特定秘密保護法は「治安維持法」ではなく「スパイ防止法」である - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2013年12月3日 19時18分
防衛・外交などの「特定秘密」を指定する特定秘密保護法案は衆議院を通過したが、参議院では自民党の石破幹事長の失言を野党が追及し、12月6日に会期末を控えてぎりぎりの駆け引きが続いている。朝日新聞を先頭に、メディアは「特定秘密保護法反対」の大合唱だが、そのほとんどは誤解である。
一番よくある誤解は「戦前の治安維持法のように言論統制を行なう法律だ」というものだ。治安維持法はすべての国民を対象にする法律だったが、特定秘密保護法は「我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定める」(第1条)ものであり、その対象は一般国民ではない。
規制対象になる「特定秘密の取扱者」は主として国家公務員だが、政治家も含まれる。政治家の情報管理はいい加減で、2001年の同時多発テロのときは田中真紀子外相が国防総省の避難先を記者会見でしゃべってしまった。これでは作戦を事前に日本に教えると漏れてしまうので、アメリカが軍事機密を教えてくれないのだ。尖閣諸島をめぐって中国が挑発を繰り返している今、これではいざというとき日米共同作戦が取れない。
「報道の自由が侵害される」というのも誤解である。報道機関は第22条で除外されており、規制対象ではない。特定秘密の取扱者の秘密漏洩を「共謀し、教唆し、又は煽動した者」(第25条)は処罰されるが、これは今の国家公務員法や自衛隊法と同じで、特定秘密保護法で新たに処罰の対象になるわけではない。
外交機密の漏洩で有罪になった事件として有名なのは、1972年の「西山事件」だ。これは沖縄返還の際の密約を毎日新聞の西山太吉記者が社会党に渡した事件だ。これを社会党が国会で質問したとき、その文書を外務省に見せたため、情報源(外務省の局長秘書)が特定され、彼女とともに機密漏洩を「教唆」した罪で西山記者も逮捕された。
この事件は「特定秘密保護法の危険性」の例としてよく出てくるが、逆である。西山記者は現行法で逮捕されたのだから、今でもメディアの機密漏洩は処罰できる。違うのは罰則が国家公務員法や自衛隊法から特定秘密保護法に変わって、最高刑が重くなることぐらいだ。
この事件以降、記者が起訴される事件は日本では起こっていない。2001年に読売新聞が報じた外交機密費流用事件では、外務省の要人外国訪問支援室長が外交機密費7億円以上を私的なギャンブルなどにあてていたことが判明し、彼は詐欺罪で逮捕された。このときも読売が報じた情報は「外交機密」だったが、検察は起訴しなかった。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
特定秘密漏えい、陸・海の自衛官5人を懲戒処分…木原防衛相「極めて深刻に受け止めている」
読売新聞 / 2024年4月26日 12時4分
-
ロシアが政府職員の出国制限強化、機密漏洩を警戒=関係筋
ロイター / 2024年4月19日 10時24分
-
「野放しは異常」外国人パー券購入の〝抜け穴〟許すな! 派閥裏金事件受け政治資金規正法改正、自公で協議開始も抜け落ちた焦点
zakzak by夕刊フジ / 2024年4月17日 15時30分
-
社説:経済安保法案 権利侵害の懸念拭えず
京都新聞 / 2024年4月11日 16時5分
-
「西山事件」記者逮捕は想定外 故横路氏、沖縄密約の公電暴露で
共同通信 / 2024年3月29日 10時29分
ランキング
-
1豪雨被害で死者200人超 アフリカ東部タンザニアなど
共同通信 / 2024年4月26日 9時15分
-
2元大物映画プロデューサーの有罪判決破棄 告発の女優ら激怒 米国
AFPBB News / 2024年4月26日 16時3分
-
3「駐日米大使の醜聞もみ消し」 トランプ氏の公判で証言
共同通信 / 2024年4月26日 15時58分
-
4焦点:トランプ氏政治集会の舞台裏、聴衆はなぜ熱狂するか
ロイター / 2024年4月26日 12時59分
-
5米国、ニジェールから軍撤退を表明(ニジェール、米国、ロシア、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月26日 1時50分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください