<ジョブズ、本居宣長、ベルクソン>今日を人生の最初の日であるように生きろ
メディアゴン / 2017年1月5日 7時30分
茂木健一郎[脳科学者]
* * *
本居宣長(1730〜1801)が大著『古事記伝』を書き終えたあとに、弟子たちに学問のやり方を説いた『うひ山ぶみ』は、次のような和歌で締めくくられている。
「いかならむうひ山ぶみのあさごろも浅きすそ野のしるべばかりも」
学問をすることを山登りにたとえ、初めて山に入るときのすがすがしい気分の中で、すそ野を歩く時のあさごろもとして、わずかなる標になればよいのだが、という謙虚にもしかし愛情を持った気持ちを、宣長は記しているのである。
「初心忘るべからず」は世阿弥のことだが、初めて何かを始めたときのういういしい気持ち。すべてが新鮮に見える気持ちを忘れてはいけないということは、脳の働きから言っても理にかなったことで、脳は、最初に何かに接したときにもっとも大きく深い活動を見せるのである。
【参考】よりよく生きようと思ったら「良い質問」をすると良い
Nが増えていって、次第に習熟していくと、活動が落ち着いていく。それはそれで意味のあることだが、逆に、最初に接したときの激烈なる反応はなくなっていってしまう。そのかけがえのなさを時々思い出してみることは、大切である。
哲学者ベルクソン(1859〜1941)は、意識の中で不必要なものが無意識化していくと見抜いたが、最初に意識していたことも、慣れていってしまうと無意識の習慣になっていってしまう。それで良い場合もあるけれども、時々意識化することも必要であろう。
宣長が、その長い学者生活の最後に、『うひ山ぶみ』のすがすがしい気持ちに立ち返っていることは、やはりその人間としての力を示しているといえるし、また、そのような気持ちで続けたからこそ、『古事記伝』を完成させることができたのだろう。
本居宣長で有名なのは、若き日に賀茂真淵に会った「松坂の一夜」だが、その時の感激をずっと忘れなかったのだろう。
スティーヴ・ジョブズは、「今日が人生の最後の日」であるように生きろと説いたが、同時に、「人生の最初の日」であるように意識することも、大切であると考えられる。
(本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)
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