他界。以前までこの団地に住んでいてお店の常連客でした。
(花村さん)「ごめん、私まだ引きずってるから。ちょっと泣くから…。(Qよく来てくれた人だった?)2022年12月に開店して、1月ぐらいからほぼ毎日。ロックが好きな人で、自分のバンドみたいなものを作ってはって」
そんなジュンさんとの思い出話はつきません。
(花村さん)「一回だけ(お金を)払うのを忘れたことがあって(笑)。それから、注文した時に先に払っておくってなったりとかね」
(妻)「私にもしている話を花ちゃんにもしているのがおもしろくて、家族ぐるみじゃないけど温かい場所がここにあってよかったなって。またゆっくり来ます」
(花村さん)「はーい、また。ありがとうございます」
「食堂というより食卓、おうちの食卓でありたい」
店先の「杉玉」が目印。金土日と週3日だけ、午後からお酒を楽しむことができます。店で出されるのは奈良の地酒。店主の花村さんおすすめのお酒が並びます。
(客)「この場所にもこの団地にも思い入れがあるし、そこにおうちみたいに花ちゃんが(お店を)つくってくれたのがほんまに良かったなと」
(新聞を読む客)「(奈良新聞は)奈良に焦点が当てられていておもしろいですよ」
(客)「(家で)新聞をとってくれませんので、会社で新聞読んでる。1時間ぐらい早く行って会社で読んでますねん」
お客さん同士で自然と会話が生まれます。”団地の食卓”をつくりたい…今では幅広い世代が集まる場所になっています。
(客)「ここでお話できるっていうのがうれしいねん。ホッとして帰る」
(花村淑子さん)「1日ちょっとホッとして、しゃべって、ご飯食べて、それで帰ろうかっていう、食堂というより食卓、おうちの食卓でありたい。いろんな人に支えられて場所ができているなというのをすごく感謝しています」
午後8時、団地食堂の1日が終わりました。
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