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古舘佑太郎 青春群像短編小説 第三回「青春の象徴 恋のすべてvol.2」

NeoL / 2015年12月2日 1時7分

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古舘佑太郎 青春群像短編小説 第三回「青春の象徴 恋のすべてvol.2」

 

 「青春の象徴 恋のすべてvol.2」


心揺さぶる音楽との出会いは、時として魂さえも揺らしてしまう。

「今までどこにいたの?どこで生まれ、どこから来たの?」

と質問をしたくなるほど、突然目の前に現れて、その癖、そこに運命的な何かを感じてしまうから不思議だ。古い曲、懐かしいメロディ、思い出のリリック。彼らとの再会にも勿論、感傷は揺れてしまうものだが、往々にして新しい出会いに勝るものではないだろう。人間関係がまた、そうであるように。

僕ら人間は、バックミラー越しの景色ばかり美しく映り、ずっと眺めていたいと感じてしまうことの多い生き物だ。その中でも僕は、”過去ばかり振り返る”世界選手権では、結構上位に食い込むのではないか、と自負している。何の自慢にもならない勲章だ。しかしながら、どんなに最強と言われた選手だってたまには負ける。そう、前提は時として、ひっくり返るのだ。ここにこそ、僕らが音楽を探し求め、砂漠を旅し続ける理由があるのではないだろうか。

バックミラーに映る世界では、こんな素晴らしい音楽は流れているか?きっと永遠に流れることはない。前に向かって走り始めた今の自分のみこそが与えられた、喉潤う飲み水である、と僕は思う。


 

新たな出会いを求めるからこそ、世界は変わっていくのだ。


 

幼稚園にやっと入園した僕は、年に一度だけお遊戯会にやってくる巨大なウルトラマンの着ぐるみが怖くて小便を垂れ流すこと以外は、順調に生活を送っていた。幼稚園では、姉二人のスパルタのお陰もあって、だいぶマセた4歳児だった。クラスでは、誰よりも誕生日が早かったことも重なり、皆より早く走ることも出来たし、知ってることも多かった。流石に、小鳥小屋で飼われていたインコ同士が喧嘩をして血が流れていたのを目撃して、

「こいつら生理が来たんだ!」

と大声で叫んだときは、その夜、園長先生から家に電話が来た。母親は、電話越しに仕切りに謝っていたが、受話器を置くや否や僕に向かって、

「鳥と人では少し世界が違うのよ。」

と一言僕に伝え、ゲラゲラ笑っていた。怒られなかったので、よくわからないけど僕は喜んだ。



楽しく過ごしていたはずの幼稚園も、年中組に入った秋頃から雲行きが怪しくなってきた。ある日、父親と母親に連れられ、向かった先は都会のど真ん中に位置するちょっとした公園みたいな場所だった。父親に肩車させられて、策越しに覗き込むとクルクルと螺旋階段のように作られた立派な滑り台が見えた。

「あの滑り台で遊びたくないか?」

と父親に質問をされたので、思わず

「遊びたい!」

と答えてしまった。自分で言った後に、一瞬嫌な予感がした。後日気づけば、僕はお受験塾の門をノックするハメとなった。幼稚園では見たこともなかったジェットコースターのような滑り台があるあの場所は、私立の小学校だったのだ。騙された!と叫ぶ暇もなく、僕は塾の玄関先で、嗅いだことのない匂いの香水をプンプンと漂わせるおばちゃんに簡単な面接を受け、あっさりと入塾が決まった。

「奥の部屋でもうお稽古が始まってるから行きましょう。」

と背中を押されて、僕は廊下を不安な気持ちと共に歩き始めた。

ドアを開け放つと、中には15人ほどの同じ年頃の子たちがレッスンに備えて、靴を履いたり、着替えをしていた。瞬間的に、

「帰りたい!」

と叫びそうになったが、それを掻き消すように、香水おばちゃんが大声で叫んだ。

「ボールつきリレーをしましょう!」

どうやら香水おばちゃんは、ここの先生だったようだ。

ボールが二つ用意され、二つのグループに分けられ、15メートルほど離れた場所に二つのコーンが置かれていた。どうやらボールをバウンドしながら、行って返って次の子に渡せばいいらしい。「なんだ、どうやら楽しそうじゃないか」

と内心思ったのも束の間。先生がまた元気よく叫ぶ。

「あなたは運動が出来るって聞いたわよ。こっちのチームのアンカーに決まりね。」

上手く出来ているシステムだ。超ど級の緊張が押し寄せて来たのに、同時褒められている嬉しさからか、僕は何も反論出来ず、断れなかったのだ。



「ピー」

と笛が吹かれたかと思うと、一斉にレースが始まった。やけにボールを地面にぶつける音が大きく耳に響く。次から次へと、見ず知らずの同じ背格好の男女が、黙々とボールを弾き、受け渡している。どうやら、僕らのチームが少し遅れを取っているようだった。あと、二人で出番となったとき、とうとう緊張は吹っ飛び、心の中に闘争心が燃え始めた。

「逆転してやるぞ!」

と覚悟を決めた。とうとう一個前の子がコーナーを曲がり、こちらに向かって走ってきたとき、僕は相手チームのアンカーをチラッと眺めた。

そこには、僕より少しだけ背の高いひょろっとした男の子がいた。顔は、これでもかと云うほど、豆に似ていた。おまけに、周りの子から

「ユウダイ!ユウダイ!」

と熱い声援を受け、まんざらでもない顔で頬を赤く染め、その表情は猿そっくりだった。

「こいつがここの山のボス猿だな」

と、悟った。絶対に負けられない、ともう一度心に決め、僕は少し遅れを取ってボールのバトンを受け取った。そこから、無我夢中にボールを叩きつけ、走った。コーナーを曲がって、とにかく最終ゴールに向かって、ひたと走った。何故か、姉が小学校の研究で飼っていた蚕たちが頭の中でぐるぐると浮かんでいた。繭から必死に躯をもがき出し、蛾となり飛び立って行った、かつての蚕たち。姉二人は気味悪がって、キャーキャーはしゃいでいた。僕は、背中から羽が生えたような錯覚を覚えた。

「もっと速く走れる!」

とそう感じて、たまらくなくなった。初めての感覚だ。

何とかゴールラインにたどり着いたとき、勝敗はほぼ同時だった。いや、完全なる同時と云って言いだろう。会場にいる全ての人間が、そう判断したのだ。良いレースだった。誰一人として、勝敗を決めようとするものはおらず、劇的なデッドヒートと、新人の活躍を喜んだ。とにかく僕らは、周りの子から二人のアンカーに当てられた熱い声援を浴びながら、見つめ合いながら笑った。ただただ、笑い合った。そこには、

「お互いやるじゃないか。よろしく。」

と云う意味合いが込められていた。それぞれがそう感じながらも、僕らは自己紹介も握手もしなかった。何故しないのか、自分でも不思議なほどだった。満足そうな表情を浮かべた、香水おばちゃんが、タイミングを見計らってから、こう叫んだ。

 

「さぁ皆さん。人生は出会いの連続よ!」


 


 


furutachi


古舘佑太郎
ミュージシャン。ロックバンド・The SALOVERSを、2015年3月をもって無期限活動休止とする。現在、ソロ活動を開始。2015年10月21日アルバム「CHIC HACK」を発売。

http://www.youthrecords-specialpage.com

 

illustlation  Tatsuhiro Ide





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http://www.neol.jp/culture/

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