<テレビに求められる「発掘する力」>ショーンKの経歴詐称に「ひっかかる方」の問題
メディアゴン / 2016年3月25日 7時30分
高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
* * *
自称・経営コンサルタントのショーン・マクアードル・川上氏の学歴詐称疑惑について、多くの報道が繰り返されている。こんな詐称をすれば仕事にありつけると踏んだ「詐欺もどき」の疑惑なのだろう。
逆に言えば、しゃべる内容が勝負の世界と思いきや、テレビ業界のコメンテーターはこんな学歴偏重の世界ということだ。でも、待てよ1回や2回しゃべるのなら分かるが、何年もテレビやラジオに出続けたのだから、しゃべる内容もたぶん合格なのだろうという気もしてくる。
その辺がよくわからない。あるいはしゃべる内容は不合格だったが経歴がすばらしいから使い続けたのだろうか。
今回の騒動では、詐称した人(ショーンK)への非難ばかりが聞こえてくる。もちろん、もう彼を誰も信用しないだろう。だが一方で、「経歴詐欺にすぐひっかる方」への警鐘は聞こえてこない。これはこれで「危ないコト」なのではないかと思う。オピニオンリーダーはこんなことで作られるのか、と。
「作り手の思う内容をそのまましゃべってくれる人だった」という声も聞こえてくる。それが本当なのか、は当事者ではない限り、わからないだろう。ただ「話している内容について作り手がどう評価していたか」についてはあまりわからないように思う。しゃべる内容なんて関係ない、声もよくて、外国人ぽい人がしゃべれば良い、と言うようなことなのだろうか。
いやはや、こんな考えはいつごろから生まれたのだろうか。
ふと、田中角栄元首相のことを思い出した。高等小学校出身で今太閤ともてはやされ、総理大臣まで上り詰めた人だ。ライバルの福田赳夫さんは東大卒、大蔵省出身の文字通りエリートだ。
田中角栄が、何故ウケたのか。理由はいろいろあるだろうが、まず説得力だったような気がする。そこに「学歴なんてくそ喰らえ」という気分が醸成されて、一時は80%を超えるほどの支持率があった。
今回の一件では、「テレビの役割とはなんだろう?」という疑問もわいてくる。今、テレビ番組はつまらなくなっているとよく言われるが、それはテレビの世界に「突破力のある人」が現れなくなったのかもしれない。
だが、もしかしたらその原因は「発掘力がなくなっているから」ではないかという気がしてくる。発掘する人がいなければ面白い人も埋もれていくからだ。
テレビ業界には今「面白い人を探して抜擢する」という原点が失われているのではないか。これでは次に探すのはまた外国人ぽく、声が良くて、有名な外国の大学出のキャリアがある人になるのではないか。これで良いのか? 本来、第一の役割は話す内容のはずだ。
視聴者は偽者ではなく説得力ある人を待っているのではないか。
どうも最近、思考のパターンが画一化されてきているような気がする。面白い人はどこから出るかわからない。浅草から出るかもしれないし、アメリカからかもしれない。大阪かもしれない。でも、それは法則ではないような気がする。
それにもかかわらず、一度そこから突破力のある人が出ると、執拗に同じパターンを繰り返す。「一度出た場所」に探しに行くのは結構だが、しかしそれが条件にはならない。今、説得力をある人を探すのが一番で、そのためにも発掘力が大事だと思うのだが。
例えば、渥美清という芸人が面白かったから寅さんが生まれたのだ。寅さんが面白かったからといって第二の寅さんを起用しても、第二の渥美清にはならないはずだ。
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